イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

チア男子:第7話『歪み』感想

情熱を燃やして前に進む青春レールウェイ物語、人数増えて最初の難関はガチ勢VSエンジョイ勢。
真面目過ぎて真っ直ぐぶち当たるしか出来ない尚史が、出来ない・やらない・やれない連中の事情を考えずに大暴走する回でした。
ミゾ考案のクリスマス・パーティーで上手くいくかなー、と思ったのもつかの間、事態は最悪の方向に転がりだして、下げ調子のまま引く形に。
今回表面化した問題点が解決するのは、来週以降になりそうですね。

と言うわけで、組織が大きくなればいろんな考えの連中が集まり、目的が違えば衝突も起きる、というお話。
ガチ勢がやる気を尖らせすぎて場の空気が悪くなっていく感じは『チアにかぎらずこういうの、あるわ~』という感じで、生々しいがゆえに早く解決して欲しくてしょうがなかったです。
そこで大事になってくるのが、能力や価値観の違いを受け入れられる寛容さなんですけども、尚史はとにかく余裕が無い。
チアに高い理想を持っているからなのか、楽しさを犠牲にしても結果を出したがるし、それを自分以外にも適応する結果、『出来ない』連中や『やれない』連中を拒絶する形になっちゃってます。
楽しくやり過ぎて『出来ない』ではなく『やらない』レベルになってるタケルも、尚史の理想に歩み寄らなさすぎだけど……そういう意味じゃ、倒立できるようになったサクはえらいね。

第1部でもトンやミゾといった『出来ない』連中はいたんですが、人数が少ないからか目標は統一されていて、『出来る』奴との溝はお互い歩み寄ることで埋まっていった。
しかし人間必ずしも適切な距離感を持っている奴ばかりではないわけで、組織としてスポーツをやっていく以上、能力や目標を的確に調整し、人間関係がスムーズに流れるよう対応するのも、先駆者の仕事になってきます。
当事者間の問題だけではなく、先輩・後輩や組織論に拡大した話になったのは、なかなか面白い運び方だと思いました。

旧メンバーが尚史の悪しきガチっぷりに悩んでいるシーンは多数描かれていますが、チアに一日の長はあっても組織運営は初めてな彼らは、なかなか有効な手が打てません。
ミゾ企画のクリスマス・パーティーで親睦が深まると思いきや、問題の根本に分け入らない表面的解決策では、事態を悪化させるだけでした。
新メンバーが個人的問題に悩む中で、そういうものを一回乗り越えた旧メンバーは組織的問題に悩むという、ちと重層的な構造になっとるわけですね。


しかし個人が集まって組織を作り、組織は個人で出来ている以上、2つの問題は同根です。
尚史が『出来ない』『やれない』『やらない』他人を受け入れられないのは何故か、彼の人格を支える根っこを掘り返さないと、問題は解決しない。
尚史がBREAKERSを辞めて解決ってルートもありますが、まぁそれは夢がなさすぎて、正当スポ根としては選べないチョイスでしょう。
予告を見るだに『最悪の選択肢』として顔を出すけど、選ばない感じかな?

チア以外の生活も重視しているバイト勢や、自分なりの努力を積み重ねて倒立できるようになったサクはさておき、自分の意志で『やらない』から『出来ない』タケルに尚史が噛みつくのは、無理からぬところです。
尚史の過剰なガチっぷりも組織を壊すけど、全国大会という公共の場で、厳しく審査されることを目標にしている以上、ただ緩いだけのタケルのやり方も、BREAKERSに相応しいとはいえない。
いろんな考えを持つ連中が寄り集まる組織には、『我々に相応しい目標とは何か』というヴィジョンを共有し、それに基いて個人の意志を調整する必要があるのに、旧メンバーは組織運営に不慣れ過ぎて、共有可能な目標を明確化できていない。
やっぱり今回表面化した問題は、個人の問題であると同時に組織の問題でもあり、ハル達先輩が道を示さなければ解決しないのでしょう。

ハル達が組織運営の素人な以上、誰かが指導してやるのが手っ取り早い解決ではありますが、高城コーチはあんまり出張ってきません。
あくまでチアーの技術を指導領域と定めているのか、自分で気付くのを待っているのか、ここで答えを言ってしまったら『チア男子』ではなく『チア指導者の話』になってしまうからか。
物語的な理由はさておき、大人の支援が期待できない以上、先輩のド素人であるハル達が自分で気付くしかないんだけども……予告を見るだに、ハルが尚史個人に分け入っていって、問題を解決する感じかな?
衝突している個人に踏み込むことで問題が解決し、それが形式を整える足場になるって方法も全然OKだと思うので、巧く収めて欲しいところです。


と言うわけで、ガチ勢がやる気ソードをぶんぶん振り回した結果、組織が壊れかける話でした。
高い自意識振り回している尚史も、単純にやる気ないとしか思えないタケルも、多様な個性を調整する組織づくりができていないBREAKERSも、それぞれ問題ありって見せ方でしたね。
人間が集まってチアをやる以上、いつかは表面化する問題だったわけで、逆に考えれば結束を強めるための試練にもなるでしょう。

いわば『出題編』とも言える今回を受けて、『解決編』ではどういう方法で問題を乗り越えるのか。
尚史やハル個人の資質だけではなく、組織としてのBREAKERS運営にも興味が高まるエピソードでした。
あと流石に作画がヘロッヘロになってきたので、なんとか持ち直してほしいな……。

orange:第8話感想

真っ直ぐ見つめるにはまぶしすぎる青春の影絵芝居、仲間が増えてく第八話。
菜穂がラブコメラノベの鈍感主人公みたいな動きをしつつ、仲良しメンバー全員が『手紙』を受け取ってたことが解ったり、そこから離れた行動をとってみようと頑張ったり、相変わらずの一進一退でした。
あれだけ支えてくれる仲間がいても、手を繋ぐの繋がないのでドン曇りになる翔の攻略難易度が高すぎて、『一体どこに、何個地雷が埋まっているんだ……』という気になる。
攻略本にはない『みんなでリレールート』に入ったのは、妙手なのか悪手なのか、そこら辺はさっぱり見えません。

という訳で、前回諏訪くんという頼もしい仲間を手に入れ、告白もすんで一件落着ッ! 死亡フラグ解除ゲームクリアー!! という流れかと思いきや、翔がまためんどくさい子と言い始めました。
菜穂と恋人関係になるのを拒んでいるのは、おそらく極度の罪悪感というか、お母さんとそうなってしまったように、自分の愛が人を破滅させることを恐れているからか。
そういう認識で世界を見ているのなら、あくまでうじうじ女子高生のレベルで普通に悩んでいる菜穂が、翔の心に踏み込んでいけないのも、納得は行く。
翔は『死』を常に顔面になすりつけられる世界にいて、菜穂は『死』をリアルに想像できない平和な現実認識を持っているわけだから、これはすれ違うよなぁ。

高校生らしい平和な現実認識の結果、『みんなでリレーを走る』というのんきな解決策が出てきたけれども、精神強度がスペランカーレベルにまで落ちている翔にとって、それがどこまで刺さるか。
視聴者という神の視点から見ればバカらしいことでも、当事者にとっては精一杯ってのはこれまでも描かれてきたことなわけで、効くかどうかはさておき切れる札は全部切っていく必死さが高校生たちにあるのは、僕は好きです。
最善手なんて考える余裕もないし、それをアタマでわかっていても実行できない時だってあるけども、少しでも良い結末を引っ張りあげるべく、等身大の自分に出来ることをやり続ける。
思い返せばはじめからこのアニメはそういう話で、同時に『今の自分に出来ること』から半歩踏み出す勇気の積み重ねで、少しは状況が良くなってもいる気がします。
そういう『半歩ずつの積み重ね』を丁寧に、誠実に描けているからこそ、このアニメの青春の切れ味は瑞々さを失わないのだとも言える。

どっちにしても、母親を殺してしまった(と思い込み、そこからどうやっても脱出できずこのままだと死ぬ)少年の気持ちには、いかに親しい立場でもそうそう踏み込めるものではないです。
心を開いてくれたと思ったらまた閉ざし、手を繋ぐことが出来たと思ったら拒絶される繰り返しの中で、それでも諦めず輝く日常を積み重ね、親友として恋人として共有している(はずの)『生』の岸に翔を引き寄せていく。
ちょっと子供っぽくも感じるリレーは、そんな高校生たちの精一杯が詰まった手筋でして、巧く行って欲しいなぁと願えるものでした。
……ただマジ翔面倒くせぇからなぁ、届くのかなぁ……『手紙』という秘密でつながった五人に、逆に疎外感感じそうなオーラすら漂っているからな、あの思春期モンスター。


そんなわけで、大筋としては大きなイベントに向けて道筋を整える回でしたが、グループ全員が『手紙』を貰っていると判明したり、『手紙』から離れた行動を重視してみたり、色々変化もありました。
最初は自分事と捉えていなかった『手紙』に次第に共感し、行動を通じて身近な存在として捉え、その結果運命が切り替わって『手紙』が頼りにならなくなる。
こうして見てみると『手紙』はSFガジェットであると同時に、典型的な親/指導者/年長者であり、『手紙』との関係が移り変わることがすなわち、菜穂の人格的成長を映し出しているのだと分かりますね。
魅力的なガジェットをただの物品で終わらせずに、作品のテーマを反映させるフェティッシュとして機能させられているのは、やっぱ強いな。

『手紙』を信じて行動すればするほど、『手紙』に頼ることができなくなるというジレンマは、なかなか面白いところです。
『手紙』はあくまで運命を帰るきっかけでしかなく、翔の自死を回避する結末は、結局『現在』の菜穂達が当事者性を持ってもぎ取るしかない。
しかし『手紙』がなければ運命は変わらなかったわけで、ただ頼れば良いのでも、ただ拒絶すれば良いわけでもない不思議な『手紙』との距離感が、ここに来て顕在化してきた気がします。
逆に言うと『手紙』だけに頼る孤独な戦いが終わったからこそ、同じ『手紙』を受け取った『現在』の仲間たちと協力する段階に入ったといえるのか。
『手紙』にしても『仲間』にしても、この物語でより良い結果を連れてくるのは常に『信頼』なので、翔を腫れ物のように扱うのではなく、『信頼』を込めて適切に踏み込むことが最終的には大事になるんだろうな。

後今回は、これまでスパイス的な使われ方をしてきた萩田の出番が増えてて面白かったです。
つかみどころのないぬるっとした性格ながら、やっぱこいつもいい奴で、その不器用でヘンテコな情をあずさとやり取りするシーンは、とても良かった。
菜穂-翔-須和くんは青春力が高い直球勝負で見せてくれるけど、メインにいないあずさ-貴子-萩田はちょっとズラした角度で青春の良さを見せてくれるよね。
ちょっと毛色が違う萩田がグループにいることで、ある種の換気の良さというか、内向きの閉じていく感じが薄れている部分が強くあるわけで、そんな萩田くんの魅力がどっさり出るシーンが多かった今回、凄く良かったです。
あずちゃんと良い雰囲気になっておるが、あずちゃん超いい子なんで付き合うのは許せん……いや萩田くんもナイスガイだから許す……いや許さん……どうしよう……。(キャラに入れ込むキモいおじさん)


そんなわけで、これまで菜穂を導いてくれた『手紙』に発達的な別れを告げ、『リレー』という選択肢に踏み出す回でした。
だいたい察してがいたけども、気持ちのいい奴らが『手紙』でつながった仲間であることも解って、話は全別の方向を舵を切り出した感じがあります。
この決断が、『翔の自死』という重たい結末を避ける道に繋がっているか、否か。

そこら辺は実際にやってみるまで判りませんが、ともかく彼らは勇気を出して決断し、真心を込めて踏み込んだのです。
それが報われることを祈りながら、今後も見守りたいと思います。
……この『こいつらいいヤツだから、マジ報われてくれよな』って気持ちになれるかどうかは、創作物が人を引き付ける上でマジ大事だなぁ……それを出すために、日常の空気を出す演出全力で頑張ってるわけだしな、このアニメ。