イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

神国日本

佐藤弘夫、ちくま新書。いきなり昨今の思想潮流にのっかた浅薄な本と誤解されがちなタイトルだが、中身は真逆。「神国」の意味、そこで使われる「神」の意味を神道の成立、古代から中世にかけての政治制度と宗教の結びつき、仏教の隆盛と本地垂迹説、中世における精神世界の影響の大きさなどを絡めつつ丁寧に考える本。
現在「神国」にもたれているさまざまな誤解や、政治的な偏向を筆者はこの本の中で丁寧に解きほぐしていく。それは例えば、「神国」の「神」として扱われれる存在にいかに深く仏教の精神が(古代末期以降の仏教の圧倒的隆盛と共に)深く関わっているかだとか、元寇において強調されがちな「栄光ある孤立を守るための神国」という幻想であったりする。
筆者は中世精神史にその学問的中心をおく人物であり、仏教的世界観が中世においてどんなものであり、それがどれだけ強力なものであったかを具体的資料を大量に上げて、かつ適切な長さと筆致でわかりやすくあげてくる。その結果見えてくるのは、本地垂迹説の徹底と末世思想の浸透により日本を「辺土」と見、そこに救い手として現れた「神」=仏の垂迹の国としての神国の図だ。
特定イデオロギーで振りかざされる、とげとげしく荒々しい「神国」の姿はそこにはない。あるのは冷静な学術の視点、日本思想史への情熱、深い知識と資料発掘能力。そういうものである。丁寧に、的確に分解された「神国」思想の発生と発達、変化の過程を追いかけることで、一般に流通する「神国」のイメージは百八十度反転し、新たな意味を持つ。そのような行為は、やはり優れて学問的だといえるのだろう。
特定のイデオロギーを攻撃したり擁護する本というよりも。、政治と宗教、経済のかかわりを丁寧に抑え、古代〜中世日本思想史を「神国」をキーワードに読みほぐした本だと考えるべきとても面白い本だ。傑作。