イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ハルチカ ~ハルタとチカは青春する~:第6話『スプリングラフィ』感想

音楽と青春とミステリを詰め込んだおもちゃ箱アニメ、今回は新学期を控えた吹奏楽部にやってきた、春の亡霊。
これまであんまり触られなかったブラス要素にタッチしつつ、探偵ハルタよりもキュートガール・チカちゃんを真ん中において、グイグイと進んでいくお話でした。
クラリネット担当の芹沢さんが一見ツンツン系眼鏡と思いつつキュートな女の子であり、このブラス部マジかわいいメガネ集まるな! 甘い匂いでもしてんのか!! って感じだ。
素晴らしい。

『ヒロインとミステリを見つける→ハルタがこれを解く→過去と家族に感じていたわだかまりが溶ける』というのが、おおまかに言ってこれまでのハルチカの『型』だったと思います。
しかし今回、わりとミステリ要素はサラッと流され、ヒロインのわだかまりの説明もアバンで済ます。
代わりにこれまでクローズアップされにくかった部室周りの日常描写や、距離を開けたアンサンブルに多頭式糸電話といった良い雰囲気の小道具にクローズアップされた、『型』の違ったお話が展開されます。
これまでの五話、脚本を担当してた吉田玲子さんから橋本監督に筆が移ったのが理由なのかなぁ。

ともかく、これまでとは少し画角を変えつつも、ハルチカの柔らかくてスマートな世界というのは変わらず魅力的で、見ていて楽しい。
必要な情報を全て集めた瞬間、『彼女は春の幻だよ』という結論にあっという間にたどり着くハルタの頭脳の冴えとかも、あえて出題と考察をきっちりやらないからこそ、映える見せ方かなとも思います。
芹澤さんの難聴の描写も、ことさら『可哀想』を強調してべったり描くでなし、かといってそのハードさを薄めて描くでもなし、このアニメらしい真っ向勝負の青春力でしっかり捉えていた。
物語の構図にバリエーションがあって、そのどれもが違って魅力的なのは、シリーズアニメとして凄くリッチで強い部分だ。


この差異が魅力的に見えるのは、つまり今回捉えたものがいきなり飛び出してきたわけではなく、これまでも作品に存在してきた良い部分を満を持して捕まえてきた、ということでもある。
今回はチカちゃん周辺の青春の情景がとにかく良くて、校門で新入生を待ち構える所とか、屋上でハルタの練習を邪魔する所とか、音楽準備室で仲間と語らう所とか、彼女の一日の色んな色彩を凄くキュートに切り取っていた。
元々アクティブで可愛い女の子なのだが、ヘンテコな小動物のように突飛な行動にでて、色んな物に興味を示し、その根底には優しさがある彼女の魅力が、ズズイと据え膳でお出しされてこりゃありがとうございますって感じだ。

補聴器というナイーブな問題をまっすぐに切り出しつつも、芹澤さんを傷つけないで自然に振る舞えるあたりとか、何故彼女が愛されるのかよく伝わってくる見せ方だった。
耳の不自由な芹澤さんに配慮して近くに座ったり、糸電話を作ったり、糸電話を改良したり、余計なお世話にならない視野の広さを確保したまま、自分に出来ることをしっかりやり切る彼女は、凄く良い。
かと言って自分を押し殺すでもなく、エネルギー補充のために成島さんに抱きつく自由さもある。
あれ見てて幸せになれる、凄く凄く良い仕草なんで、他のアニメでもどんどんエネルギー補充しませんかね。


エピソードヒロインである芹澤さんも、チカちゃんの優しさを無碍にしないキュートな女の子で、見ていてとても気持ちがいい。
卓越した技巧のソロ・クラリネット奏者という、部活動から離れた立場の芹澤さんをヒロインにすることで、冷静かつ的確に今の吹奏楽部の状況を整理できたのも、今後吹奏楽関係の描写を太らすのであれば大事なポイントだろう。
まぁそれがなくとも、今回の事件では部活に入らず、距離を取って離れていく終わり(しかし気持ちが途切れてしまう寂しい終わりではない)もまた、ちょっとした変奏が小気味良く効いていて素晴らしかった。

これまでは謎解き=ヒロインの抱える人間的問題解決であり、問題が後を引き、人間関係がフラットにならないまま続くのはおそらく今回が初だ。
しかしその残響が爽やか名残る姿はすごく心地よくて、これもまた、これまで気持ちよく日常の謎を解き、幸せな結論にたどり着いて僕達を楽しませてくれた『型』に強さと楽しさがあってこそなのだろう。
『出会い』だけではなく、『出会いとひとときの別れ』にも感慨を込めて届けられる青春モノって、やっぱ凄く良いと思うのだ。
変化球でストライクを取るには、直球が速くないとイカンわけだな。

名残りという意味では、補聴器を落とす原因となったパーカス担当ボーイのことも気になる。
吹奏楽部という『受け皿』を用意したことで、事件が解決した『後』の描写の心地よさというハルチカ特有の武器が唸ってる今作だが、おそらく彼の加入は芹澤さんの再登場と重なって描写されるはずだ。
OPでのじゃれ合いが凄く魅力的な予言として機能していて、マレンや成島さんをみるだに、そこから受け取った予感が15倍位気持ちよく帰ってくるアニメなので、再び彼らが出てくるのがとても楽しみである。

というわけで、少し変奏的な折り返しの第6話でした。
吹奏楽ガールズ&ボーイズの柔らかな魅力はそのままに、ちょっと『型』を変えてお話を展開することで、作品の別の魅力が顔を出すエピソードでした。
青春を少し駆け足のつま先立ちで、豊かに駆け抜けていく子どもたちを、微笑みながら見守りたい気持ちにさせてくれる。
そういうアニメはやっぱり良いと、気持ちを新たにするエピソードでしたね。