・Go! プリンセスプリキュア:第41話『ゆいの夢! 想いはキャンバスの中に…!』
そろそろゴールが見えてきた10作目のプリキュア、今週は避難誘導番長ゆいちゃんのお話。
『夢』という題目と真正面から相撲を取ってきた以上、逃げることは出来ない『プリキュアには選ばれなかった存在』の『夢』というテーマ。
これまでの描写の蓄積もあって、ヒーロー以外の存在価値をしっかり示したエピソードとなりました。
凡人出身ということなら主人公はるかもゆいちゃんと同じですが、はるかは運命に選ばれプリキュアとなり、グランプリンセスへと駆け上がっていくお話の先頭。
凡人のままではお話が進まないわけで、彼女がどんどん特別な存在になっていく様子は、ある意味約束された展開といえます。
ゆいちゃんは変身も出来ず、暴力に抗う直接的な力も持たない、普通のままの中学1年生。
しかしプリキュアを見ている少女(とそれ以外の全ての人間)が必ずしも選ばれているわけではない以上、変身できないゆいちゃんの夢をどう扱うかは大事になります。
これまでも『絵』という特技を活かし、プリキュアの戦いを見守り導く『語り部』という立場が、ゆいちゃんには示されていました。
クローズとの決戦でもはるかを奮起させたのは、無防備なゆいの勇気。
今回のお話はゆいの視点に強く寄り添っているとはいえ、今まで積み上げてきた描写の外側に飛び出す、突飛なお話ではありません。
迷いと絶望を吹っ切って描いた佳作(最優秀作でも賞なしでもない夢の加減が、僕は好きです)にしても、『プリキュアの語り部』として素直なテーマを形にしたわけであり、今回の話は『外に出ていく』話ではなく、『元に帰ってくる』お話だといえます。
しかしとは言え、帰ってくるためには迷わなければいけない。
外的な評価を気にして惑い、冴えない自分に笑顔を曇らせていくゆいの姿は、いつもの華やかなプリンセスプリキュアと正反対の地味な絵面で、だからこそ普通の女の子の普通の悩みがよく伝わってきました。
メインキャラクターを画面から外す展開はかなり思い切った絵作りだと思いますが、プリキュアの超常的な戦い(と解決法)から離れ、ありふれてだれにでも訪れる、だからこそ大切な悩みを切り取る今回、結衣の孤立は必要なエッセンスだったと思います。
プリキュアを真ん中から外す作りは解決法にも現れていて、コンテストへのきっかけを作り、友人を支えはしても、結衣が迷いから抜け出るきっかけは望月学園長が与える。
芸術の道を先んじる先達として、生徒に道を示す教育者として、子供を導く大人として、プリキュア以外の助けで前に進むのは、良い人選だと感じました。
避難誘導に手間取るシーンを入れて『プリキュアではないが、プリキュアに出来ないところを担当する』ゆいの特別性をサラッと見せたり、学園長は良い脇役でしたね。
幼い子供の初期衝動に触れることで迷いを吹っ切る流れは、夢を否定されたはるかがプリキュアの力を取り戻す展開と重なっていて、プリプリが見せたいものをハッキリさせます。
夢に迷うことはプリキュアの特権ではなく、だれにでも起きること。
それを否定するのではなく、良い方向に導いてくれる他人に感謝をしながら、自分の内側から湧き上がる気持ちで前に進んでいく。
はるかが長い時間をかけて歩んだ道を今回一話にまとめてゆいに体験させることで、ヒーローの特権性が良い意味で薄れているというか、お話のテーマがより広範なテーマ性を帯びた感がありますね。
『女の子は誰でもプリキュアになれる』という言葉は、変身アイテムや特殊な力を祭り上げるのではなく、ヒーローの物語を自分の人生に取り込んでポジティブな力に変えるという、凄く基本的で大切な役割を端的に示した言葉。
その題目をストーリーの説得力で示した今回は、プリプリだけではなくプリキュアシリーズ、ヒーローフィクションにとって大事な話だった気がします。
とは言うものの、結局はプリンセスたちがお城パワーで敵を倒す事で、お話は収まるのですが。
女児アニが玩具メーカーの販促と背中合わせである以上、心躍るアイテム活躍シーンは作らなければいけず、ゆいが独力で絶望の檻をぶっ壊す掟破りはなかなかできない相談です。
プリキュアは普遍的な存在であると同時に特別な存在でもあり、そのスペシャルな感じを殺さないことは、ヒーロー娯楽作品として揺るがせにしてはいけないところ。
迫り来る絶望に抗い、化物の足を内側から止めることが、プリキュアではないゆいに許されたギリギリの反抗だということなのかもしれません。
……本音を言えば、あそこでゆいちゃんが『絶望なんぼのもんじゃい! これが人間の心の光じゃい!!』と檻ぶっ壊し、完全版プリキュアスパークでゼツボーグ倒すのが最高にカタルシスあったが、そうなったらもうプリキュア五人目作るしか無いし、ゆいちゃんの物語的存在意義も変質しちゃうからな……難しいところ。
しかし悪意に押し流される犠牲者の役をゆいが担当したことは、プラスにも働いています。
圧倒的な暴力に晒され自分ではどうにもならない歯がゆさを、強く正しく美しく助けてくれるヒーローの頼もしさ。
ゼツボーグ内部からの主観演出によって、これまで犠牲になってきた人がプリキュアをどう見てきたのか、はっきり解った気がします。
ゆいの感情に強く寄り添った今回の演出はここでも効いていて、一般人の目から見たヒーローへの信頼感が、ダイレクトに伝わってきます。
これはプリキュアの側だけにカメラを置いていては見えてこないアングルであり、『プリキュアではないが、プリキュアに出来ないところを担当する』ゆいを丁寧に扱ってきた意味が、強く表れるシーンでした。
ヒーローの活躍は爽快感があるので、ついつい視聴者は英雄のカッコいい活躍だけを求め、製作者もそれに答えてしまう事があります。
でも、『特別である』ということは『特別ではない』という対比物があって初めて描写できるし、平凡であるということ、普通であることは笑われるような短所でもない。
ヒーローに憧れ、ヒーローになる女の子の特別なお話を気持よく展開すると同時に、それを補うように(もしくは強化するように)しっかりヒーローになれない女の子たちのお話を続けてきたこと。
プリキュアにするのと同じように、七瀬ゆいという女の子(が代表する、プリキュアではない人々)の人生を大事に描写してきたこと。
プリプリの制作姿勢がしっかりと詰まった、柔らかなエピソードだったと思います。
お話が結末に向かうこのタイミングで、まずプリキュア以外のお話をしっかり結論付けるプリプリの姿勢が、僕は好きです。
足場をしっかり固めたので、次回以降は主役のラスト・エピソード・ラッシュ。
まず先頭を切るのは世界一ハンサムな彼女、天ノ川きららであります。
『夢とプリキュア、どっちを取るのか』という二択は、実は彼女の登場エピソードと同じ悩み。
今回ゆいが自分の答えに帰って来たように、これまでのエピソードの蓄積を活かした展開を期待します。
……予告から濃厚なきらトワの匂いが漂ってくんだけど……あとゲストからもなんか……すっげぇ楽しみ。