イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

フルートの肖像

前田りり子、東京書籍。古楽奏者である筆者が、一般に向けて書いたフルートの本。サブタイトルは「その歴史的変遷」
サブタイトルにある「歴史的」という言葉はなかなか的を得ていて、ルネサンス期からゴシック、バロック、古典と変化していく西洋音楽の中でフルートがどのように扱われたのか、そしてフルートという楽器がどう変化していったのかを丁寧にまとめている。その領域は非常に幅が広く、西洋文化史の変遷やそれに絡む政治史・経済史まで含んでいる。
かといって必要以上に込み入った話になるわけでもなく、表面だけなぞった安寧なものになるものでもなく、解りやすく丁寧な記述が続く。大きく別けて前半が音楽史、後半がフルート技術史という感じで、図版を多用し可読性が高い。その上で、例えば教会音楽の作曲法とルネサンス期のフルート製造法の関係だとか、仏独伊各国ごとの音楽事情の変化だとか、専門的かつ興味深い内容が書かれている。
西洋文化史の解説書として読める幅の広さと懐の広さを併せ持ち、読ませる力も読みやすい文体も兼ね備えている。フルート、という知っているようで馴染みの薄い物品を掘り下げた、意外な視座もまた面白い。テーマと内容双方がしっかりした良著。