イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

神と自然の景観論

野本寛一、講談社学術文庫。信仰環境論という独特の視座から、日本の民俗信仰を分析した論集。サブタイトルは「信仰環境を読む」
足で書いた本、と言ってよいだろう。筆者は岬や浜、洞窟などの地形、樹、岩などの自然物が置かれた環境に実際に足を運び、その地の証言を集め、風土記を読み解き、見事な采配で環境に宿る神、環境そのものを敬う信仰を書き綴る。過去の文献への言及や分析はなおざりにはされていないし、むしろ文献への分厚い知識が、現地に足を運び言葉を集めるスタイルと噛みあって、非常に豊かな文章となっている。
海の民と山の民を対立させて見るのではなく、海の民の視点から見た山や巨岩、巨木は己の位置を測る目印として非常に重要であり、信仰の対象であったとする「山アテ」の論理。逆にマタギなどに見られる山言葉・里言葉の風習が、沖ノ島を経由して大陸に至る両氏の間でも動揺に祭られていたとする調査。鎌の呪力を風祭だけではなく、農民に身近な鉄器としてさまざまな役際を払う元としてみる視座。
どれもが新鮮味と、実際のフィールドワークに支えられた分厚さを持っている。地名の語源解釈の鋭さもあり、古学の立ち位置としてもしっかりした物がある。丁寧な調査と、新奇ともいえる鋭い分析に支えられた名著だといえる。