イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ことばの起源

ロバート・ダンバー、青土社。言語コミュニケーションの進化を、主に類人猿生物学の視点から書いた書物。サブタイトルは「猿の毛づくろい、人のゴシップ」
言語進化を類人猿研究の側面から掘り進んでいく、という試みはかなり面白い。神経科学や進化生物学、言語学などにも寄り道するが、基本的には生物学のデータを用いて、類人猿の群れにおけるさまざまなコミュニケーションの研究から、言語の起源を探っている。人類がサバンナに追いやられる過程で群れを巨大化する必要が生じ、コミュニケーション手段が毛づくろいから、より遠距離に届く言語に変化したという仮説はなかなか斬新である。
難点をいうのであれば、一般向けを意識したせいか、あまりに仮説証明の手段が簡略化されすぎている。この本では統計を仮説の土台として多用しているが、述べられるのは結果や傾向だけで、グラフや図版などで「謎背の結果になるのか」を解りやすく説明する努力が少ない。これは統計を用いていない部分にも言え、例えば毛づくろいコミュニケーションが脳内麻薬の分泌を促す、という論を述べるときも、脳内麻薬の薬効過程の説明はない。
自説を証明するポジティブな証拠の数は多いが、その一つ一つに費やす言葉が少なく、どうにも胡散臭く感じてしまう。言語というテーマに関係するさまざまな分野、例えば社会学や心理学などなどに手を伸ばしているが、いいとこ取りの印象が拭えないものであったり、微妙に議論の余地がある問題(例えば脳の左右分機能)を当然のものとして提示していたりする。
とまぁ強引なところもあるが、類人猿生物学と言語の結びつきから言語起源を探る、という根っこ自体は非常に鋭い切れ味を持っているし、面白い。論述形式と、図版を省略した書き方があまり噛みあっていないところもあるが、良著ではあると思う。