イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

データマフィア

E・R・コッホ&J・シュペルパー、工作舎。ドイツ語版は1995年発行の一応ドキュメンタリー。サブタイトルは「米国NSAモサドによる国際的陰謀」
サブタイトルからしてずいぶんアレな匂いがするが、公的資料が公開されている事件いついては良く調べているし、取材の粘り強さもある。この本はデータ・フィルタリングソフトである「プロミス」を開発元のインスロー社を司法省とCIAが倒産に追い込み、略奪した上でバックドアを仕掛けて各国の企業・政府機関に売り込んだ「インスロー事件」の本である。
のだが、「インスロー事件」はいまだ未解決(95年当時)であり、NSAも司法省も公式に関与を認めたわけではない。いきおい、「おそらく」「であるに」「違いない」といった憶測と断定が飛び交い、怪しげなニュースソースから引っ張ってきた情報が紙幅を埋めていくことになる。これでは眉に唾して読まなければならない、という気になってしまうものだ。
しかし、「インスロー事件」以前に米国政府とイスラエルが兵器・情報業界で引き起こした陰謀である「イラン・コントラ事件」や「オクトーバー・サプライズ」に関しては公開された情報を丁寧に追いかけ、当時の政府並び情報機関がいかに節操なく動いていたか、がよく分かる書き方をしている。不透明な情報には「不明である」と(基本的には)書き添え、裁判証言などを重視して書かれている記述は読みやすく、信頼性もある。
政府と情報機関、軍事会社にスパイが絡み合う陰謀の本なのだが、すでに日の光を浴びた二つの事件に関してはしっかりと腰の深い記述をし、本題である未解決の「インスロー事件」はどうにも眉唾な感じが拭えない、というどうにも悩ましい構成になってしまっている。すでに明らかになっている構造を解析し、わかりやすく纏めることに関しては成功しているが、未解決な状況を一気に打破する新事実の発見や新解釈の提示には至っていない。
どうにも評価が難しい本である。プロパガンダ言説は時々使用するし、事実への取り組みがあらかじめ用意された結論によって歪んでいないとはいえない。だが、過去アメリカが行ってきた兵器・情報関連の謀略に関しては良く纏められ、なかなか隙がない構成になっている。とりあえずあえて斜に構え、筆者の政治的態度にも、アメリカの清廉潔白も両方疑って読み進めると、丁度いいのではないかと個人的には思う。