イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ちょっと気持ちの悪い動物とのつきあい方

リチャード・コニフ、青土社。柔らかめのタイトルから解るように、細密な科学知識よりもドキュメンタリーとしての鮮度を重視したサイエンスコラム。ネタになっているのは脊椎動物で、学説よりも取材を重視している点もドキュメンタリーよりだといえる。
まずネタの選球眼が非常に鋭い。モグラ、ハツカネズミ、サメなど身近な題材を、徹底した取材とユーモアあふれる文章、押し付けがましくないがしっかりと訴えるものがあるテーマで描いてくる。まず文章としての面白さ、背骨の太さで訴えかけてくる巧さのある本だ。無論、それだけではない。文章としてまとめる上で必要な冷静な視座、精密な情報の選択眼などの知性が、そこかしろに散見する。
この本は動物の不思議な生態と、その動物と人間の関わりを徹底して追いかけた本である。そこで書かれる関係は、必ずしも明るいものではない。絶滅だったり、過当保護だったり、駆除だったりする。その関係を描くことがテーマであると思うのだが、それを押し付けることはしない。主観を弱めに、豊かな文章で語られる動物(と人間)の物語の裏側に、何かがあることを気付く丁寧な文章構築がそこにはある。
大学教授が書いた一般向けライトサイエンスにあるような、知識を再発見する喜びがないわけではない。ナマケモノ、ブラッドハウンド、ヤマアラシなどの生態を細かく解説した文章は、簡潔でありながら要を得ている。見たことも聞いたこともないような生き物ではなく、ちょっと知っている動物の知られざる側面を付いてくる選球眼の巧さが、ここでも生きている。
非常に上質かつ良質、コラムかくあるべし、とでもいうようなユーモアと知性に満ち溢れた動物記である。非常に楽しく読んだ。良著。