イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

火器の誕生とヨーロッパの戦争

バート・S・ホール、平凡社。うっかり借りてきてしまって二度目の読了となった。1300年代から1600年代にかけての、火器と戦争の関わりについての本。
再読となったが、前回見落としていた点が本当に興味深く、楽しく読めた。この書物は軍事技術発展史の本であるが、同時に戦争史の本でもあるし、戦争行為にまつわる政治、経済、社会学の本でもある。その幅広い視座と言及は、火器の誕生がいかにしてヨーロッパの戦争(とその主体である国家)を変えたのか(そして変えなかったのか)という一点に収束し、非常に大量の資料読解を駆使した硬質の文体でありながら読ませる。
とにもかくにも年代記や行政資料といった硬質の資料に当たり、かつ不明な点は不明なものとして安直な結論には飛びつかない。火器がいかにして誕生し、発展し(もしくは発展せず)、戦争や社会の形態に影響を与えたか(もしくは与えなかったか)という議論を長大かつ重厚に述べている。専門書らしい丁寧さが、火器単品だけではなくそれを扱う人物や技術発展、対抗手段としての戦術や要塞構築技術の発展、そして兵科・兵站の変化にまで言及する徹底を生み出している。
以前(http://d.hatena.ne.jp/Lastbreath/20050330)は「楽しい」と書いた書物だが、中世末期からルネサンス期、近世初期〜中期という長いスパンで火器が使用される戦争、戦争を行う国家、国家が行う政治というものを見つめ、精密な分析と鋭い意見を内包し、的確な言語選択と強力な論旨展開によりくみ上げられたこの本。再読して初めてその明晰と卓見に気付かされた。傑作。