イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

図説 科学で読むイスラム文化

ハワード・R・ターナー青土社。1982年から1983年にかけてアメリカで行われた「イスラムの遺産」展示会の研究を纏めた本。7世紀から9世紀に駆けてのイスラム帝国の拡大期と、10世紀から12世紀にかけての安定期におけるイスラムの科学(技術)受容・発展について述べている。
通時記述ではなくジャンル記述であり、しかも1ジャンルに関しての説明が短い。加えて訳文か原文かは分からないが、とにかく文が長くて硬く、読みにくい。さらに言えば、図説が文章中に適宜挿入されるのではなく、各章ごとに纏めて配置されているため、トピックとの関連がつけにくく、せっかくのヴィジュアルエイドが死んでいる。最後に、微妙にオリエンタリズムの政治的気配が消えていない。
とまぁ最初に欠点ばかり述べたが、ローマ帝国の崩壊から逃れた遺産を、イスラム社会がなぜ、いかにして受容できたのか、という問題をイスラム社会の特色から述べていく視点自体は非常に興味深い。科学が社会に内包されている、という科学哲学的な発想からイスラム文化における科学を見つめ、クローズアップされることの少ないそれがいかなるものだったか、について丁寧に述べていることは間違いないだろう。
特にイスラム共同体における智の生産体系の紹介・分析はなかなか珍しく、興味を引かれた。イスラム社会における科学の発展と、カオルーンに従うイスラム社会での科学発展の限界、という問題点を最後に論じる構成もなかなか良いものだった。問題点は多々あるが、悪くはない本だと思う。