イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

思想としてのアメリカ

本間長世中央公論社。アメリカ社会に関する分析の本、第一部が政治、第二部が文化という非常に判りやすい構成になっている。アメリカ本国のアメリカ論を分析しながら、筆者時点の視点を掘り下げていくという記述形式である。
筆者自身のアメリカでの学者体験が随所に織り込まれ、学術記述としてはある意味雑音なのだが、本論の腰を折ることもなくむしろ親しみやすさを感じさせてくる。その繊細な感性が分析にもいい方向に影響しており、なかなか鋭い視座に基づいた資料分析をしてくる。
論点はアメリカの多民族主義であり、それがメルティングポット的ではないにしても、サラダボウル的ではあるのか、というポイントを主軸に論を進めていく。それよりもむしろやはり、パワーエリートであるWASPこそがアメリカ的なものなのではないか、という提言を考慮しつつ、黒人とユダヤ人の相互憎悪などにも論は及ぶ。
この本は1996年に発行されている。見るべきなのは、ユダヤ人新保守、いわゆるネオコンのパワー・ポリティクスへの注目を十年前に行っていたことであり、また、文化分析から「国際化とはアメリカ化ではないか」「それはコーラとリーバイスではないか」という読みをすでに提示している点である。十年前の書物であるが、非常に示唆的な読みが力強い。良著。