イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

烏は主を選ばない:第5話『粛清』感想ツイートまとめ

 烏は主を選ばない 第5話を見る。

 『王子様が私のドレスを選んだら、お姫様に選ばれるのッ!』という胸キュン七夕イベントの裏で、血なまぐさい謀議と間諜が色街に渦を巻く回。
 粛清に流れた血しぶきと、乙女心を移す手縫いの衣…二つの”赤”がなんともグロテスクな対比で、大変良かった。
 男サイドで展開している何でもありの政争バーリトゥードの味わいが、お着物飾ってお琴奏でて、ままごとめいた華やぎを積み上げる女サイドにどう染み出してくるか。
 ロマンティックの香気が高く立ち上るほどに、警戒心がバリバリかき立てられる、面白い構図だ。
 このまま平和に女の子モード…?
 ないないあるわけないッ!!!

 

 …てぇのは色んなモノを覆い隠して展開する、ミステリ色の濃い作風に踊らされすぎず、先行きを見通しながら泳ぎたい自分への戒めでもあり。
 どーも俗世から隔絶された桜宮のいい匂いを嗅がせているのは、そこにズドンと特大俗世の悪臭投げ込むことで生まれるショックを狙っていると疑っていて、どんだけトキメキ描写されても安心しきれない、させないようにアニメが己の語り口を作ってる感じを受ける。
 元は分冊されていたお話を一つにまとめ、並走させながら語るアニメ独自の再編によって、世界が姫君を取り巻く芳香とは程遠い、生臭さと血腥さに満ちていることは既にこちらに見えている。
 多分、見せたいのだと思う。

 『あんなに柔らかく幸せそうだったのに…』と、秘密を暴くことで生まれる爆風で予断を引っ剥がすショックは薄れるだろうけど、ある程度見ているものに耐性をつけた上で転がすというか、こんだけ言外の警告を色々埋め込んでいるなら、突き出される真実はどんだけヤベーんだと警戒している…というか。
 どちらにしろ、描かれるものを素直に飲み込めない異物感が、むしろ物語を咀嚼する顎を心地よく使っている感覚を生んでいて、アニメからのにわかとしては大変に楽しい。
 あらゆるモノがロクでもなく、見た目通りではない底知れなさは、謀略と因縁で回る宮廷という装置の手触りとしては、むしろ相応しいと感じるしなぁ…。

 

 つーわけで、色街に置き去りにされた雪哉は長束派の複雑怪奇な現場を目の当たりにし、主上の狙い通り敵対勢力の現状を把握するのであった…というAパート。
 建前と規律で成立している表舞台を動かしていく上で、必然的に発生する澱と本音の捨てどころになることで、郭が存続している共存関係も良く見えた。
 主役に貴族サイドの人間しかいないので、市井の人々がどう生きているのか…そこにどんな差別や搾取や不満があるのかが見えにくいのは、多分意図的なんだろうなぁ…。
 こんだけお貴族様が好き勝手絶頂やってると、色々溜まってそうだし、それが御簾の向こうで政治ゲームに興じる連中の足元、ぶっ壊しそうな匂いもあるが…。

 とまれ南家中心の長束派が北家を取り込もうと、ボンクラ抱き込んだらとんでもない暴走しでかしたので、赤毛強面の路近おじさんがケジメつけた。
 実際雪哉が覗いていたわけで、上手の手から水が漏れかねない穴を血で塞いだ路近の残酷は適切であったし、長束もその意味を正しく理解していた。
 敵対勢力(に思えるもの)が愚鈍ではなく、複雑な政治力学に揺れながらもこれを制御するために、時に血腥い手段も厭わない逞しさを備えているのは、陰謀劇の手綱を緩ませない良い描写だ。
 長束個人がどういう考えでいるか、弟のこと好きなのか嫌いなのか、現状見えてないのは面白いよなー。

 周囲が勝手に忖度して機能する、不在なる中心。
 高度な官僚組織が整備されてこその、飾りとしての皇帝に必要な資質も、長束はしっかり備えているわけだ。
 彼の才気や立場や血筋は、彼自身の意志を無視して勝手に周囲の欲を吸い上げ、大きなうねりを形成してしまう。
 それは一個人が制御し切るにはあまりに巨大な渦で、ある程度以上流れるままに任せるしかない部分がある。
 一筋縄ではいかない政治の複雑さを良く理解しているからこそ、長束は己の願いをあまり表に出さず、自分を中心に渦巻く策謀に手を触れぬよう、遠ざけているのかもしれない。
 ここら辺、うつけの評判を逆手に取って、気軽に飛び回ってる若宮と通じる部分…なのかな?

 側近の方は穏当にまとめたい感じが出てたが、人死程度は当たり前、何がどうなろうと権勢をイエに引き寄せたい地獄のチェスゲームにおいて、八方丸く収まる万能の妙手はない。
 ならば誰の血がどの程度、どこで流れるかを選ぶ事が渦の真ん中に立つものには求められ、長束はその役目をしっかり果たしたのだろう。
 …若宮もまた、流れる血の値段をしっかり見定める冷徹な視線を備え、玉座に向き合っているのだろうか?
 雪哉との微笑ましい距離感も、そんな冷たい方程式の一分に組み込まれて、死んだり死ぬよりひどい運命に飲み込まれていくことに、なっていくのだろうか?
 何もかもが悲劇の前奏に思える…畏いアニメだ…。

 若宮が事情を告げず雪哉を渦の真ん中に放り込んだのは、北家のぼんくらが粛清された惨劇の陰画だろう。
 色々教えてしまったら、もし雪哉がとっ捕まった時に自分に波がかかる。
 謀略の尻尾を掴ませず、暴力で政治を動かす不正を暴かれぬこと…華やかな絹で血みどろの刃を隠すことが、この政治ゲームで勝つ上でとても大事なのだ。
 『私達は穏やかで美しい、貴種に相応しい暮らしをしていますよ』というポーズを崩さないことで、貴族の特権が維持されている以上、本音むき出し青筋立てて、”人間らしい”殺し合いをストレートに演じる益荒男な生き方、山内の権力者には許されてないんだろうなぁ…武士誕生以前の世界だ。

 

 こういう構図が見えてくると、お姫様たちの寵愛獲得ゲームもおままごとめいた欺瞞に思えてくる。
 そういう情勢の中、手ずから針を取って紅い衣を縫い上げる、真穂の薄様の赤心がむしろお労しい。
 どんだけ建前に満ちた政治遊戯であろうと、選ばれる姫君にとっては一世一代、思いも込めて本気にもなろうけど、そういう気持ちが誠実に報われる場としては桜宮は、華やかな毒に満ちすぎている。
 むしろだからこそ、若宮はお后選びの一大事、その治世でどの家が権勢を獲得するかという指向性のディスプレイ行為から、自分を遠ざけているのかもしれない。
 けっこー政治的潔癖性っぽいからなぁ、あの人…。

 名も知れぬ貴種から届いた桜の琴を、爪弾くほどに甦る記憶。
 あせび様のヒロイン力もぐんぐん急上昇しているけども、やーっぱ描かれる山内が生臭すぎ地獄すぎでありまして、なかなか油断はできねぇなと身構えております。
 名を隠して宗家から届いた琴にどういう爆弾仕掛けられてるのか、疑わざるを得ない描写があらゆる場所に既にあるのは、親切なのか惑わされているのか…この目眩もまた楽しい。
 伏せ札が多く、それが表になることで話が推進力を得る構造なので、こうして感想を書く習慣が自分が見たもの、感じたことを記録しておくメモになってるの、結構助かってるな…。

 

 高鳴る琴の音が暴くのは、花か鬼か。
 敵の胸中に飛び込んできた側近は、一体何を求めるのか。
 次回も楽しみ!