イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アメリカ帝国の悲劇

チャルマーズ・ジョンソン文芸春秋社。ブッシュ親子の代から顕著になってきた、アメリカの軍事帝国主義について述べた本。原題は「The sorrows of empire」で日本語タイトルとほぼ同じ。翻訳にありがちなタイトル改悪はなし。
なのだが。語っている内容はいったん脇に大きく流すとして、その語り口が非常に危険である。「アメリカはもはや軍事帝国である」という主張には頷ける部分もあるし、そのための資料も必要なものを(ある程度)的確に追いかけているように見える。国防省官僚と軍事メーカーのつながり、グローバリズムの拡大とアメリカ政府の介入の隠れた関係、報道圧力により隠れた米軍・情報機関・政府機関のさまざまな非合法・不道徳的活動など、単体で見ればなかなか興味深い題材ではある。
だが、同時に徹底的に自身の主張を強化し、強調し、あまつさえ強要しようとする気配すら見え隠れする言語の使い方はいただけない。不特定な情報をさも確定された事実であるように語るやり方。強い言葉、カッコつきの言葉、大文字の言葉を多用して言説の印象を強める方法。アメリカが爆弾を落とした側の非道についてはほぼ一切振れない、意図的に遮断された情報公開の手口。
これらはまさに、筆者が攻撃しようとする「アメリカ帝国」の得意とする手口そのものなのではないか。激烈な語り口と、さも自身は正当に民主主義(もっといえば発生当時の合衆国憲法精神)の擁護者である、と大きな看板の圧力で自己の言説に疑いを挟ませない。それは、学究でもジャーナリズムでも報道でもなく、正しくプロパガンダであり、高度に政治的な言葉の使い方だ。
現在の"ジョージ・ブッシュのアメリカ"が高度に軍事企業優遇政策を取っており、そのためにさまざまに不透明な行動を取っていることは、僕は事実だと思う。それを支える事実はこの本でも語られているが、その裏側には同時に、それを糾弾するもう一枚の真実が隠れている。それをあえて暴き、その上にナオ自身の主張を重ね、理解を呼びかける態度こそ、「アメリカ帝国の悲劇」を避けるのであれば必要であるように、僕には思える。
書かれていること、分析の手法自体はそれなりに有用であり、適切でもある。問題は、語り口に押し流されるということと、それに押し流されないということの境目に、思考の根を伸ばすことである。そういう意味では、いかにも「正義」の匂いのするこのよく出来た本を、すこし斜によんでみるのは悪い体験ではないと思う。