イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

あまんちゅ!:第11話『猫と子猫のコト』感想

メソメソ女の涙は海に混じって深く沈むアニメ、今週はダイビング直前猫祭り。
小さな子猫のために奔走する二人を描くことで、すっかりバディになった二人の関係、弱々しかったてこの変化を描く話でした。
緑の中をデートする部分とか、ネコっぽい生き物の細かい世話描写とか、原作を膨らませた描写もよく聞いていて、最終話前のひとまとめとしてなかなか仕上がったエピソードでした。

今回は何か新しい変化が起きる回と言うか、最終話の総決算を前にして、てこの成長を総ざらいしておく回という印象を受けました。
ぴかりに手を引っ張られつつも対等になろうと頑張る関係性ですとか、自分に出来る範囲で必死にやろうという前向きな意思とか、時には迷うことを楽しめる心の余裕とか、伊豆で手に入れたものを一個ずつ確認するようなお話。
しっかり成長し未来に向かって歩みを積み重ねてきたからこそ、一人ぼっちだった過去の自分をネコっぽい生き物に重ね合わせ、救われるのではなく救ってあげる立場に慣れたと考えると、最終話一個前に必要な話ですね。

確認されているのはもう一個あって、バディであるてことぴかりの関係性。
基本的にはぴかりがてこの手を引いて暗黒から連れ出してあげるわけだけども、ぴかりもてこの事は対等な友人だと思っていて、お互いに刺激を受ける関係性。
子猫に対して『私が、この子にとってのピカリになってあげれたら』という言葉をかける当たり、あの黒髪メソメソ女の中でどんだけぴかりがデカい存在なのかはよく分かりますが、同時に手を引いてくれた親友のように誰かを導ける存在になりたいという野望も感じられる。
それは伊豆に来たばかりの、下を向いてばかり居るてこには不可能な大望だったのでしょう。
同時にそういう野望を肯定する仕事、手を握って『出来るよ』と言ってあげる役目は、第4話と同じようにぴかりの特権なわけです。

時間が行き過ぎ経験を積み上げることで、てこ自身も、てこが認識する世界も変わりました。
自分に信を置けるようになれば寄り道を楽しむ余裕も出来てくるわけで、ぴかりとの緑のデートはそこら辺を確認するシーケンスだった気がします。
この時ぴかりのポジティブな認識をもらうだけではなく、てこ自身のポエジーな夢をぴかりに投げかけて話が進んでいくのも、二人の関係が変わったなぁと感じるところ。
ゆっくり一歩ずつ進んできた成果を、どこか過去エピソードの残滓を感じるリフレインを演出に組み込みつつ確認していく回であったと、しみじみ感じ入りました。


同時に新しいものへの出会いというもあって、猫なんだか猫じゃないんだかよく分からない弱い生き物を見つけ、守り、養う経験は、これまでなかったもの。
一年コンビは基本的に二宮姉弟や火鳥先生に見守られ導かれる側なんで、あんま弱いものをケアする立場にはなってないのよね。
そういう話を挟むことで、だんだん見守られる側から見守る側へ、導かれる側から導く側へと変化しつつある二人を描こうというのが、今回のもう一つの狙いなのかもしれません。

まぁ結局、オババや火鳥先生にしっかり見守られてるし、最終的には校長先生の温情で状況が改善して終わってはいるんだけども、それも二人の努力と真心が引き寄せた結果であり、小さな成長は無駄にはならない。
ここら辺の小さくて確実な積み重ねは、このアニメでは非常に大事にされてきたことなので、お姫相手に自発的にやれることをちゃんとやって、結果を手繰り寄せた今回の話は、変わる部分と変わらない部分を明確に描写した、良いまとめだったと思います。
アニメで描写が太って、衣食住から下の世話まできっちり面倒見るてこの姿が丁寧に描かれたの、やっぱ良かったな。

変化と言えば、かつては『過去と内面しか見ず、現在と世界に目を向けない』てこの象徴だった携帯電話が、危機を脱する知識へのアクセス経路として機能していたのは、変化する世界を巧く表現していたと思います。
何度も言いますが根本的にロハスな話なので、テクノロジー排除の方向に話をいくらでも勧めていけるはずなのに、携帯電話は他のアイテムやキャラクターと同じように、良くも悪くもなれる可能性の塊として描かれている。
ぴかりと出会い目を見開いて世界の色を感じるようにした結果、てこの携帯電話は過去を閉じ込めておく檻から、今目の前にいる弱い生き物を守り、育むための知恵を見つける可能性へと変わったわけです。
キャラクター単独の、もしくはキャラクター同士の変化と不変を見せるエピソードで、印象的なフェティッシュの扱いを少し変えて描写し、お話を巧くまとめ上げる補助に使っていたのは、良い演出だなと思いました。


というわけで、伊豆とダイビングと金髪元気少女に出会い導かれて、黒髪少女がどう変わったのか、そしてどう変わらなかったのかが猫を通して見えてくるエピソードとなりました。
これまでのお話を原作の再構築含めてしっかり積み上げてきたからこそ、変化と成長をまとめ上げた今回の話しが、じんわりとした感慨を産んでくれるのがありがたい。
くっそ面倒くさいメソメソ女は相変わらずうぴょうぴょ女が好きすぎて頭おかしいですが、それでも自分の目で見て自分の足で立ち、自分以外の誰かを助けようと頑張ったわけです。
それは、とっても豊かでいいことだなと思います。

今回確かめた成長の息つく先は、やはり海。
アニメに物語を再構築する上で、明確なゴールとして与えられた『ダイビング資格講習』が来週、ついにやってきます。
それを見たときの感慨で、このアニメがどんなお話だったのかが明確に判ると思いますし、それをしみじみと味わうためにこの物語を見守ってきた部分もある。
内気で面倒くさい女の子がどこに辿り着いて、そこからどこに飛び出していくのか。
来週訪れる一時の終わりを名残惜しく感じつつも、僕はとっても楽しみなのです。

初恋モンスター:第12話『ラブノーマル×アブノーマル』感想

年齢という裂け目が愛と欲望とネタを加速させすぎた狂暴なラブ・コメディ、ついに最終回であります。
見ながら思わず『長ッげーよ!!』と突っ込んだ白昼夢で時間を使い、相変わらず気の迷いのド下らない別れ話にほっさんが本気でツッコみ、終わってないけど終わった感じで綺麗に終わりました。
『最終回だからなんか感動的なエピソードでも挟むと思ったか? 俺達は最後までやりきる。シモネタも当社比三倍でぶっ込むし、小学生レベルのうんこちんこ展開も大盛りにするし、カップルのラブコメもちゃんとやる』という、下らなさへのプライドみたいなものがしっかり感じ取れて、俺は大好きな最終回でした。

今週は夏歩の妄想から始まり、話の半分以上それが垂れ流しにされます。
80年台の少女漫画とトレンディードラマにあったようななかったような、極端なおしゃれ系恋愛劇のパロディをいじり倒しつつ、そこには夏帆の深層心理が思いっきり反映されている。
というか、良い子ちゃんの仮面を取り外した後の、剥き出しの欲望が露出している。

イケメンどもが自分の価値を高く認め、トロフィーのように己を取り合いつつ、誰もが自分に夢中で自分を愛してくれる世界。
かなでは自分と同い年の『普通の青年』で、しかも社会的に認められたアイドルで、耳障りの良い寝言を垂れ流しながら、自分だけをまっすぐ見つめて恋愛してくれる世界。
意味わかんない小学生ネタで本気をスカされることもないし、暴力的にならない程度に性欲を滾らせてくれるし、でも世界中の男はみんな紳士的で私をチヤホヤしてくれる世界。
腐れ変態やイジワル人間やウジウジヘタレも、みーんな話が通じる爽やかイケメンになって、自分勝手にネタ垂れ流しになんてしない世界。
まぁあの腐れトンチキ状況に置かれたら都合のいい世界も夢想したくなるだろうが、それにしたってド直球にリビドー全開すぎて、この主人公ほんといい性格しているなと感心すらした。

回想シーンがパロディしている恋愛フィクションそれ自体が、身勝手な欲望を全面的に是認し、世界律を捻じ曲げながら欲望に奉仕するジャンルではあるので、あの話は夏帆の深層心理だけが表面化しているわけではない。
最近だと"Dance with Devils"とかも、『世界で一番お姫様、そんな私を紳士的かつちょっとだけワイルドでイジワルに激しく求めて! 恋愛というバトルフィールドで奪い合う価値があると証明して!! 激しく求めつつ拒絶されたら素直に引き下がって!!!』という剥き出しの欲望を加速する構造していたので、そこら辺を茶化してはいるのだろう。
ちなみにそういう欲望に奉仕することもフィクションの立派な仕事だと思うし、そういうフィクションが戯画化してくれる欲望の構図を見守るのも好きなので、来期そういうアニメねぇかなって気持ちはムンムンです。
妄想の形で示された『ノーマル』でありたいという剥き出しの欲求と、『アブノーマル』な現実とのギャップに向かい合い、夏歩が自分の本音と対話し始めたら面白そうなんだが、アニメはそこまでおいきれないのが惜しいね。


夏歩の都合の良い妄想の中で展開されていた世界と、夢から覚めて突きつけられた世界は全く違っています。
小学生どもは話し聞かずに大暴れだし、変態たちは自分の欲望のままにノーブレーキで走り回るし、まともそうに思える連中も性格ひねくれまくりだし、夏歩が望む少女漫画のようなキラキラな要素は、まったくもって存在しない。
では夏歩は"初恋モンスター"の世界全てが消え去って、妄想していた世界が現実になればいいと思っているかと言えば、必ずしもそうではないと思うわけです。

大塚明夫の声優力でネタとして押し切っているものの、どんちき騒がしいコメディ世界を夏歩は結構楽しんでいて、それはそれで良いものだと、やっぱちゃんと思っている。
最後に作品全体を肯定するモノローグが入るのは、なんとなーく収まりが良いのでお約束ではあるのだけれども、お話をまとめるポーズの要素は含みつつ、夏歩の心情に寄せたシーンでもあったかなと、僕は思った。
まぁ真っ正面から夏歩の気持ちを扱って、奏がそれを受け取っちゃうとお話終わっちゃうからな……茶化せる間は全開で茶化さないと世界が壊れちゃうってのは、ラブコメの難しいところだ。

夢の世界で自分の本音と向き合ったのか、これまでヒロインっ面で本音を隠していた夏歩が、作品全体に延々ツッコミを入れまくるシーンも、いい具合の横殴りで気持ちが良かった。
まぁこのアニメ根本的にボケっぱなしだったからな……夏歩が本音を言わないことで笑いの形が成立していた部分があるので、剥き出しのツッコミを叩きつけ、視聴者の気持ちを言葉にしてくれたのは最終話だから許される、ってのはあるだろう。
しかし己を隠さず叩きつけることで、奏とのデコボコした関係も良くなっていくはずなので、ネタでもなんでも本音を吐露したのは良かったと思う……もう最終回じゃんッ!!

前回も言ったけれども、色々積み上げた要素が花を咲かせる前に放送期間が終わってしまうのは本当にもったいなくて、奏相手に我慢するのを止めた夏歩がどう変化し、それを受けて奏がどう変わっていくかは見たかった。
トンチキ人間は周囲の変化に反応せず、己を貫くからこそ極端な環境はギャグたり得てるわけだけど、同時にこのお話はストーリーが蓄積してキャラが変わっていくことにそれなりに素直で、作品を成り立たせる変化と固着の微妙なバランス取り自体を楽しんでいた感じもあった。
それが行き着く先を見たかったわけだが、アニメではそれは描ききれないわけで、アニメ見てこのお話が好きになった視聴者としては原作読もうと思わされました。


そんなわけで、作品世界はまだまだ続くけれども、視聴者がアニメという形で覗き見れるのはここまでッ! という終わり方でした。
話数が決まっている以上終わりは必ずやってくるわけで、最後までアホバカトンチキラブコメとしての火力を失うこと無く、お行儀悪く全開で終わってくれたのは、非常に良かったです。
ローラースケートの絶妙な古臭い感じと、何の中身もないフワッとしたジャンプ対決(お菓子付き)の頭の悪さとか、ホント最高だった。

キチで走り抜けるスピードを緩めること無く、『小学生男子と高校生の恋愛』というもう一つの軸も大事にして、夏歩の欲望と奏の無垢の衝突もちゃんと描いていたのも、とても良かった。
16歳の世界と10歳の世界はぜんぜん違うもので、そこがすれ違うことで生まれる軋みを、ネタ交えつつちゃんと掘っていたこと、軋みが二人に与える痛みも描いていたのは、好きになれるポイントでした。
トンチキ世界を楽しく描きつつも、そこでうごめく感情がかなりリアルだったのは、お話の緩急という意味でもキャラクターを記号にしないという意味でも、凄く好きなスタンスでした。

これから彼女たちの恋がどこに向かっていくのか、興味は尽きないところですが、一旦は幕引きです。
ネタの火力と不思議な誠実さを両立させた、面白いアニメだったなぁ。
初恋モンスター、とても面白かったです、ありがとうございました。

91Days:第10話『誠実の証』感想

法無き街に天使の止まり木はないアニメ、今週は不帰点。
押し殺していた情をむき出しに、コルテオとつかの間の日常を過ごすアヴィリオ。
しかし一度足を踏み入れた暴力の泥沼は彼の足を捕まえて離さず、復讐者として本懐を果たすためには、己の手でコルテオを殺す以外に証が立てられない状況に追い込まれる。
死ぬことでしか誠実の証を立てられない兄弟の悲哀と、そこに絡みつくマフィアたちの愛憎が複雑な色合いを深め、破局への道がより鮮明になる回でした。
いやー、辛い。辛いのに面白いし、辛いのが面白いね。

復讐という明確な目標を抱いて『マフィア』に染まったアヴィリオと、それを嫌いつつアヴィリオの手を取って進んできたコルテオ
二人の道が交わったり離れたり、また交わったりする軌跡は、ネロとアヴィリオの関係と同じくらいこのお話の中心にあり続けました。
今回はその始末がつく話であり、ネロの兄弟を謀殺した因果を、血の繋がらない兄弟を自ら殺すという応報で受ける決着となりました。
良かったなアヴィリオ、お前も自分の利益のためには『家族』をぶっ殺せる『マフィア』に、本格的に仲間入りだぞ……というには、二人の絆はあまりにも哀切に過ぎるな。

コルテオはアヴィリオが捨てたはずの真っ当な暮らしというか、殺すの殺さないのしかない『マフィア』の生き方から離れた、穏やかな生活を象徴していたと思います。
クズ人間になって戻ってきた兄弟分のために、嫌いな『マフィア』のやり方に肩入れして、飲めない酒を万能の通行手形として差し出し、あまりに人生がこじれた結果人殺しになって、殺されて死んでしまう。
コルテオの人生をアヴィリオが捻り狂わせることで、彼がもう引き返せない道の真っ只中にいて、コルテオを手に掛けることで、そこからもう返ってくることもないということが、視聴者によく伝わる使い方を完遂したなぁと思います。

ではコルテオは一方的な愛を捧げた犠牲者なのかというと、アヴィリオもクソ不器用な形で兄弟を愛していて、札束で頬ぶっ叩く形で『マフィア』から遠く離れた場所に逃げろと伝えようとはしていた。
家族を殺されたときに、盗んだ財布のように空っぽになってしまった男にとっては、もうそういう不器用な伝え方しかできなかったしけども、どうしようもなく復讐に巻き込んでしまった兄弟を、アンジェロは未だに愛してはいたのです。
それで伝わるものなんて何にもなくて、コルテオはネロの情報は売るわファンゴは殺すわ、最悪の方向に転がるしかなかったけども、コルテオへの兄弟愛はアヴィリオがアンジェロである最後から二つ目の証明ではあった。

それを自分の手で摘んでしまった以上、彼の人間の証明は『復讐』しか残っていないし、誰も喜ばずあまりに大きな犠牲を強いる行為を完遂し、家族の仇を皆殺しにする以外、本当に生きる価値はなくなってしまった。
自分で自分の兄弟を殺してしまったアヴィリオ自身にも、そのルールは適応されるわけで、彼が死ぬ終わり方が運命的必然として納得されるために、丁寧に逃げ道を塞いだ回でした。
あまりにも残忍な選択肢なんだけども、それは兄に弟を、妻に夫を殺させ暗い喜悦に浸っていたアヴィリオ自身がやってきたことへの報いでもあって、どこにも正解がないどん詰まり感がどんどん加速しているなぁ。
『俺には復讐以外何もない』という、復讐モノではよく聞くセリフを、キャラクターにも視聴者にもここまでしっかり実感させてくれるのは、ちょっと凄いね……何しろ自分の命が無いことが、今回確定してしまったからね。


『空疎さを強調するために、人間的な暖かさをちゃんと描く』というのはこのアニメに特徴的な手法で、それは第4話で作った抜けた空気がネロとアヴィリオの関係を支える土台になっていることからも、見て取れます。
今回コルテオと過ごした『オメーら新婚さんかよ! このままクソマフィアの生き方も復讐も捨てて、兄弟と新しい暮らしでいいだろ!!』と思わず願ってしまう穏やかな日々も、その後の悲劇を引き立てる良いスパイスでした。
『新しい弟』として近づきつつ、ネロの盃は絶対口にしなかったのに、コルテオ相手には優しい表情も見せるしメシも一緒に食うもんな……。
そういうメタ的な仕事だけではなく、一つのカップを分け合い、荒んだ生活を一歩一歩立て直していく生活描写にはしっかり血が通っていて、『こっちで暮らせないかなぁ……』という気持ちをコルテオと共有できる、良いシーンだった。

ずっと『マフィアが嫌い』だったコルテオにとって、『ロウレス・ヘヴン』は兄弟の本懐を遂げさせるために必要な暗黒街のパスポートであり、同時に自分とアヴィリオが『マフィア』であり続ける足かせでもあります。
慎ましくも暖かな日々の果てにコルテオが『ロウレス・ヘヴン』を河に投げ捨てるのは、『マフィア』という生き方に決別する決意であり、全てを水に流し産湯に浸かって真っ当な暮らしに生まれ直したい、切なる願いの顕れでもあります。
なのでみすぼらしい下宿で二人は『酒』を飲まないし、前回見せた荒んだ表情をアヴィリオも引っ込め、幸せだった時代に戻る。
しかし同時にアヴィリオは、『ロウレス・ヘヴン』を後生大事に抱えてシカゴに渡り、ネロの代理人という『マフィア』の仕事を果たしているわけで、最後の最後まで混じり合わない故に、誰よりも兄弟として繋がった二人だったなぁと思います。

コルテオとの生活はアヴィリオにとって、失ってしまった『家族』の暖かな思い出の残滓であり、もしかしたらそこに戻れるかもしれないという、甘い夢だった。
しかしコルテオが兄弟を護るという強い決意を込め、ロウレスに呼び戻されてしまった結果、その夢を己の手で砕いて、もう後戻りが聞かない復讐の中に己を投げ込む、救いのない道が確定してしまいます。
その無残な道は残忍さだけではなく、復讐の本懐を遂げさせようというコルテオの兄弟愛でも舗装されていて、彼の血を踏みにじることでしか、アヴィリオはもう己ではいられない。
『家族』の温もりを略奪されて復讐鬼になった男が、もう一度温もりを夢見ることで逆に、復讐以外の生き方がもう残っていないことを証明されるのは、無残で鮮明な見せ方だったと思います。


そんな別れを裏から操ったのが、『四人目』であることが確定したガンゾの叔父貴。
アヴィリオを呼び込んだ理由も判りましたが、まぁストレートに欲得沙汰の判りやすいクズであり、『あ、死ぬしか無いな……』という予感がビンビンに高まる展開でした。
もともと仇だし、『家族』のために殺してきた男に『家族』を殺させた以上、もうアヴィリオを言いようには使えないよなぁ……ガラッシア皆殺しにして手に入れた街を楽しむためには生き残らなきゃいけないけど、アヴィリオは生きている理由も価値も、何もかも無いからなぁ。
しかし叔父貴がクソ陰謀を企んでくれないと話は始まってないし、アヴィリオの逃げ道を効果的に切り落としてクライマックスを加速させることもできなかったわけで、いい仕事はしている。
存分に死んでくれ。

個人的にはこっちが『四人目』だと思ってたバルベロは、眼鏡仲間に『ネロの弟って居場所を奪われそうで嫉妬してんだろ?』と本心を見抜かれ、怒りのビンタで大暴れだった。
バルベロの猜疑もネロへの愛情の裏返しなわけで、このアニメは基本的に愛憎の背中合わせで作られてるね、やっぱ。
これまでスカシた切れ者顔ばっかりが目立ってきたキャラなんで、ここで痛いところ突っつかれて地金が見えることで、感情の濃い物語で目立つ資格を、ようやく手に入れた感じもあります。
しかしゴミクズマフィアなのは間違いないし、お前の猜疑がなけりゃアヴィリオとコルテオが逃げ出す余地もあったかもなので、存分に死んでくれ。

そしてドンという立場を正式に継承し、腹心の部下の疑惑を銃弾ではらさせたネロ。
前回コルテオへの心配が迸った結果、思いっきり隙を見せたアヴィリオに疑念を持ったから、信じたい気持ちも込めて『マフィア』式のケジメを付けさせたのかねぇ……思いっきり逆効果ではあったが、そもそも出会いからして仇討ちなんだから、最初からこうなるしかなかった関係とも言える。
第4話とか前回の『俺は殺せなかった……』という告白とか、アヴィリオとネロの軌跡が近づく瞬間はこれまで幾度かあったんですが、今回『家族』を殺させられた結果、二人の道は絶対に交わらないと確信させられました。
ココらへんをスパッとさせるためにも、コルテオに散々ヒロイン力高い動きをさせた上で、最大に最悪な結末を迎えさせる必要があったのは判る……判るが、ホントひどいよ……。
お互い『弟』を殺し殺されした同士になった以上、二人の『兄』は血で決着つけるしかねぇもんな……『殺し』に付きまとうカルマの濃さはこのアニメがずーっと描いてきたものなんで、それが最後の引き金になるのは凄く統一感があって良いのよ、ホント。


愛ゆえに巻き込まれ、愛ゆえに命を使って真の証を打ち立てた青年が、兄弟の手によって夢と命を打ちくだされるお話でした。
たくさんの人間の命を弄び、兄弟に兄弟を殺させてきたアヴィリオとしては、もう引き返す道はない。
一方通行の地獄への扉を開ける鍵として、コルテオの命はあまりにも有効な演出すぎて、製作者達が好きすぎて憎くなるほどでした。

『マフィア』のやり方じゃない、暖かで幸せで真っ当な平穏という幻。
それを砕かれたことで復讐者になった男が、クライマックス直前でもう一度『家族』を奪われる展開は、お話が予測される悲劇に突き進むしか無い説得力をこれ以上無いほど高めていて、震えが来るほどです。
おあつらえ向きに仇どもを詰め込める処刑劇場も完成しますし、この長くて重くて血塗れの愛憎劇も、いよいよ終りが見えてきました。
ここまで見ちまったんなら、もう見届けるしかねぇ、頼むから見させてくれ。
そういう気持ちで、来週を待ちます。

B-PROJECT 鼓動*アンビシャス:第11話『BEYOND YOU』

ファンタジー分が適度に混入した男性アイドルお仕事アニメ、最後の嵐が吹き荒れる第11話。
前回意味深に舞台から離れた夜叉丸先輩は今回も引き続き不在であり、その真空がメンバーに試練を持ってくるお話でした。
裁判所に持ち込めば確実に勝てる案件が何個か発生している気がするが、法廷証言で時間取るより新曲作ったほうが面白いし、せっかくのピンチは有効活用しないとだしな。
ここら辺の『ドラマには壁が必要だから、物語的整地など考えず素材でお出しする』感じは、やっぱプリリズっぽいなと思った。

思いがけず夜叉丸先輩が台風の目になる展開だが、不穏な動きの中心がアイドルだと誰かが悪役にならざるを得ないわけで、主役でもヒロインでもない立場の夜叉先輩に、台風の目をやってもらうのは賢いと思う。
曲をパクられたり事務所が移転したり、現象だけがどんどん先に進んで、夜叉丸先輩直接の出番が無いことで、後々のリカバリーをやりやすくもしてるしね。
優秀な裏方が消えることで、その穴を埋めるべく主人公にも仕事が回ってきて存在意義が高まってるわけで、悪くはない展開だと思う。

しかしインパクトを狙いすぎたのか、起きていることが相当に洒落にならないドブ臭さなわけだが、どういう理由付けで夜叉丸さんを救済するんだろうか……。
一切救済せず超絶ゴミクズ人間でしたでも良いんだが、なんかフワッとしたコメディチックな理由付けて、スカして夜叉丸さん助ける展開は面白くねーんで勘弁な。
こうして先が気になっているんだから、フックとしては成功してるんだろうね。


夜叉丸さんの不在と、それを埋めるために走り回るつばさちゃんが目立っていたのに対し、アイドルどもはわりと居るだけだった。
今回はステージに立つ側ではなく、ステージを作る側が主役の話なので、そんなに目立てる展開でもないわけだが、自発的な行動が少なく、状況にコクコク頷きながら対応するばっかりなのは、意志が感じられずもったいない気がする。
今回タメた分、来週以降のクライマックスでは思う存分目立ってほしいもんだ。

そんな中王茶利は肌色サービスを担当し、ラッキースケベを演出し、相変わらずの便利な鬼札っぷりだった。
Bプロは男性アイドルの男芸者っぷりから逃げず、スンゴイ勢いで媚びた行動取らせるのが、僕は結構好きです。
ぶっちゃけ他ん所の作画はヘロヘロなのに、シャワーシーンはきっちり仕上げる所とか、剥き出しの欲望に奉仕する根性を強く感じる。

性別逆転したギャルゲーみたいなザックリしたサービスだが、女の人がザックリした性差別的搾取をフィクションで堪能しちゃ悪いって法律、何処にもねぇしな。
TV放送されるアニメーションでそういう欲望を、残り香程度でも嗅げるのは個人的興味として面白いのよ……転倒の快楽というか。
そういう歪みを背負ってもろ肌晒してくれる王茶利は、安全地帯でボーっとしてない、仕事するキャラに仕上がっていて、やっぱ僕好きです。


前回に引き続き、夜叉丸さんを真ん中に据えているのに彼が不在なことで真空が生まれ、それが引き起こした嵐にアイドルとつばさちゃんが対応していく話でした。
盛るべきところにはガンッガン盛り付けるこのアニメらしく、芸能界の銭ゲバ力が腐臭を放つ展開になってきましたが、その裏にいるだろう夜叉丸さんは一体何を考えているのか。
事務所移籍というさらなる嵐に巻き込まれたアイドルたちは、窮地を脱するためにどう力を振り絞るのか。
ドームライブというクライマックスが迫るBプロ、さてはてどうなるんでしょうね。

ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない:第25話『アトム・ハート・ファーザー』感想

輝く愛のダイヤモンドはどす黒い血で飾られているアニメ、今週は吉良吉影の奇妙な愛情。
死んだ後も悪霊となって息子を守る吉良パパとJホラー大決戦して、川尻浩作となった吉良が新しい家庭でまた目立つお話でした。
他人を食い殺して恥じないサイコキラーとしての顔、それでも『家族』を手に入れ愛されてしまう人間としての顔。
アニメになって各話ごとの演出が冴えているおかげで、吉良の複雑な表情(それはつまり、四部の差狗賓的カラーそのものでもある)を再実感出来るのは、本当に面白いなぁ。

つーわけで、今週は元吉良・現川尻本人ではなく周囲の人を描くことで、彼の複雑な人となりを描いていくエピソードとなりました。
吉良の本性を知ってなお、肉体が滅んでなお息子を愛し守り続ける吉廣の狂った愛情が、冴え渡るホラー感と噛み合って非常にグッド。
四部は『恐怖』の様々な描き方を非常に丁寧にやってくれていて、毎回新鮮な気持ちで楽しめるのありがたいよなぁ。

今回も『誰も居ないはずの家』『写真の中の殺人者』という道具立てを最大限利用し、仗助達『正義』の側からみた『怪物』としての吉廣が、鮮烈に描かれていました。
二次元人であり死人でもある吉廣は、『生者』の領域を守ろうとする仗助たちとは文字通り次元が違う存在であり、それが現実を侵食し抵抗困難な殺意を向けてくる恐怖が、良いショックを込めて展開していた。
いかにも何かが潜んでいそうな『影』を強調しながら描き、最高のタイミングで『怪物』が出て来る間合いとタイミングの巧さは、雰囲気の出し方含めて最高にJホラーしてた。
ジョジョはもともと色々な要素を含んでいるけども、キャラクターと場面に応じてジャンルを変え、適切に『恐怖』を強調してくれる四部アニメは親切なアニメだ。

吉廣の『襲い掛かってくる恐怖』だけではなく、今回の話しが探索である以上『出会ってしまう恐怖』も見事に演出されていました。
『切り落とされた爪』という、ひどく個人的で他人には不衛生なアイテムを上手く使って、吉良を直接登場させることなくそのおぞましさをしっかり伝える演出は、やっぱり鋭い。
『殺しの体調』という言葉一つで、吉良がどれだけ日常生活と相容れることのない、異常な殺人者であるかよーく判るもんな。
こういう補強をしっかりやることで、『こいつをぶっ倒せば話は終わるし、終わらせなきゃいけない』と思えるラスボスが生まれるんだから、インパクトの有るイベントをしっかり繋げていくのは大事だ。

インパクトと言えば、二次元人間VSスタンド使いも知略とインチキ攻撃が相俟ったナイスな戦いで、手に汗握らされました。
顔面寸断寸前なのに冷静にヒール指示を出したり、『写真』という異質な能力の弱点を即座に見切り、必要な対応を最速でぶっ込む承太郎のクールさが、異質な能力者相手に際立ってました。
"アトム・ハート・ファーザー"は『包丁を持ち、こちらを睨みながら体育座りしている老人』っていうヴィジュアルがとにかく強い。
その上で、『写真』という自分の土俵を最大限活かし、小狡い知略を使ってしぶとく生き延びるタフさもあって、良い悪役だなと再確認しました。
あと仗助くんはあれだな、甥っ子と一緒にいると精神年齢が下がるな……可愛いから良いけど。


仗助たちから見た吉良の『異常さ』と同時に、吉良親子が暮らす『日常』の姿も今回は描かれていて、その対比がなかなか面白かったです。
仗助にとっては殺人鬼の手がかりを探す『探索場所』でしかない吉良家は、親子にとっては(狂っているとは言え)『日常』生活の場所であり、それなりに温かい思い出もあったりする。
吉廣が襲撃をかけてくるのも、親としての情愛ゆえのものであり、そこには人間味のない『怪物』ではなく、むしろあまりに人間的なカルマが渦を巻いているわけです。

しかし吉良がやっていることは無差別殺人だし、親父もその幇助に駆けずり回っているゴミなのは間違いがなくて、千葉繁がエモく涙を絞り出した後、地面には鳥のクソが撒き散らされる。
吉良が作り出す無残な死体と、それが"キラークイーン"で証拠隠滅されてしまった後の虚無というのは、そこに人間的な感情があろうとなかろうと許されるものではないという、冷静で倫理的な視線がそこにはあります。
しかし同時に、弱さや狂気や殺意もまた一種の人間味(ヒューマニティ)であることからこのお話は逃げないし、『怪物』と割り切って拒絶することの出来ない、親もいれば妻もいる殺人者の不愉快な体温を、しっかり描いてきます。

この複雑な多面性が吉良吉影の魅力であり、第四部の魅力でもある気がする。
もともとジョジョは『悪役』に人間的な表情をよく付ける作品だけど、『日常』を舞台にしているせいか、第4部は特にそこら辺の陰影が濃いなぁと、亜に目を見ながらよく感じます。
それは作品のエッセンスを製作者がクリアに理解し、どのようにアニメーションを組み立てればそれが視聴者に伝わるか、よく考えてしっかり実現しているからでしょう。
原作の魅力を引き出すというのは、一つのカットもなく映像を組み立てることでも、インパクトのある名言だけを目立たせることでもないのだなぁと、四部アニメ見てるとつくづく思う。


Bパートの川尻家の日常も、『怪物』の人間的側面を強調するエピソードであり、同時にその異常性も自動的に切り取られてました。
『静かに暮らしたい』と口にはしていても、誰かに巻けたり侮られたりするのが大嫌いな吉良は、『川尻浩作』がけしてやらない美味しい料理をしのぶさんに食べさせ、『生まれ変わった、新しいい男』として妻を惚れさせてしまう。
隠遁生活しているはずなのに、オスとしての引力でも負けたくない吉良の性根がよく出ていて、面白いやらおぞましいやら、複雑な楽しさでした。

四部アニメは女の子がかわいくて、しのぶさんも最高のチョロ蔵ヒロインとしていい仕上がりになってましたが、よく考えると『恋愛がしたかった』とは最初から言ってるんだよね。
どうにかして『川尻浩作』を愛したいと願っていたしのぶさんにとって、性的魅力含めて能力が高い吉良は『愛すことが出来る』存在であり、水を欲しがっていた花に吉良が潤いを与えた状況というか。
しかしそれも"キラークイーン"による殺人、"シンデレラ"による入れ替わりの強制という、邪悪な『非日常』があって初めて生まれるロマンスなわけで、両手を上げておめでとうとは、とても言えない。
こういうところでも吉良の人間味というのは複雑な色合いを持っていて、それは街の影に隠れてスタンド殺人を繰り返す行為の闇を、けして忘れないために大事なことなんでしょう。


吉廣という『過去』と、川尻浩作として手に入れた新しい『現在』。
何の感情もなく人を狩る『怪物』としての表情と、父に、妻に愛される『人間』としての体温。
吉良吉影を照らす様々な光源が複雑に交差し、恐るべきラスボスと作品全体の陰影を、くっきり見せてくれるエピソードでした。

こういう複雑な描き方をすると、『んで結局、コイツはどういうやつなの? 好けばいいの、嫌えばいいの?』と迷ってしまうことがあるんだけど、第4部は『人間爆弾にしてぶっ殺すことが、良いことなわきゃねぇだろ』という芯の強い答えをブラさないので、最終的な評価が安定するのがありがたいね。
その上で、『しかしクソサイコの殺人鬼でも人間なのであって、色々ある。むしろ人間だからこそ、その殺人はおぞましい』と掘り進めていく深みを、今回はよく感じられました。
吉良の人間的(そして非人間的)面白さが四部全体を牽引してるのは、確実にあるよなぁ……アニメはその複雑な表情しっかり切り取っていて、やっぱ最高です。

んで来週は、僕も君も大好き!! 露伴ちゃん VS ジャンケン小僧!!
『よくよく考えると意味が分からんが、その『覚悟』と『凄み』で異常な没入感を生み出すセリフ』というジョジョの魅力が、最大級に高まっているエピソードだと思います。
既に露伴にドンピシャな演技を多数見せている櫻井さんと、まだ見ぬジャンケン小僧CVとの競演がどうなるかもむっちゃ楽しみで、待ちきれねぇぜ来週……!
やっぱジョジョアニメ、おもしれぇなあマジよー。