イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ノラガミ ARAGOTO:第10話『斯く在りし望み』感想

残酷な世界で優しく生きる方法を探す神様と人間のお話、恵比寿編クライマックスであります。
萌え中年恵比須さんが禁忌を犯し、寿命を縮めてまで妖を使役していたのは、なんと世のため人のため。
私欲を捨てて本気で世界を良くしようとする恵比寿に、ヤトも男惚れして奮戦しますが、イザナミ軍団がつえーのなんの。
決死の冥府攻防戦をともにするうちに、男たちの魂が火花を散らすお話でした。

人を殺すことでしか自身を世界に認めさせることが出来ない禍ツ神として生を受けたヤトは、どこか捨て鉢というか刹那的というか、まっとうな生き方を諦めているところがあります。
雪音くんやひよりと出会い交わることでそんな孤独な魂も変化し、別の生き方を探していたわけですが、彼の支えになっているのはあくまで神器や人間。
知名度や立場は違えど、同質の神に強い感情を抱いた今回は、彼の歴編の中でかなり大事な回なんじゃないかなぁ、と思います。
これまで自分を下支えしてくれる身内にだけ心を許していたヤトが、今度は理想として上から引っ張ってくれる存在を見つけた、というか。
小福も天神も縁ある神様で大事には思ってるんだろうけど、高い理想になりうるかって言うとそうでもないしね。

ヤトから綺麗なものへの憧れを引き出した恵比寿の自己犠牲が、代替わり=システム存続のための個人の死を前提にしているってのは、このアニメらしい皮肉だと思います。
少年が青年になるまで生き延びられることを当然視しない、誰かの幸福のためのシステムとしての恵比寿。
神が代替わりしても神器がシステムを受け継いでいくやり方は、神器個人の幸福のためにシステムがねじ曲がっていった毘沙門一家と面白い対照をなしています。
その歪さをバケツの中の魚一枚で見せていたのは、演出が何をするべきなのかを端的に見せていて、とても良いカットでした。
神を蔑ろに使い潰すとも取れる恵比寿一家のほうが、少なくとも近習として恵比寿を直接守っている連中だけは、毘沙門一家より風通し良さそうところとか、なんか面白い。

恵比寿システムの一部として自分が希薄だった恵比寿に、代替わりが出来ないからこそ自分であることに拘ってきたヤトが活を入れる展開も、キャラを活かしていて良かったです。
ただ憧れて引っ張られるだけではなくて、泥まみれで生きてきたからこそ与えられる言葉を、必死に紡ぐヤトの姿はやっぱなんかこれまでと違う。
神生諦めムードだった男が社を手に入れ、信者を手に入れ、理想を手に入れてがむしゃらに走っていく姿は、凄く涼やかで眩しくて、ノラガミの新しい魅力を引っ張ってきた感じがあります。
恵比寿もそれに引き寄せられたからこそ何かを強く決意したんでしょうが、それでも死ぬこと前提の語り口と立ち回りなのが、事実の蓄積をそうそう簡単に変化させてくれないノラガミらしいシビアさですね。

ヤト&恵比寿はお互い背中を預けて冥府を駆け抜けていくうち、お互いを認め合った関係がすごく好きなのでなんとか繋いで欲しいけれども、叶わぬ願いだろうなぁ……流石最古の神だけあって、イザナミがつえーのなんの。
そもそも勝つの負けるのが大事なエピソードではないし、野良の台詞でそこら辺も説明されているので、何を選びとり何を犠牲にするかが大事なんでしょうが……やっぱ死んで欲しくないね、本音を言えば。
主人公の気持ちと僕の気持ちが重なるようにお話を操作できているってのは、やっぱいい物語だと思います。


そんな男二人のブルーズはさておき、ひよりは無事記憶を取り戻し、島根くんだりまでわざわざヤト救済のために足を運んでいた。
自体が悪化し始めて『一体どうなってしまうのか……』と不安になったタイミングで、最高においしく出て来て全てを良い方向に転がす辺り、雪音くん優秀。
記憶を失っているひよりの態度がディオに唇を奪われたエレナそのものであり、泥水で口を濯ぎかねない嫌悪っぷりに少し笑う。
笑うが、やっぱひよりがなくと胸がしくしく辛いのであり、ササッと鬱フラグブレイカーした雪音くん優秀。

今回一時的にでもヤトとの繋がりを失わせたことで、ひよりのヤトへの気持ちを再確認させ強めたのは、良い動きだったと思います。
この話はリリカルな語り口が元々上手いアニメではあるんですが、今回のひよりの喪失は特にじっくりとした語り口でひよりの弱さや揺れる心を丁寧に捉えていて、非常に良い演出でした。
オヤシロの話でヤトからひよりへの気持ちが強く伝わったからこそ、ここでひよりからヤトへの気持ちと関係を整理し、強いモチベーションを捕まえさせたのは非常に良い。
恵比寿編がどう終わるかはまだまだ見えないところですが、この一ヶ月の離別で強まった絆は彼等にとって大きな武器になるだろうし、お話を支える太い柱にもなるんじゃないかと思います。
やっぱひよりは良いキャラだなぁ……清潔感と強さが同居している。

平行して展開の内ゲバも加速していて、七福神が官憲の束縛を脱してた。
恵比寿の計画が世界のルールに反する危険な行為であるのは間違いがなく、そこに込められた恵比寿の本気とかをあの腐れ組織が斟酌はしてくれないよなぁ。
メガネが前エピの醜態など忘れたかのように強キャラブッていたけども、結構厄介なことになんじゃねぇかなぁ。

今回は大黒天の破壊神的側面や、恵比寿と漁業、恵比寿とヒルコ、天神と飛梅、ヨモツヘグイなどなど、オカルティックな要素をサラッと使いこなしてくれていたのも、面白いところでした。
ポップな装いをしつつもノラガミのオカルト知識は結構ハードコアで、かつそれに溺れてうんちく漫画にならない舵取りもちゃんとしているのが、素敵な料理法だと思います。
七福神は要素自体も複雑に絡んでいるし、複雑怪奇に変遷した結果現在のポップな形に落ち着いている部分があるので、ノラガミでの掘り下げ方はいろいろ興味深い。

というわけで、二つに分かたれつつもお互い必死に走り続ける、神と人間の絆のお話でした。
神様の方はこのままだと冥府に繋がれて帰ってこれなさそうですが、大逆転の気持ち良さと世知辛い苦さがあるのがノラガミ
死ぬオーラが否定出来ないレベルで立ち上る恵比須さんの今後も含めて、色々気になるところですね。
とりあえず、ひよりが毒蛇の影響から離れてくれてよかった……。