イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アフガニスタンから世界を見る

春日孝之、晶文社毎日新聞記者として、イスラマバードからタリバン政権下のアフガンに切り込んで行った筆者、渾身のルポ。流石に現場で情報部やタリバン政権高官と切り結んだジャーナリストは目も立ち位置も一味違う、と思わせる、切れ味鋭いレポである。
筆者はタリバンを擁護しない。プロパガンダを行わない。同時に、アメリカの絶対正義主義の擁護も、もちろん行わない。その代わり、イスラマバード特派員としてアフガニスタンパキスタンを駆けずり回り、市井の人々から政府関係者までさまざまな人の顔を見、言葉を聞いた立場として、タリバン政権がいかなるものであったかについて語る。
それは正しい態度だ。タリバンも正義だし、アメリカも正義だ。しかし、大文字の言葉はいつも危うい。筆者はその危うさを、とにかく誠実な筆致で丁寧にタリバン政権の内情を纏め上げ、いかにタリバン政権がオサマ・ビン・ラディンの影響下に入っていたかを描いていく。実際似たり晩にとらわれ、銃殺寸前まで行ったその筆が描いてくるのは、アメリカのメディアが描こうとする絶対悪の国家ではなく、西欧植民地主義と部族主義、シーア=スンニ対立が複雑に入り混じる「わかりにくいアフガニスタン」だ。
わかりやすいことは、強い。難しいことは、理解できないことは、無関心の領域に放り込んで無視してしまうのが楽だ。だが、アフガニスタンは非常に複雑なのだ。簡単では、ないのだ。それを簡単にしてしまえば、どうしても掬い取れない部分が出てくる。筆者は冷静に、その掬い取れない部分を、自分の言葉で丁寧に語る。それは、非常に強烈な説得力となって、僕の耳に届いた。プロパガンダでもなく、ルポタージュとして。名著である。