イマワノキワ

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花野井くんと恋の病:第5話『初めてのデート』感想ツイートまとめ

 花野井くんと恋の病 第5話を見る。

 イケメンを紹介するべきか悩んだり、屋上で胸キュンしたり、初めてのデートに悪戦苦闘したり。
 微笑ましい二人の日々を追いかける中、ほたるちゃんがついに”覚醒(きづ)”く回である。
 特別なイベントが炸裂してドヴァーっと状況が変わるというより、じわじわ積み上がったものが鈍感少女に理解らせた感じがあって、肌触りがとても良かった。
 小さくて暖かいものを確かに花野井くんが手渡し、ほたるちゃんが受け取っていたからこその恋の自覚だと思うので、語り口もそういう塩梅で馴染みが良い。
 こういう語りの形式と内実が噛み合う瞬間は、物語のポテンシャルが跳ねるので好きだ。

 

 お話としては大変微笑ましい感じで、可愛い高校生カップルがすること全部! って回。
 ハタから見てりゃ大したことのないアレソレに、いちいち思い悩み足踏みして真剣に考える生真面目が、年相応…というか二人っぽくて凄く良い。
 この真摯さはほたるちゃんだけの属性かと思いきや、泰然としているように思えた花野井くんもまた、どうすれば愛されるのか必死に考え、ちょいヤミに首突っ込んでいたのが今回解る。
 愛が重すぎる少年の熱を受け取る形で、ほたるちゃんが恋を知っていったように、花野井くんもまたほたるちゃんの誠実を鏡として、自分の真っ直ぐな部分を顕にしていく。
 お互いがお互いを今、まさに必要としている二人だね、

 つーか花野井くんの傷と痛みが想像より深くて、めっちゃ可愛そうになった。
 『ゆるふわ愛着障害だろコレッ!』と画面の前で叫んでしまったが、愛されている実感があまりに遠く、ツラのわりに寒い人生送っている彼にとって、自分が投げ渡した火を一緒に大きくしてくれるほたるちゃんは、待ってましたの運命の相手だ。
 受け取る姿勢ができていない相手にとっては、過剰な炎になってしまうやりすぎた情熱の意味を、ちゃんと見つめて考える落ち着きと博愛がほたるちゃんにはあって、それは狭く危うい愛情をたった一人に向ける(と思い込んでる)花野井くんに、欠けているからこそ必要なものだ。

 与えて、返してもらう。
 対等で当たり前のコミュニケーションが成立しなかった体験から、花野井くんはたった一人だけを愛して他を蔑ろにすることで、愛の証が立てれると思いこんでいる。
 しかしほたるちゃんが正しく見据えているように、完璧を装って過剰に与える彼にも横幅広い優しさがちゃんとあり、恋人のために他を切り捨てる生き方は、彼自身の本性に噛み合っていない。
 だがそうしなければ愛されないと、頑なに縛られ傷ついている彼自身は、自力でこの鎖を引きちぎることが出来ない。
 では、だれが愛着の鎖を解くのか。
 花野井くんに恋して、その在り方を本人より強く見据えている、彼の恋人(仮期間終了)であろう。

 

 クリスマスのスーパー胸キュンデートにおいては、ほたるちゃんがずっと求めて手に入らなかった”特別”を手渡してくれた花野井くんが、愛されるための完璧な鎧を夢現に脱ぎ捨てて、その奥にある脆い生身を晒す。
 『愛されたい。自分には何もなくても』という本音を聞き届けてしまったら、もとより広汎に優しいほたるちゃんが特別に思いたい相手を、もう抱きしめるしかないだろう。
 特別な一人を選べばこそ成立する、恋という関係性が他人事ではなく、今自分の目の前に…胸の奥から熱く湧き上がっている実感。
 それがほたるちゃんを花野井くんの方へ近づけ、彼が手渡してくれたものの意味を新たに教えていく。

 積み上がる穏やかな幸せと、だからこそ鍵が空いた心の陰りを受け止めて、ほたるちゃんは情熱と恋を知った。
 それはいまいち良く理解らかなった花野井くんの属性で、自分の中にも彼がいて、彼の中にも自分がいて、お互いがあわせ鏡の中無限に広がっていけるような確信を、静かに熱く燃やしていく。
 これは相手がいてこその恋であり、ひたすら自分を与え続け自分を蔑ろにする、献身的に見えてエゴイスティックな花野井くんの恋より、もうちょい善いところへ進み出せる在り方だ。

 ここでの”善い”は、社会が正しいと規定するスタンダードに合致していて、はみ出す部分がない…という意味ではない。
 それよりもっと個人的で 切実な痛みにまつわる、ある種の処方箋的な善さだ。
 花野井くんは、僕の想像より遥かに強く傷ついていた。
 愛された記憶が欠けているから、対等に与え与えられる経験を築けず、一方的に奪って満たされる側に立つには優しすぎ、結果身を削って与えるだけしか正解が見えない。
 それをあらゆる人に行えるほど聖人ではないから、たった一人自分を愛してくれそうな、特別な相手を規定してすべてを与え、その見返りを求めている。
 そんな完璧と献身の皮を被った、身勝手で狭くて危うい在り方は、実は花野井くんに向いてない。

 ほたるちゃんが見て取ったように、彼の愛情は実は結構横幅が広い。
 どうでもいいと言ってる人を、実はどうでもいいと思えない心性を持っているのに、どうでもいいと切り捨てなければ潰れてしまうくらいに、渇望とエゴイズムは彼を弱らせている。
 だったら素直なあり方にピッタリ来る、色んな人を大事に出来る”善い”生き方を、太眉正道ガールに輸血してもらうしかねーだろ!! …という状況かと思う。
 与えられた愛をなかなか本物だと思えない、冷たく尖った防衛機構を花野井くんは育ててしまっているが、この氷を溶かす熱量はほたるちゃん、当の花野井くんから貰ったもんね!
 間違ってるやつの秘めたる正しさが、そいつを愛する誰かに手渡されて当人を救う展開、ホント大好きだから今マジ熱いよ…。

 

 正しさではなく、心から本物だと感じられる熱量を求めいたほたるちゃんが、花野井くんと触れ合う中でそれに出会って、だからこそ救済を届けられそうな特別さを今回見つけたのは、これまた”善”かった。
 屋上でのデンジャラス・コンタクトを通じて、極めて近しい距離を許し合う特別さが自分の中にあると、チャーミングな発情に感じ取ったほたるちゃん。
 恋と愛と性の薫りに、おぼこいほたるちゃんがガンガン近づいていく性徴のグルーヴ感もかなりビリビリ来ているが、溶け合うほどに近い間合いを魂が求めるなら、何でもかんでもやりゃええねん!
 それを許し合えるのが、恋人関係の良いところでもあろう。閨に禁じ手なしッ!!

 とはいえお互いの同意をしっかり確認し、時に現状に即して二人のルールを変えていける、極めて現代的なコンセンサス形成も、二人を繋いでいる。
 グイグイ前に押し出す情熱と、それが哀しい衝突にならないように調整する理性をお互い持ち寄って、尊重し合いながらより善い、より心地よい距離感を探っていく下地が、恋人試用期間の間にしっかり形成されているのはとても良いことだ。
 何が善くて悪いのか、決めるのは恋の当事者であって社会や常識ではないと、胸を張って堂々叫べるようになった時、その鋳型に別々の形はめ込まれていたほたるちゃんと花野井くんは、新しい自分を作っていくと思う。
 もっと、自分らしい自分を。

 そういう喜ばしい自己形成が果たされ、一人では気づけず特別な誰かがいてくれたからこそ見えていくこと…凄く広い場所へと、特別な誰かを選べばこそ踏み出せるってのは、俺は凄く真っ当なメッセージだと思う。
 愛されていない自分は、たった一人しか愛する力がない。
 そう思い込んでいる花野井くんを、恋を自覚したほたるちゃんの手が強く、優しく引っ張っていくだろう。
 それはあのクリスマスの日、ずっとたどり着きたかったけど諦めていた高みへと、押し上げてくれた恋人への恩返しでもある。
 自分を愛してくれた人へ、愛を伝えられないことに悲しさと悔しさを感じる、ほたるちゃんは極めてフェアだ。

 

 逆にいうと、愛着と自己卑下が複雑にこんがらがった花野井くんのカオスを、自分に近しいものと実感できるまでは、対等に向き合う姿勢が整わなかった…とも言える。
 上からの正しさぶん回すだけでは、傷つきやすく不定形な人間と組み合うことは難しい。
 ほたるちゃんが折に触れて思い出す、かつての失敗はその正しい遠さ、冷たさが生み出したもので、しかし近さと熱さ(ヤンデる花野井くんの特権と思われていたもの)が自分の中にもあると、思い知らされ納得してしまった今のほたるちゃんには、迷える花野井くんと向き合う資格が十分にある。
 対等に同じ感情で殴り合えるフィールドへ、正論天使がようやく降りてきたのだ。

 もちろんこれは勝った負けた、正しい間違ってるの話ではなく、苦しい生き方をしている花野井くんが恋人に抱きしめられることで、より辛くなく生きていけるという、一種のケアの話だ。
 俺はそういう、不完全な人間が理不尽な世界で生きていく中、肩寄り添って傷に触れ合いながらなんとか切り抜けていくしかない話が好きなので、凄く柔らかいトキメキを作品全体に満たしつつも、そういうままならなさ(そこからの突破)をちゃんと書いてくれてるこの話、好きだ。
 ほたるちゃんや花野井くんお、普遍的でありながら等身大でもある悩みや美質がちゃんと書かれてて、二人が好きになれるのが凄く良い。
 幸せになって欲しいと、素直に思える。

 つーか花野井ボーイがあんまりにもガッタガタな精神しとるので、『保護者は何やっとんだッ!』という気持ちになった。
 明らか幼児期に良くない体験してこうなってるっぽいので、話が進む内に花野井家の事情も描かれ、ほたるちゃんが切り込んでいくだろう。
 …日生家のフツーに満ち足りて幸せな家庭描写を積んでいるのは、花野井くんの火宅を暴いて際立たせるための、ある種の下準備かなぁ。

 

 そんな事気になりつつ、ついに恋心に”火”が入った回でした。
 自分の中に…そして世界と特別なあなたに確かに在る真実に、目を開く瞬間はやっぱ物語で一番面白い。
 この善き覚醒に導かれ、物語はどこへ向かうのか。
 次回も楽しみ!