イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ブラック

萩原弘子、毎日新聞社。サブタイトルは「人種と視線をめぐる闘争」イギリスとアメリカの黒人問題を、視覚表現を足がかりに考える論考集。
第一章が黒人問題の緒要素を考える基礎論、第二章が黒人と映画論、第三章が黒人による現代芸術の論集という構成になっている。全体的に、黒人問題への鋭い視座とフェミニズムを足場にした粘りのある言論である。近代評論が抱えるエッセティアリズムからはみ出た黒人/女性/同性愛者視点からの批評は現代においてむしろ主流といえるが、その流れに位置する論考である。
主流派だろうが傍流だろうが、論考において重要なのは何をどう捉え、いかに語るかという一点である。書かれたもの、語ることがポイントなのだ。そういう意味で、この書物は鋭い。黒人問題のを取り巻く言論の中でなおざりにされたり、取り違えられて取りこぼされるさまざまな問題を、一つ一つ丁寧に、強力な言説で追いかけていく。ギルロイとホールを大きな主柱にしつつ、精密な分析と言論で、論考の基礎をくみ上げ、映像作品の中にある「当然の」支配構造を解体し、黒人作家の美術を解読していく。
特に第一章、「黒人文化の政治学」は人種、アイデンティティステロタイプという基礎的なことを語っているがゆえに、黒人美術や映像表現というテーマを超えたしなやかな強さを持っている。筆者は黒人運動や黒人が置かれた(置かれている)政治的位置を的確に捉え、それを語る場所のゆがみや欠損に注意して、丁寧な議論を積み重ねていく。二章以降の個別論に分厚さを持たせているのが、この丁寧な方法であることは論を待たないだろう。
骨太の論考であり、分析や資料読解とその発展、筆致の丁寧さなど、優秀な評論に必要なものを持ち合わせている本である。名著。