イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

音楽的時間の変容

椎名亮輔、現代思潮新社。音楽的時間に関する、筆者の博士論文。近代音楽と現代音楽、近代的時間と現代的時間の共時的分析を、音楽的時間、コンサートホールにおいて流れる時間の量的・質的分析によって考えている論文である。
博士論文という形式のせいか、各章ごとにまとめが入っており可読性は高い。ベルグソンハイデッガー木村敏九鬼周造などの先達の時間論を適切に、かつ批判的に論じながら、筆者は現代の時間の肌理の問題に丁寧に触れていく。
この本においては、音楽は時間を探求するための道具でもないし、時間は音楽を探求するための手段ではない。両者は混じり、切り離せないものとして丁寧に描き出され、僕たちが包み込まれている時間と、そして空間を浮き彫りにしてくる。その手法はなかなか丁寧で見事だ。
しかし、結論部に見られるような一瞬の永遠に、果たして僕たちはもはやたどり着けるのか、という疑問は僕から離れることはない。それはやはり行過ぎて、何も変えることなく流れすぎ、強烈な毎日の凝った時間と空間の中に押し込まれて、意味も味も肌理も失ってしまうのではないだろうか。そう思うのだ。
それでも、この本に描かれている垂直の時間としての音楽的時間と、それを求める思索の旅は強力なものだし、十全な価値があると思う。良著。