イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

中世ヨーロッパを生きる

甚野尚志、堀越宏一編著、東京大学出版会。中世ヨーロッパのさまざまな状況を、手広く書いた入門書。複数筆者による編著だが、編者の努力のおかげか、丁寧な筆致で統一されており非常に読みやすい。
とにかく話題を広く取った本であり、中世人の衣食住、生病老死ほぼ全ての領域に渡って各章ごとにテーマが選ばれている。ヨーロッパ各国の地理史、政治史から服飾、食事、芸術などの民俗、母と子、老人などの中世の人間にフォーカスを当てたもの。とにかくバラエティ豊かで、見ていて楽しくなる。かといって表面だけなぞった浅い文章ではけしてなく、解りやすく、かつしっかりと資料に当たった分厚い歯ごたえを感じさせるものである。
いわゆる入門書なので、あくまでイントロダクションとして各章はとどまっている。が、リーディングガイドも付いているし、各テーマごとに粘り腰の記述でぐいぐいと読ませるので、浅薄な感じはけしてない。各論の文章量は少々足らないかもしれないが、よくまとまってこなれた文章と興味深いテーマの掘り下げは、そこから先に進むためではなく、ここを足場に視野を広げたくなる豊かさに満ちている。
全体的に雰囲気や方向性、文章のレベルや研究の深さが統一されており、そういう意味でも可読性が高い。ある意味でのテンポが、本の中にあるのだ。それに従ってするすると、興味深くよく調べられた中世の事象が、豊かに流れ込んでくる。「衣服の色と文様が語る中世フランスの感性」から「写本絵画の物語叙述とコンテクスト」まで、全ての章が非常に高レベルにまとまって、読ませる。
タイトルどおりの中世ヨーロッパ入門書としても、読み物としても、一つの研究書としても、どの角度を取り上げても非常にレベルが高い。名著。