イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

シリーズ現代思想ガイドブック ジャン・ボードリヤール

リチャード・J・レイン、青土社。先日読んだものと同じく、青土社の入門書シリーズ。いまだ存命のまま、演技のような戯れのような言説を続けているボードリヤールに関する書物。
このシリーズは入門書であり、固定化されたフォーマットが逆に分かりやすさを維持してきた。が、この本にそれは当てはまらない。ボードリヤールの思想・思考は常に、ボードリヤール以前の/以降の著述を前提とし、比較されて記述される。ヘーゲルバタイユレヴィ=ストロースドゥルーズベンヤミンマルクス……。
これら外側の記述を常に挿入し、接続していく記述は正直、重たくて敷居が高い。そこではボードリヤールの言説だけではなく、その言説が有する関連性、浮遊性が重要視されている。自然、外接は当然のものとなり、ボードリヤールの言葉を望んでいた読者は面食らうことになるだろう。ここに書かれている言説は(あとがきで訳者も指摘しているが)ボードリヤールの言説の解明だけではなく、その言説の(ボードリヤール以外との批判を足場にした)批判もまた、同じだけの重さを伴って存在しているからだ。
ボードリヤールといえばシミュレーション/シュミラクラム概念を使ったポストモダンの思想家、というとり方が一般的かもしれない。だが、この書物では通時的に、彼の出発点である労働と消費の問題、マルクス主義批判の問題を重視している。『未だ』ボードリヤールが真面目だった時代、アカデミックだった時代(とラベルを貼るのは便利な行為だ)の言説こそが、ボードリヤールを支える一つの極だ。
そしてもう一方の極(に見える場所)への鋭い切り込みもまた、この書物の特徴である。80年代に時代の寵児だった、ポストモダンの思想家ボードリヤール。消費を語りながら消費され、ハイパーリアルを語りながらハイパーリアルだったボードリヤール。2006年、そこを過ぎ去ってある現在を常に視野に入れた言説として、この書物はそのことについて鋭く語っていく。
正直いろいろと不親切な書物だし、横に広く言説を取りすぎて紙幅が足らない部分はあると思う。が、ボードリヤールの起源と発展、そして欠点と利点を二項対立ではなく、同時に融合でもなく、丁寧に批判しつつ分析した書物として、この書物は面白い。良著。