イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

傭兵の二千年史

菊池良生講談社現代選書。ギリシャからナポレオン戦争まで、ヨーロッパにおける傭兵の歴史を纏めた本。
全般的にハンディな造りで、読みやすい文章と題材の彫り具合である。逆に言えば食い足りなさを感じるわけだが、文庫で選書という媒体を考えれば致し方ない部分だろう。専門的に過ぎず読みやすい、という利点はあるわけだし、少々記述が荒い部分もあるが思想的な偏りは見えない。
ギリシャから始まっているとはいえ、主に紙幅は筆者の関心事であるルネサンス以降の絶対王政国民国家勃興と傭兵のかかわりにある。国民国家制定以前のヨーロッパにおいて、戦争の主力を占めたスイス・ドイツ傭兵の雇用と国民軍制定のかかわりを、時間系列に沿って読み解いていく。この視点はなかなかに面白く、傭兵こそが国民国家ナショナリズムを作る流れの大きな部分を占めた、という逆説は興味深い。
全般的に資料の読み込みが荒く、何故か日本戦国史の事例がひどく世俗的な形で挿入される。西洋史への視点が独特で魅力的な分、この記述でテンポが変わってしまうのは厳しいといわざるを得ない。そこを除けば、独特の視点と読みやすさを兼ね備えた良著だといえる。