イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

灰と幻想のグリムガル:第5話『泣くのは弱いからじゃない。耐えられるのは強いからじゃない』感想


『きょう、マナトが死んだ』と書き出すほどには人間性が枯れていない異邦人たちの七転び八起き、今回はマナトその後。
リーダーを失ったパーティーは予想通りグダグダと道に迷い、死ぬほどどうでもいい流れでヒーラーは埋まり、しかしギクシャクした人間関係は簡単には元には戻らず、その上で前に進んでんだか下がってんだかよく判んない一歩は踏み出した。
このアニメらしいでんぐり返りで、一人の男の死と不在を描き出した回だと思います。

前回じっくりとマナトの死を描き、今回は劇的なその瞬間の後ダラダラグダグダとどうしようもなく続く現実の後始末が真ん中に座る。
人が死んでも銭がかかり、リーダーがいなくてもゴブリンは殺さざるを得ず、新入りとの距離感は巧くつかめない。
どこにも行けない僕達の。どこにも行けないリーダー喪失後の日常と言った感じの展開でした。


男衆が酒の力を借りて結束を強めていく展開は、リーダー不在でもなんとか生きなきゃいけない集団の力学を感じさせて、結構好きな流れです。
これまで縁がなかったのに、マナトを偲んでゴクゴク呑んだら、案外憂さが晴れるので定番になっちゃった感じとか、素晴らしいグダグダ感。
人間力高いチャラ男の手助けもあって、トントン拍子でヒーラー自体は確保できる都合の良さとかも、『まぁ……こんな感じだよね』という生々しさを感じさせて、じっくり楽しかった。

お話のテンポを極限まで遅くし、じわりじわりとボンクラ冒険者のアレコレを描いているこのアニメ。
やっぱ注目するべきはゆったりとしたキャラの芝居でして、酒に溺れてどんどん腐っていく男たちとか、大声出し慣れてないけど頑張ってキレたモグゾーとか、チャラ男のヌルヌルした人生の泳ぎ方とか、観ているだけで面白い。
何でもかんでもマナトに任せていた状態が否応なく変化し、ただの朴訥な大男だったモグゾーの地金が少し見れたのは、良いシーンだったな……福嗣さん、結構いい芝居するな……。

『トントン拍子でやってきたヒーラーは、かなりの地雷でした!』ってのは、このお話らしい都合の良さと悪さでして、『PTがにっちもさっちも行かなくなって、男は奴隷労働女は売春!!』みたいな異世界ウシジマくん的露悪展開になるわけでもなく、『マナトの死を嘆く咆哮がハルヒロの秘めた能力を覚醒させた!』みたいな都合のいい展開にもならない、ハンパなラッキーとアンラッキーですな。
そういうハンパな都合の良さと悪さに微笑まれつつ、グダグダ悩んだり、衝突して少し前に進んだりっていう地道なでんぐり返りが、やっぱこのアニメの魅力だと思います。
ヒーラーとの和解を今回やっちゃうのではなく、その下準備というか付随した問題であるユメとのしこり解消の方に時間が使われる辺り、ほんとダメ人間の迷い路ウロウロ系ファンタジーで好きだ。

新入りがカチンと来てるポイントは『PT全体方針の不在、意思共有の不足』『ヒーラーを後列におき、MPを節約しながら戦う基本戦術からの逸脱』『他人を尊重しないのでPTのガンになり得るランタの存在』と、全部マナトの死因に直結するポイントだったりする。
『早々人間の本性は変わらない』てのがこの世界のルールだと思うので、すぐさまハルヒロがリーダーシップに目覚めるわけじゃないだろうけど、ここを改善できないとマナトも死んだ甲斐がないわけで。
来週以降、少しは関係が改善してPTが機能するようになるのか、また曲道をグネグネするのかは、なかなか読みきれんところですな。


後半はハルヒロとユメちゃんの肉感青春絵巻でして、雨が降りしきるウェット&メッシーなシチュエーションで、いやらし作画が炸裂していました。
お互いが心の丈をぶつけあう結構良いシーンなのに、フェティシズムとエロスが炸裂しすぎた絵作りに目が奪われすぎて、話が入ってこないのが困る。
雨の中のエロティシズムはシホルの勘違いというオチに繋がるわけで、『ただエロくしたかった!』という演出とも、また違うわけだが。

後半のぶつかり合いは酒場での男たちのグダグダが巧く効いていて、酒のパワーでなんとなーく繋がった男衆と、そこに入れず酩酊も出来ずでストレスため続ける女衆のギャップが、ユメの撃発に繋がっている。
酒場のダラーッとしてグデグデで、しかし妙に楽しそうな雰囲気がよく出ていればこそ、ユメの孤立とストレスが影として目立ってくるわけだ。
感情激発の芝居をじっくり描いたこと、小松さんと細谷さんの演技が気持ちに振り回される二人の不器用さを巧く演じていたこともあって、エロい以外にもちゃんと良いシーンになっていた。

結局この集団、マナトの喪失に対してのグリーフケアが適切に行えていないわけで、それがコミュニケーション不全に繋がっている側面が大きい。
もちろん、マナトが担っていたリーダー兼潤滑油という役割を肩代わりする存在がいないってのも大きいけど、実は貯めこんだ感情を表現し共有する場所がないことが、一番の致命傷だったのだと思う。
今回ユメとハルヒロがセックスを連想させるような濃度で気持ちをぶつけあい、吠え、涙を流したのは、マナトの死というストレスをカタルシスに変え、何かが前進しそうな浄化作用を感じさせる展開だった気がするのだ。
感情の浄化作用は笑いにもあって、シホルの勘違いがゴロリゴロリと転がって、シリアスな場面がコメディに転化し綺麗に落ちがついて終わる流れ自体が、いわば果たされなかったマナトの葬式のように機能しているのだと思う。

それはなかなか前に進めないクソ凡人集団の、三歩進んで三歩下がるようなウロウロした歩みにふさわしい、小さくて確かな浄化なのだろう。
同期のレンジは、マナトの葬式を10回出してもたっぷりお釣りが出る金をぽんと出せるほどの
大人物になっているけど、主人公達はそういう『持っている奴』に金を恵まれる側だ。
その金を受け取れないちっぽけな矜持と、その金を受け取ることこそがマナトを乗り越えることだと思いつかない愚鈍が同居している彼らにとって、今回の回り道は身の丈にあった、丁寧な一歩だったと思う。

この前進が何に結実して、彼らがまたどこかに進むことが出来るのか、マナトの死を乗り越えないまでも少しは埋めることが出来るのかは、正直分からない。
前に進んだかと思えば後戻りし、悪化する一方かと思えば偶然いい方向に転がるという、僕達に近い距離のハンパな物語が、このアニメの語り口だからだ。
しかしながら、今回男衆が見せたグダグダな連帯感や、ユメとハルヒロが共有した悲しみと仲間意識ってのは、どうにも先に進めないこいつらを一歩だけ転がす、幸福な一手であってほしいと、そろそろ彼らが好きになってきた僕は思う。

問題だらけの凡人PTは、リーダーを失ってさらに問題を抱え込んだ。
それでもまだ諦めきってはいなくて、何か少しは良くなりそうな予感を小さく描いて、今回のお話は終わった。
このコンパクトで細密でフェティッシュな切り取り方が、凄く独特で面白い。
つくづくそう思う。
あとユメの描き方がエロすぎた……正直、執拗なフェティッシュ力だと今期随一は間違いない、素晴らしい。