イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ガッチャマンクラウズ インサイト:第7話『outbound』感想

強制的に進行する地球幼年期の終わり、今回は楽園の紅いアダムとエヴァ(もしくはリリス)と、楽園崩壊の予感。。
ゲルサドラの異能を核とした超直接民主主義は、わざわざ苦痛を望むマゾヒストの少数派を切り捨てていった結果、完璧な衆愚独裁制へと変質していきました。
それを止めることの出来る立場にいるはずのツバサは、むしろ積極的に悲劇のヒロインであることに酔っ払い、無知であることをむしろ誇りに思いながらゲルサドラが変化するチャンスを叩き潰す。
多様な価値観を吸い込みすぎたゲルサドラシステムが遂に破綻し、得体のしれない何かを生み出したところで今回は終わりました。


今回前半は、ゲルサドラの異能を核にした新しい日本、悪意も意思もない、共感とノリだけが全てになった世界の成立を描いていました。
非常に悪趣味かつグロテスクな同調圧力の描写の中に、どうしても含まれれてしまうノイズの描写が入り込んでいて、非常に尻の座りが悪い。
素晴らしいと思います。

ゲルサドラはまさに善意を集積し、最多という意味での最適を導き出す機械です。
そこに善悪の区別をつける判断基準はないんですが、多様な意思の中に含まれるノイズを処理する装置は搭載されていなかった。
それはツバサのように自分から無垢/無知/無恥という特権的立場に飛び込んだわけではなく、宇宙人である以上そういうイキモノではない、というだけのことです。
僕らにとってゲルサドラが異質であるように、実はゲルサドラにとっても人類は異質な生命体だった。
ゲルサドラ日本の暴走は、実は異質知性同士のコミュニケーションが成立していなかった結果なのでしょう。

実はゲルサドラ自身は自身の変調や人類の異質さに気付いていて、怖さや哀しさという負の感情を露わにしている。
溜め込みすぎたノイズが不調を引き起こしていることも、これ以上ないほどよく見せている。
追い詰められてガッチャマンたち少数派のマゾヒストと対話しようとしているんですが、ツバサがこれを阻んでいるわけです。
状況悪化を阻止するための最大の障壁が、宇宙人とのコミュニケーション不全ではなく、その仲立ちになるべき人間のエゴだってのは、最高に皮肉が効いていますね。

立川国会の舞台背景は分かりやすく(というか露骨に)エデンの園であり、対話によって人類の存在形態を知り、知恵の実を食べて楽園を出ようとしているアダムがゲルサドラなのでしょう。
それを引きとどめ、知恵を手渡そうとするはじめに強く敵対するツバサは、エヴァというよりはその前の妻に見えます。

楽園に許しを与えている寛大な神様自身が、超人類的な異能を持つゲルサドラであり、かつそれには限界があったというのが、今回ラストの展開につながっています。
本当にゲルサドラが神様なら、人類は『サドラにおまかせ』ボタンを押し続けて新たな在り方にシフトしてたんでしょうけども(理詰夢くんの言う『本当に猿になる』状態)、ゲルサドラは別に神様ではなかった。
悲しみ、恐怖する一知性体であり、異質な多様性を処理することが出来ない存在だった。
当然のように破綻した楽園から飛び出してきた『何か』がどのような性質を持っていて、どんな悪(もしくは善)をなすかは、来週以降のお話ですが。


ツバサの素朴で身近な価値観は、ゲルサドラとともに世界を左右していく過程で増幅され、気づけばゲルサドラにとって害をなす方向に舵を切っていました。
何も聞かず、何も考えず、目の前の正義をなし続ける彼女の善意は、ゲルサドラという神様を手に入れたことで、無邪気なまま実現可能になった。
一週間で日本のトップに上り詰め、かつて誰も成し得なかったドラスティックな改革を断行し、日本をより良い世界に変えていく革命者。
ツバサちゃんがヒーロー願望の奥に温めていた救世主主義は、それがトントン拍子に実現してしまう現実により、どんどん加速したのでしょう。

『現実的』な話をすれば、ツバサの抱く幼い理想は必ず現実に何処かで押しつぶされ、痛みとともに方向を転換しなければいけないたぐいの、他愛のない夢です。
夢がすり潰された後、それでも大事なものを守りながら実現可能な代替案を考えつくか、押しつぶされたまま捻れていってしまうかは人次第。
ですが、例えば累くんとかは一期でカッツェに踊らされ、二期で理詰夢に殴りつけられても、『世界のアップデート』という夢のためにできる事を諦めず、何度も立ち上がって実行している。
ツバサが奉じていたゲルサドラが実は神様ではなく、見出した楽園も出現した『何か』によって変化せざるを得ない現在、彼女は多分初めて、幼い夢を踏み潰されようとしている。
その後あれだけ嫌っていた『内発性のある人物』のように立ち上がり、夢の残骸を拾って現実を変化させられる形にリフォームできるかどうかは、確信の持てないところです。

というか、ツバサの夢は当然踏み潰されなきゃいけない。
彼女が持ち前の反知性主義と強情さでゲルサドラのコミュニケーションを阻害した結果、日本は歴史上類を見ない理想社会的衆愚独裁制に行こうし、人類の能力を超えた事件に巻き込まれてんだから。
ツバサがしがみついている『目の前の正義を為す』という理想には勿論良い所が沢山ありますが、悪い所が極限的に発露してこうなってんだから、彼女は叩き潰され、そして立ち上がらなくてはいけない。
この話『ガッチャマン』で、ヒーローについて語る話なんだから。
そこら辺もまた、生み出された『何か』が何をどうするのか、それを見てからのお話ではありますね。


そんな『ガッチャマン』たちも、危機の極限化に対し有効な手を打てなかったという意味では、ツバサと同じです。
ジョーさんは理念と目的はどうあれゲルサドラを首相にした後の責任を放置し、ツバサがゲルサドラを私する状況を看過していた。
清音は徹底的に普通の大学生で、女とトモダチが世界の全てというフツーの立場にいた。
パイマンは哀しいくらいに愚かで、しかも愚かさが危険に直結する責任的な立場にいた。
ODは自分の分をわきまえて過剰な干渉を控えていたけど、それで溢れる知性を嫌忌されて、メディアから排斥された。
うつつちゃんは可愛かった。
全員事態への関わり方や立場、責任の重さはそれぞれ別なれど、地すべりしていく状況に打つ手がなかったのは共通しています。(無論、ここまで状況が悪化しないと語るべきことが語れ得ないわけで、物語的な都合が彼らの足を止めたのは否定しません)
今回特に強調されてたけど、戦犯探しするならブッチギリでパイマンだなこれ……。

一気に主役だった累くんとはじめちゃんも、それぞれの事情で妙手を打てずにいます。
累くんに関しては、クラウズ廃案に一気に動いた世論を押しとどめるタイミングで、負傷により退場を余儀なくされたのが不運に過ぎます。
一度弾みの付いた世論と闘い勝てたかというと疑問ですが、少なくとも座して状況が悪化するのを見てはいなかっただろうと、僕は思うのです。
しかし現実にはベッドに釘付けにされている間に自分の影響力は低下し、革命の種火は封じられてしまった。
無念だと思います。
そういう状況でも己の性急さを反省し、自分を刺した相手に助力を請う事ができるあたり、やっぱ器のデカい人物だとも。

はじめに関しては、表面的には介入するべき悪事が起こらなかったのが、動きの遅れた理由かななどと思います。
彼女の武器が『ハサミ』であることからも分かるように、強い洞察力を持っていながら彼女の本性は悪い所を切り取って繋げる行動に足場を持っていて、言葉で何かを伝えることは不得手です。
善意の増幅によって進行した今回の事態は、悪意の加速によって素早く被害者が出た一期の事件よりも、はじめの『ハサミ』が機能する局面が少なかった、と言えます。
ゲルサドラが実現したのは歪でも楽園ではあって、はじめとしては積極的に施術する理由を見つけにくかったのでしょう。
はじめは多様性を是としているので、基本的に他人を肯定し続ける子ですし。

そんな状況でも、自分の違和感を信じ周囲に染まらない灰色のまま、はじめはなんとか自分の気持を伝えようとしていました。
その穏やかな努力と賢さは僕とても好きですし、評価されてしかるべきかなと思います。
信念に基づいて即座に行動した結果、状況が地獄に地滑りしてったジョーさんみたいな例もあるしなぁ……。
全てを俯瞰的に見れる神様の目で良し悪し判別するのは楽なんですが、起こってる事態の異常さ、見通しの立たなさを考えると、一概にキャラクターバカにすりゃいいって話でもないだろうし、なかなか難しい。
ココラ辺の視点の置き場所も、問題が起きて初めて物語が発生するという、クライシスパニック的な特色を感じさせます。


はじめ自身は洞察力も内発性もバランスの良い価値観を持った、完成された人物です。
その完成度がツバサのトラウマを刺激し、ただでさえ伝わりにくい天才言語が届かなくなる原因になっていたのは、本当に皮肉だなと思います。
はじめがツバサを認めている描写はそこかしこに埋まっているんですが、ツバサにとってはおためごかしというか、自分のバカさを天才が嘲笑っているようにしか思えないんでしょう。
ツバサのガッチャマン離脱は、天才の集団に凡人が突然紛れ込んだ結果、当然起きてしまった悲劇といえるのかもしれません。

ここでゲルサドラに繋がる唯一の人類がガッチャマンから抜けると、これから起こる悲劇(じゃないかもしれないけど、最後に出てきた『何か』は露骨にろくでも無いだろ、アレ)をコントロールするチャンネルが確実に無くなるので、はじめはツバサのガッチャマン脱退を絶対認めません。
無論実利だけじゃなくて、後輩が人間として道を大きくコースアウトしそうな状況で見捨てたくないという、気持ちの問題もあるんでしょう(というか、多分ソッチのほうが大きい)。
状況改善に繋がる最善手を直感しているという意味合いでは、一番人間味がない(とされる)はじめが、一番視聴者に近いのかもしれませんね。


一話から埋め込んできたツバサとはじめの切断面が、危機をどんどん加速させていくお話でした。
神様のように思えたゲルサドラにも当然の限界が来て、予感させていた危機と不都合が実体化し、話が大きく動いた今回。
人の心から生まれた『何か』がどういう存在なのかとか、ゲルサドラが星の世界で何をしてきたかとか、気になるヒキも丁寧に積み上げられました。
さーて大転換点!! と言いたいところなんですが、来週は24時間テレビでお休み。
ふふ……焦らしてくれるねホント……。