イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

乱歩奇譚:第10話『変身願望』感想

発狂する宇宙の少年聖譜もそろそろ最終話、今回はラスボスたるナミコシくんの独白。
第8話の裏返しでして、あの時は明智の側から見た暗黒星が、今回はナミコシの側から見られているという趣向。
まぁなんだ、世界と一緒に心中仕掛けてくるこじらせホモだったな!!
スーパーサイコたるコバヤシ少年が、共感の涙をながすのもやむなし。

感情のラインとしてはナミコシとアケチはそんなにズレていなくて、お互いのことが大事だったのに、ナミコシを殺しに来る世界に対抗できるほど優秀でもなく、殺されるくらいなら殺す! という発送に走った結果が大暴動という感じでした。
バタフライエフェクトを自在に操る天才児と、超頭脳を持った少年探偵でもイジメには勝てないという反=猟奇主義は、ワタヌキ編と共通するところかな。
ハッタリ効いた変人といえども、生臭くて面白みのない暴力の押し付けを逃れる特権を持っていないルールを、『中学生だったんだよ』でまとめるセンスは結構好きだ。

ともあれ中学生マインドのまま暴走し、残酷な世界に対するプロテストとして、差別殺人概念を社会に投擲してしまったナミコシ。
世界全てが炎に投げ入れられそうになってる割に、アケチが抱きしめて押し倒していれば防げた事件な気もしますが、まぁ中学生だったからね、しょうがないね。
時間は逆には回らないわけで、一度フツーの世界から脱落したナミコシが戻ってきてハッピーエンドとはならないでしょうが、アケチ先輩がどういうケジメつけるかは気になります。

暗黒星の堕胎を不帰点として道が別れてしまったオッサンカップルに対し、ハシバとコバヤシ少年にはまだワンチャンあるので、頑張って欲しいところです。
いつも笑顔で辛辣なコバヤシ少年が、ハシバに関しては大人しく聞いて涙まで流していた所を見ると、彼らの猟奇趣味は世界に弾かれた孤独が根っこなのかなぁ。
孤独故の異界へのあこがれというのは、人類全員がひっそりと抱え込んでいるものだと思うので、否定以上のオチを見たいところです。


感情動線の部分はこんな感じでそれなりにまとまっていたのですが、暗黒星システムは相変わらずの0/1の機械神であり、望んだ結果がどんどん出てくるブラックボックスである。
正直都合の良すぎる感じがしないでもないが、ロジック周りの雑さはこのアニメ、今に始まったことではない。
論理の組み上げよりも舞台の枠組みのほうが大事だということは、それこそ舞台劇風の演出を多用した段階で、感じ取って欲しかったことなのかもしれない。
人間椅子のドッキリトリックの時点で、色々気づけということかも知んない。
暗黒星があまりに便利すぎる結果、それがナミコシに与えた特権的逸脱の意味合いもまた軽量化されてしまったのは、とても残念だけど。

ミステリ的なものよりもむしろ、ルポタージュ風味に触られるナウい社会問題の扱いのほうが個人的には引っかかっていて、今回もいじめと家庭内暴力がナミコシのオリジンとして貼っつけられてた。
洒落にならない問題を触るのであれば、洒落にしない態度でやって欲しいなとぼくは思うのだけれども、このアニメは毎回粗雑にシリアスな問題を食い散らかして使い潰す。
司法制度の不備やら精神異常者の犯罪やら、ブラック企業やら色々触ってきた社会悪が、暗黒星プログラムというザラッとした舞台装置に噛み砕かれて、どうにでも左右されてしまう卑近なものになってしまっている(つもりが製作者になかろうとも、僕にはそう受け止めざるを得ない)のは、どうにもお話しを素直に受け入れるのを阻害してくるのだ。
難しいネタを扱うのであれば、難しいネタとして慎重かつ丁寧にやって欲しかったと、今回のいじめ描写を見ていて思った。

しかし二十面相という社会現象が、結局ナミコシ個人の卑近な挫折感と絶望に還元され、気づけば社会がひっくり返っているという捻れ方は、個人的には好きではある。
社会正義がどう、変革がどうと言いつつ個人の妄想の内側に物語が収まり、妄想が社会と摩擦した結果の内破が物語のクライマックスに置かれている構図は、狙ったのかは分からないが奇妙に乱歩的だ。

この話は振り返ってみればナミコシとアケチの話であり、彼らの廃児たる暗黒星に惹かれたコバヤシ少年と、彼を押しとどめるハシバの物語である。
重要なのは男と男のカップル二組であり、大量の死者も殺人者も、彼らが踏み外すべき正常の対比物としての猟奇以上の意味を持てない。
かなり概念的な舞台劇だという視座から見ると、この割り切りはむしろ気持ちが良い。
作品内で描かれる逸脱の軽さ、逸脱と対比される社会の圧倒的重力の軽さが、乱歩没後50週年作品としてある程度の批評性を期待されていた(少なくとも、僕はしていた)アニメーションに、相応しいかは分からない。
そこら辺は、最終話たる第11話を見てみないと、わからないところだろう。
とりあえず、二組のホモセクシャルカップル達が己の感情をどう落ち着けるかは、素直に気になる。