イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

チャター

パトリック・ラーデン・キーフ、NHK出版。9.11以後の英米盗聴網に関するドキュメント。非常に誠実で、非常に切実な本である。筆者はこれが始めての著作とのことだが、とかくパラノイドや大言壮語に陥りがちないわゆる「エシュロン」がらみの問題に、丁寧に割り込んでいく。尋ねるべき人を選び、問うべき問題を丁寧に考え、調べるべき資料を漁ることを惜しまない。それは、とにかく緻密なジャーナリズムの力だ。
この書物は、盗聴の書物、というわけではない。テロリズムとプライバシーの間のパワーバランスの問題だし、諜報による国家安全保障の是非に関する問題である。そこに覗き根性はなく、丁寧な取材と資料の読み込み、そして真剣なまなざしがある。とかくこの分野は面白半分でニュースソースがいい加減な書物が多いが、この本はしっかりとした足場と、適切な言語選択により、書物として強力な力を持っている。
僕達の国には、幸運にして旅客機は突っ込んでこなかったし、車がいきなり爆発することも今のところない。でも、僕達の国は唯一、地下鉄に化学兵器がまかれた国だ。この本は英米を主軸にした対テロの本でもあるが、日本がイラクに兵隊を送っている以上、テロはもちろん他人事ではないし、三沢にはエシュロン用アンテナがある。僕達はこの本に書かれた、全世界が盗聴され、それが上手く行っているのかいっていないのかも、秘密主義の奥に隠されてしまうような世界にいるのだ。この本は、僕らの本なのだ。名著。