イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ドキュメント 現代の傭兵たち

バート・ヤング・ペルトン、原書房。タイトルに「傭兵」とあるが、民間軍事事業従事者を取材対象にしたドキュメント。いわゆるPMCを追いかけ、イラクアフガニスタンパキスタン−アメリカと縦横に取材している。英語タイトルは「Licensed to kill」
まず、ドキュメントとしての取材姿勢が非常に秀逸である。強靭に事実を積み重ねていく取材の足腰、偏見や独断に曇らない目、さまざまな角度からPMCを徹底的に分析する視点、数多くの取材対象を生き生きと書き記す筆。単純なジャーナリストとしての力量が分厚く、それだけで読ませるパワーに満ちている。取材対象の選択は興味深く、その記述はとにかく生き生きしている。
PMC産業のホットスポットであるイラクアフガニスタンの紛争地域に実際に足を運び、現場の人物に話を聞くだけではなく、PMCが誕生するに至った経緯やその現在を追いかけるべく、筆者はいわば"後方"にも積極的に取材に赴く。PMC大手−ブラックウォーター、ハート、トリプル・カノピーなど−や、伝説的なCIAの民間協力者、PMC選抜/訓練施設。現場の熱だけで話を運ぶのではない、冷静なドキュメントの姿勢が、ここに見て取れる。
同時に、PO達の生活に密着した取材もまた、この本の魅力である。スリル・ジャンキーから博士号を持つワイズマン、家族のために銃を取る男、ファルージャ事件の生き残り。そして、アフガンの長老。PMCとそれを派遣する米国の最先端にして末端の部分に、それこそ同じ釜の飯を食い、M4カービンを握り締めながら丁寧に触れていくその筆は、大きな説得力を持っている。
後方と前方の乖離、軍隊と企業の境界線、軍倫理と企業倫理の狭間。PMCが持っているさまざまな裂け目を、徹底してPMCの現実を追いかけることで浮き彫りにしていく。その歩みは非常に堅牢で力強く、鋭い。こういうことが出来るからこそのドキュメントなのだろうし、これこそがドキュメントなのだ、といえる中立性、説得力、取材力、そしてなにより読ませる力がある。
P・W・シンガーの「民間軍事会社」と合わせて、この問題を読む上で押さえてきたい一冊だと思った。よく出来たものは面白いのだ、ということも再確認させてくれた。傑作。