イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

クレイドゥ・ザ・スカイ

森博嗣中央公論新社。どーやらキルドレシリーズ最後らしい、森先生の空戦SF。森先生はこのシリーズが一番、やりたいことをやるべき方法でやれているように思え、素直に楽しんでいました。シリーズとはいっても、延々登場人物が内省することが面白い小説なので、話自体は重視することではなく。
というか、まあ背景や話は進まず終わって。途中(「ダウン・ツ・ヘヴン」あたり)で廻すのかなぁ、という気配もありましたが、そこは切り捨てたようです。けどま、離人で自閉な内省が、乾いて透明な文体でたらりたらりと続くことが面白かったわけで。そこはきっちり押さえたまま続き、終わりましたね。
森先生は誇大というよりも、離人の方向に世界を捉えている作家だと僕は考えていまして。憎悪よりも違和感が、世界と文体に向いている。そこらへんの方向は、デビュー以来変わっていないと感じています。犀川先生もキルドレたちも、生きにくい世の中を生きているのは共通で。その生き難さが特に解消するわけでもなく、折り合いの付け方が見つかるわけでもなく終わってしまう。これも、森作品の共通だと思うわけです。
空戦とか老いない子供とか戦争企業とかは、あくまでそれを浮かび上がらせるための背景であり、同時に森先生が書いていて楽しい空気でもあった。無理と無茶がないので、不出来に作品がきしむことも無かった。それは、この話でも変わりがなかった。結局ぐるりと回って一週し、どこにもいけなかったスタートポイントに帰ってきたという。
「いつもどおり」という言葉はシリーズを評価する上で一番最初に出て来る言葉であり、それゆえ思考を停止している評価でもあるわけですが。それでも、ファーストコンタクトに見つけた耀くものが失われず維持されていくことは、評価されるべきであると僕は思います。そういう意味で、破綻も発展もなく、ただ離人していたこのシリーズは、全ての巻が心地よかった。いい小説でした。