イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アルカイダ

ジェイソン・バーグ、講談社アルカイダビンラディン、そして現在のイスラム急進派・イスラム過激派に関するドキュメント。有徳の本である。その徳の名前は謙虚だ。筆者は「イスラムテロリストは悪」というわかりやすく勝つ現在一般的な見解を否定し、「イスラム過激運動は複雑かつ各国の政治的・経済的事情に大きく影響されたものであり、一人の「イスラムテロリスト」など存在しない」と説く。「この問題が抱える問題は根深く困難だ」と書き、「正式な情報はつかめない」と告白する。その取材姿勢は、非常に謙虚だ。
その謙虚かつ「判りにくい」視点から、筆者はアルカイダ、という存在の分析、イスラム社会の説明、アルカイダの設立から現在に至るまでの歴史などを、明確な論理性と適切な言語選択を持って詳細に記述していく。10年間中近東、東アジアでのムスリム活動を取材し続けたBBC記者としての骨太な取材活動が、それを支えている。
翻訳者があえて巻末で異論を述べているように、確かにこの本はあまりにムスリムに対する「何故」に溢れた本であり、筆者が属している西洋文明に対する「何故」が少なすぎる。だが、それでも。膨大な事実を適切に纏め上げたルポタージュとして、そして、ムスリムを複雑な運動であると定義し、それでもなお理解を行おうとするこの本は優れた本だと断言できる。名著。