イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

歴史の方程式

マーク・ブキャナン、早川書房。サブタイトルは「科学は大事件を予知できるか」 と書いているが、複雑系とカオス理論の説明、ならびにその歴史への応用の本。なお英語タイトルは「Ubiquity −the scienence of history,or why the world is simpler than we think−」
邦題の是非はさておくとして、フラクタル構造とべき乗則を縦軸に、山火事の発生や地震予測、害獣の大量発生などの事象複雑系科学の発達史を絡めつつ解説している。この側面においては、筆者の提出してくる理論や予測、実験例は妥当なもので、わかりやすい。複雑系に関するライトサイエンスとしては、それなり以上の実例と解りやすいたとえを用いて可読性が高いといえる。
が、それを歴史法則に適応する段階においてどうにも不透明な部分が出てくる。一つは歴史学の方向からのアプローチの弱さが原因であり、今まで積み重ねてきた歴史学の方法や理論を適応する記述がほとんどないのである。歴史学が未来予見できなかったとしても、その歩みには意味があっただろうし、歴史を解析する手段として歴史学は有用な道具立てであるはずだ。しかし、筆者はあくまで複雑系の言説のみを用いて歴史にまで踏み込もうとする。
その踏み込みにも少々難があり、たとえ地震や山火事の延長などに見られるべき乗則景気循環や都市発展に適応できるとしても、複雑系自体が歴史解釈に適応できる、というわけではない。それは一つの思考形態の主要な理論が、別の領域にも見られる、ということであって一つの思考形態そのものが別の領域に適応できる、というわけではないはずだ。
一つの理論や法則が別の領域に適応していることと、一つの思考大系が別の領域に使用できる、ましてやまったく新しい成果を出すということはイコールではない。そう言ってしまうのはあまりに論理の飛躍が過ぎるし、この本はそれを犯しているように思える。その前領域、自然解釈手段としての複雑系の説明は良く出来ているだけに惜しい。