イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

虹の解体

リチャード・ドーキンス早川書房。「利己的な遺伝子」でいろいろと支持と反感を買っている碩学ドーキンスのライトサイエンス。サブタイトルは『いかにして科学は脅威の扉を開いたか』であり、全般的には科学的思考に関する教導本である。
科学に向けられる無味乾燥・非人間的という批判を、このキーツの詩からタイトルを取った本は丁寧に解体していく。科学的思考が見出すヴィジョンの大きさ、その不可思議。さすがに希代の文章家であり研究科であるドーキンス、かなり攻撃的で前のめりながらも、まず詩学からはじめ、統計学や認識科学、脳生理学などをコンパクトに使いつつ、科学の可能性を豊かに論じていく。
後半、専門分野である進化生物学に話が入ると、いやおうなしにドーキンスの筆は加速していく。さすがに自分の土俵、鋭い視点と言説、確かな論証と結論。説得力と読ませる力を併せ持った筆写は、なかなかにパワフルである。
少々攻撃的に過ぎ、言葉が強いので教導書としてはすこし尖りすぎている感もあるが、やはり展開される思考の独自性、豊饒性はドーキンスにしかなしえないと思わせるものがある。さまざまな領域に筆を伸ばしながら、一本筋が入った論になっている揺れのなさも強調しておいてよいポイントであろう。
ドーキンスはとても誤解されている科学者であり、そのような人物がたいていそうであるように、彼の書物はタイトルだけが一人歩きし、批判に晒されている。「ブラインド・ウォッチメイカー」もよかったが、この本もよい。だが、本のよさは本を読まなければ判らない。新聞の書評欄だけでドーキンスを毛嫌いしている人は、このアタッカブルで良質なライト・サイエンスからドーキンスに触れてみるのもよいのではないだろうか。良著。