イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ヒトラーが勝利する世界

ハロルド・C・ドイッチェ&デニス・E・ショウォルター、学研。微妙に仮想戦記っぽいタイトルだが、サブタイトルの「歴史家たちが検証する第二次大戦・60の"IF"」が示すとおり、タレラバが禁じ手の歴史学であえてWW2のIFに本職が本職の方法で挑んだ本。
歴史のIFには想像と変更の楽しみがあるし、そうあって欲しい、という願望があるからこそ「もしも」を考えるのが一般的だと思う。だがこの本で検証される可能性において、非常に多い結論は「仮に想定どおりになったとしても、事態は変わらない」である。前提条件を掘り下げ、その相互作用を考慮し、予断をすきなく切り捨てた結果、"IF"は"IF"でしかない、という結論を突きつけてくる。
もちろん"IF"を語る以上仮定には変わりがないので、曖昧な論理や都合がよすぎるか、と思う想定がないわけではない。それゆえに歴史学でタラレバは禁じ手なのだと思うが、そこにあえて踏み込み、変化のない結論を導いても"IF"を考慮する姿勢は個人的に頼もしかった。冒険的に過ぎる、といえればそれまでだが、読んでいる側としてはこの冒険心と、それをいさめる方法論的拘束は心地よかったのだ。
突拍子のない超兵器も、ありえない戦略・戦術運用もなく、解らない部分は解らないと留保されている。その慎重さは"IF"を扱う上で重要だと思うし、好ましい。基本的に論文形式で、仮定法が連続するので微妙に読みづらい。が論旨が明白な論文が多いため、そこで立ち止まることはなかった。一種の思考遊戯の方法論としてもなかなか面白いのではないか。
目くじら立てて厳密さを指摘するよりも、冒険心と懐の深さを持って楽しみたい本だと思った。良著。