イマワノキワ

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烏は主を選ばない:第4話『御前会議』感想ツイートまとめ

 烏は主を選ばない 第4話を見る。

 若宮を排除するための御前会議は、当人の乱入で華麗なる代替わりの現場へと変わった。
 四家の思惑渦巻く宮廷を、果断に改めんとする風雲児を良く思わぬ者たちが、差し向ける凶刃。
 既存勢力との激戦を前に、真の金烏は垂氷のぼんくらを懐刀と求めた…というお話。

 うつけうつけと侮られていた若宮が、何考えててどんな人なのかを一気に見せる回。
 チャンバラシーンの仕上がりが良く、生半可な圧力には屈しない力強さと、切り合いも当然と飲み込む覚悟の太さ…血なまぐさい危うさが、同時に感じ取れた。
 まぁそらー、華やかな婿取り競争だけが山内じゃないよね…。

 

 四家(皇后の出身である南家が主か)の傀儡であり、真の金烏へのつなぎでしかない現金烏を、御簾のこっち側に引っ張り出して玉座を手に入れた若宮には、ちと情に欠ける冷たい部分が見える。
 神託による継承権簒奪への反発より、ともすればこの冷たさが支持者の少なさに繋がっている感じもあるが、怜悧だからこそ当然視されている構造への疑問を抱え、社会を改革していく意欲も湧く…という話かもしれない。
 凡俗だからこそ担ぎやすかった、軽い神輿の真の姿。
 現金烏が御簾の奥の神秘性を引っ剥がされ、生身の感情むき出しに瓜実顔を曝け出していたのは、痛快と言うより哀れで痛ましい場面だと感じた。

 必要であれば実の父をも侮蔑の泥に叩き落とす、ある意味で山内政治の申し子のような容赦の無さ。
 深奥を切開しなくても大分腐臭がキツい、四家主導の山内政治に新たな風を吹かさんとするなら、その苛烈は強みであり武器だろう。
 ただどんだけ腐りきった体制も、弱さや醜さ含めた人間の本性から湧き出して生まれたものであり、しがらみや情を真正面から断ち切る正しさは、味方より敵を多く作るだろうな…とは感じる。
 薄汚れた打算で動くにしろ、理想を報じて清らかに生きるにしろ、八咫烏も人間と同じく感情を持ち、色々余計なものをくっつけつつもひどく動物的な、湧き上がる思いを燃料に自分と世界の位置を決めていく。

 この『動物でしかない人間』というものの本音に、汗の汚れをとにかくいとう貴族階級はちゃんと向き合っていない感じがあり、ギシギシ軋むキレイな建前を全面に押し出して、どうしょうもない己等の本性をどうにかしていく努力を、下層階級に投げ捨てている印象を受ける。
 まぁその一方的な業の投棄が、逆さまになると富の収奪となり、身分制度を成立させているんだろうけども…。
 そういう意味では、若宮が10年かけて作った『彼らに対抗する術』ってのが下層民との連帯っぽいのは、ちょっと面白いな。
 権力中枢に敵ばかりなら、そこからはみ出した場所に基盤を持つしか無いのは、結構納得。

 

 若宮を若宮たらしめる、真の金烏というオカルティックな政治存在。
 不幸を呼ぶと疎まれつつ、宗家が王たるべき根本がそこにはあるわけで、官僚身分制度が高度に発達した今の山内で、どんだけ信じられ畏れられているのか、気になる部分でもある。
 古臭い神話を持ち出さずとも、極めて人間的な欲望と権力装置を抱え込んだ今の烏共は社会を運営できており、その序列を乱す”真の金烏”は、若宮のような革命志向があろうがなかろうが、相当に疎まれるだろうなぁ、と思う。
 これが実効のない寝言なら排除しても実害は少ないんだろうけど、なにしろ烏が人間の格好している世界なんだから、オカルトがマジも大マジな可能性は結構ある。

 暗殺者差し向けられるほどに疎まれてる主上しか、迫りくる古き霊的危機に抵抗できないから、人柄だの実力だの血縁だの、人間側のアレソレを全部蹴っ飛ばしてでも”真の金烏”を時代が欲するのだとすれば、山内存続のためにはいけ好かない横入り野郎を真ん中に据えて、四家一丸となって危機に立ち向かう必要があろう。
 しかし若宮の怜悧な人格、人間を突き動かす情への無理解は、そういう理想を叶えるにはちと冷たすぎる感触がある。
 ここら辺、雪哉を隣において革新の道を進む中で、ちっとずつ変わっていくものか…はたまた時代の悪意に噛み殺されていく部分か。
 アニメの範囲だと、描ききれないスケールではあるか、ここら辺。

 色々ぶっ飛んだ部分はありつつ、若宮が真実自分を助けられる相手を求めて雪哉を試し、ぼんくらがそれに応えたのは間違いない。
 過重な仕事を押し付けられつつ、自力でこなして汚い横道にそれなかったのは、金烏側近という立場が生み出す絶大な権力に飲まれない、清廉な人格を示している。
 自分の宿命がどんだけ人間性を汚すのか、色々キッツい体験してそうな若宮にとって、身近に置くには実務能力以上に人徳が大事…なのだろう。
 ここら辺の潔癖性が、権力中枢に群がる魑魅魍魎をいとい、その外側に仲間を探す理由にもなっていそうだ。
 いやまぁ、クズ追い出すのにクズ使える道理もないから、当然の流れではあるんだけど。

 

 婚姻と儀礼で雁字搦めに形を整え、堅苦しい外装に腐った欲望を詰め込んだ山内のシステムにおいて、出世するのはその毒を飲み干し、自身が毒となるクズばかりだ。
 ゴミばっかりが偉くなり、しぶとく生き延びるシステムを変えるとなれば、現状に適応した毒性生物どもは理想の清さに窒息しないよう、取れる手段全てを駆使して『美しい世界』を維持しようとするだろう。
 若宮排除に襲いかかった暗殺者と、彼を絡め取るべく四家から選ばれた美しい姫君たちは、同じ地獄の裏表。
 そこでは一個人の夢や願いなど、たやすく踏みにじられ微塵に砕かれていく。
 御簾を暴かれた現金烏の哀れさは、姫君たちの未来を示しているかもしれない。

 親にあんだけの所業ぶっこむわけだから、四家システムの尖兵として送り込まれた美しい姫君たちに、若宮が心動かされないのもまぁ納得ではあって。
 本来一個人としての恋情や慈しみを、育みながら紡がれるべき恋の綾糸は、こと権力中枢においては家と家の融和…あるいは衝突を駆動させる手段でしかない。
 甘っちょろい情だの思いだのを横に押しのけドブに沈め、婚礼によって天皇血縁となったイエに権勢をもたらす、現世利益のパイプラインとして、姫達の美貌と胎は黒い期待を寄せられている。
 …ここら辺の生臭さ、マージで若宮嫌ってそうだな。
 シンプルで直接的な分、暴力のほうが相性良さそう。

 姫たちの方もここら辺の生臭さを、腹に収めた上でキャッキャしとるのか、なーんも知らないおぼこちゃんのまんま蛇の巣に送り込まれてきたのか。
 それによって、次代の加害者であるか被害者かも分かれてくるわけだが、まだまだ笑顔の奥は見通しきれないからなあ……。
 今回若宮に向いた、秘めたる内面を明かしていくミステリの面白さが、姫たちに向いた時また面白くなりそう。
 なんだが山内の腐れ具合が暴かれてきて、『実は優しい子だったのッ♥』つう暴露より、どんだけの地獄秘めてたか、致死性の毒がぶっ放されそうで怖くはある。
 いやまぁ、その糖衣で覆ったロクでもなさを愉しみに、このアニメ食べてもいるのだが。

 

 ぼんくらを装いつつ、家族と故郷を強く思い世間に負けぬようツッパってきた雪哉は、うつけ顔の奥に苛烈と清廉を秘めた若宮の気性と、確かに相性が良さそうだ。
 敵の多い風雲児を間近に支える若き志士として、今後雪哉の宮廷無双が描かれるのか。
 どう話が動くにしろ、引き気味に障子の向こうに隠していた身体を、生身の若宮が見える庭へと乗り出す形で、雪哉は若宮側に運命を預けた。

 この引っ張り出され方は、激情のあまり御簾に神秘性を隠す皇ではなく、屈辱に震える一個人になってしまった現金烏の逆打ちだ。

 個人と個人の心地よい繋がりが運命を動かすのは痛快であると同時に、若宮は実の父を雪哉と同じ期待感で見てないと 切なくさみしくもなる。
 欲と業が煮立った権力のド真ん中、グラグラ揺れながらなんとか生き延びてきたと年経た傀儡に、世界を変えうる大望を共に駆けていく期待は、当然寄せられないだろう。
 しかし旧い時代の象徴を苛烈に追い出すにしても、確かにやり方ってのはあったはずで、しかし若宮は穏当で遠回りなやり口を選ばない。
 その湿って隠微なスタイルは、それこそ彼が嫌悪する旧いやり方であるし、彼自身の実直な気質にも合わないのだろう。
 主役たちを結び合わせるむき出しの正しさ、新たな時代を求める思いの強さが、何を引き裂き傷つけるのか。
 そこもちゃんと書いているのは、世界と人のあり方をちゃんと見る視線だろう。

 

 今後雪哉と若宮は、手に手を取って時代を変え、現金烏のような惨めな犠牲者を数多生み出していくだろう。
 腐ったシステムを変える大きな使命の前には、そういう木端共の無惨は必要経費…改革のスカッと感を盛り上げるための良い薪だ。
 しかしそこで震える個人の感情を、あえてしっかり変えてきたことに、ただ改革者が世界を変えて終わりではない、複雑怪奇な人間の業を見つめる視線を、僕は受け取った。
 主役たちの快進撃に、踏みにじられる者たちにも惨めな痛みが確かにあり、それは時に全てを殺しうる毒になる。

 さてそんなカルマを、意に介せず高く飛ぶか、噛み砕いて飲み干すか、呪われて死ぬか。
 どうとも読み切れなくて、烏達の行く先が愉しみだ。

 

 

・追記 人ならざるものしか人を統べれないが、人は人にしかなれないし、人にしか理解が及ばない。