イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

雲の「発明」

リチャード・ハンブリン、扶桑社。サブタイトルは「気象学を作ったアマチュア科学者」で、その通り19世紀初頭に雲学の基礎を作ったアマチュア科学者、ルーク・ハワードと彼の時代を追いかけた科学歴史ノンフィクション。
ハワードの人生を追いかけつつ、19世紀初頭の科学発展期のイギリスの情景を取り込み、当時の状況と彼の人生を生き生きと描き出している。基本的に科学の視座よりも人間の視座に重点を置く、ライトサイエンスというより伝記に近いスタンスである。ハワードだけではなく、彼の周りの人物の書き込みもなかなか活気に満ちており、楽しく読める。
雲学に関する記述も手抜きがなく、かつ丁寧で読みやすい。ハワードの「発明」がいかに画期的で、状況に影響を及ぼしたのか。それに対する学会の反応はどうだったのか。そもそも当時の気象学を取り巻く状況、科学と文学の関係はどだったのかなどのトピックを、適切克歯切れの良い文章で説明してくれている。
特に科学と文学の幸せな結婚の時期に関しての記述は面白く、ゲーテやコンスタンブルといった才人と直接に関わるハワードの業績から、19世紀初頭という時代の文理混交が見て取れる。ここから科学が残忍な詰め足で文学を追い抜いていくわけだが、短くも輝くこの時期のイギリス科学界を的確に捉える目と筆はなかなかないものであり、非常に面白い。
全体として、19世紀初頭イギリスのルポタージュとしても、雲学の歴史としても、ハワードの伝記としても、過不足なく、かつ各要素が絡み合いお互いの持ち味を増している。文章が読みやすく、丁寧なのも良い。良著。