イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

清潔文化の誕生

スーエン・ホイ、紀伊国屋書店。1850年から1950年の百年の間に、いかにアメリカの衛生意識、衛生環境が変化したかを細かい調査を土台にしてまとめた本。
タイトルの通りこの本はとにもかくにも「清潔」であり、アプローチとしては細くて狭い。細かい文献・人物研究を徹底し、具体的な活動や事業を事務組織や技術レベルの領域にまで踏み込んで調べ上げている。それ故に例えばアメリカの国民性だとか歴史だとか、そのような広い領域にコネクトするような内容ではない。
が、それは目指す場所とそこに到達するために選択した方法の違い、というものであり、アメリカ清潔文化の変遷という一点に絞って資料を読み込み、技術や文化、経済状態の変化と「清潔」の関連を徹底的に追いかける粘り腰の記述には非常に好感が持てる。都市部と農村部の発展(そしてそれに伴う「清潔」)の違いも同時代ごとに細かく書かれており、不足感はない。
その上で、フェミニズム・マイノリティズムという二本の視点を導入し、アメリカ国民の中でもいわば「後発」としてさまざまな場所において権利を制限されてきた女性・有色人種の「清潔」に対する歩みに注目している点が特徴である。それは彼ら(彼女ら)が置かれた「清潔」の状況という視点においてもそうだし、彼らが「清潔」の拡大に果たした役割においても、丁寧に分析されている。
細く狭く、丁寧にかつ解りやすく、一つのテーマを纏め上げた本であり、そのテーマに少しでも興味があればとても楽しめるだろう。良作。