イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

紅殻のパンドラ:第7話『人形師 -パペッティア-』感想

人工島で青春の迷路をさまよう、新世代のアリスと猫の物語、今週はおもしろ窃盗団との対決。
ゆるーい雰囲気は堅調に維持しつつ、窃盗団という外部の身勝手な視点を入れこむことで、クラリオンと福音くんの関係に、別の角度で入っていくエピソードでした。
機械に似た人間と、人間に似た機械が織りなすラブストーリーとして、恋次の邪魔をする不心得者を打ち倒す話が来てくれたのも有りがたかったな。
しばらくゲスト軸の話が続いたので、ネネちゃんとクラりんがずーっと仲良しで、いろいろあっても仲良しな今回のお話、控えめに言って最高だった。


ゆるくて楽しい百合ギャグアニメという外側を維持しつつ……というか、コメディとしても十分以上の仕上がりを見せつつ、やっぱりこのアニメはスペキュラティブな要素を絶えず織り交ぜてきます。
今回で言えば『初期化されたアンドロイドにゴーストはあるのか、ないのか』『福音が見ている機械の魂は、実存なのか幻影なのか』というポイントに、作中で明確な答えは出ません。
窃盗団が全身義体と高性能アンドロイドの区別がつかず、『どちらも道具』という判断をしたのは明確な間違いなのですが、では福音が両者を『どちらも人間』として遇しているのは、確かな理由があってのことなのか、はたまた好きになってしまったクラりんや、機械生命である自分自身を人間の範疇に収めるための妄想なのか。
スウィートな百合のベールに覆い隠されながらも、このシビアな問いかけは今回の話しにしっかり子を張っていたと思います。

クラリオンは一般流通するアンドロイドとは違い、超進歩主義者にしてテロリストの側面も持つ天才・ウザルお手製の人形です。
窃盗団が『道具の条件』としていた『自衛の範囲を超えて、人間を傷つけることが出来る』という特色が、クラリオンを『道具』扱いから遠ざけ『人間の条件』を保証しているのは、なかなか面白いところです。
抵抗権をアンドロイドにまで拡大し、道具扱いを『倫理偽装』と言い切るウザルの過激思想と先見性にも驚きますが、暴力的革命こそ『道具』から『人間』へと存在を証明しうる重要な足場だとするスタンスには、少し近代市民革命思想と共通するものを感じます。(敵は米帝なのにね)

クラリオンアジモフの三原則を適応せず、人を傷つけ殺すことが可能な自己判断力を与えているウザルは、攻殻機動隊一巻における"人形遣い"事件や、RD世界でのホロンの扱い、アップルシード世界におけるバイオロイドなど、この後『道具として生まれ落ちた存在の人格権』を大きく先取りした意識が感じ取れます。
この先進性は、今回複数のアンドロイドのゴーストを同時にハックし、パターン化されたプログラムではなく並列独自に操作した福音くんの、公安9課でも難しいだろう荒業をこともなげにやってのける規格外性と、面白く響きあうところです。
福音くんとの長くない接触でそれを感じ取り、義体を改造しパンドーラデバイスの使用許可を与え、クラリオンの未来を委ねるところまで決断できた辺り、ウザルは100年生まれてくるのが早い天才なんだろうなぁ。

クラリオンが今回福音くんを助けるべく奮戦したのは、プログラムに書き込まれた第三優先事項が故であり、同時に髪梳きをねだる部屋のシーン(控えめに言って最高でした)を見るだに、彼女は『成長し、変化する道具』でもある。
二人が出会ってからの触れ合いと、それが生み出す成長と変化が今回じっくり描かれていればこそ、僕としてはそこに特別な何かを感じ取りたくなってしまいます。
クラリオンの行動にプログラミングされた自動的な反応以外の、感情だとか自主的な判断だとがあって欲しいと願うのは、見る側の旧世代的ロマンチシズムであって、おそらく福音くんもクラリオンもそんな感傷など気にせず、自分の大事な人を、自分の大事なように守っているだけなのでしょうが。
視聴者を縛り付ける、現実が規定する思考の檻を軽々飛び越え、為すべきことを迷わず為している軽妙さというのは、このアニメらしいスペキュラティブな要素であり、同時に少女のお話としての気持ちよさだなとも思います。


そんな感じで『人間らしすぎる道具』として造られているクラリオンですが、ではその半身たる『道具を知りすぎている人間』福音くんは、今回どんな顔を見せたのか。
アンドロイド窃盗のための装備と戦術で昏倒させられ、拉致寸前まで行ってしまう辺りは、脳髄以外は機械化しているフルボーグ故の『道具的危うさ』と言えますし、義体が勝手に再起動(これを『目覚める』と形容して良いのか、少し悩みますが)後は窃盗団の思惑を大きく超え、自分が善と信じるもののために実力を行使する『人間らしい自由』だと言えます。
窃盗団が(悪意と欲得に歪んでいるとはいえ)見なしたように、全身義体という『道具』の側面に自分の肉体を縛られつつも、『人間的』としか言いようのない自由さと抵抗権を思う存分発揮している彼女は、その能力だけではなくあり方そのものも、生まれたままのヒューマニズムに縛られた世代を大きく置いてけぼりにしているわけです。
クラリオンと福音くん、よく似た二人の主人公が今回、両方共自分たちを『道具』とみなす悪意に対し、自由意志(と観測できるもの)と暴力的抵抗を以って『人間』の証を立てる所は、なかなかに面白い対照でした。

今回福音くんは打ち捨てられたロボットに『人間』を感じ、人間以上の能力を発揮して彼らを操作します。
その操作能力は敵側にコッコちゃんにも及ぶわけですが、福音くんは最終的にコッコちゃんを開放し、『嫌なことをさせてゴメンね』と謝る。
その無制限のヒューマニズムが、作品世界が下って後に証明されるゴーストの存在を直感しているが故の真実なのか、はたまた義体という特殊な身体性を手に入れたが故の錯覚なのかは、実は作中では確言されていません。
クラリオンとネネちゃんのお互いを思い補いあう歩みは魅力的に描かれていますし、それは何の迷いもなく『クラりんは人間』と断言できてしまう価値観(『福音も道具』と判断し略取しようとした窃盗団と、これは明確な対比を成していますが)があればこそなのですが、そこに漂う感情的なムードに流されることなく、疑問は疑問としてよくよく考えれば残るよう、このお話は慎重に筆を選んでいるように思うのです。

無論そういう難しいことは話の主題ではなく、あくまでサイバーパンクアクションとガール・ミーツ・ガールをゆるく楽しめるよう、しっかり作ってあるお話でもあります。
むしろネネくんがもつシンプルで真っ直ぐな正義を際だたせるべく、スペキュラティブな要素はあえて、背景にのけてある感じすら受けます。
しかしその上で、彼女たち新人類がどうしても背負ってしまう複雑さや難しさを無視するのではなく、コメディタッチに味付けをし、立ち止まるのではなくドタバタとした拉致/脱出劇として盛り上がりを作って、見ていて楽しいエンターテインメントの背骨として使う姿勢は、やっぱりとてもいいなと思うわけです。
攻殻機動隊(特にアニメ)だとあんまクローズアップされない、医療や救命、サイバー福祉の部分をひょっこり掘り下げてくれるの、まじ楽しい。


そして百合アニメとしてみても、最高中の最高だしな!!(百合萌えで全部ダイナシマン)
今回は徹頭徹尾ネネちゃんとクラりんが画面に移りっぱなしで、お互いを預けあって一緒にい続ける距離感とか、離れた時のプンスカ激おこクラりんとか、色々あったが幸せに帰っていく二人とか、非常に宜しかったです。
髪梳きのシーンで無防備に耳を触らせてから、窃盗団に耳触られると激怒する落差の付け方とか、『高橋さんほんま……ホンマありがとう……』ッて感じだった。
高橋さんといえば、倉庫にTHのセリオとマルチっぽいガイノイドが見えたけども、作品を超えた目配せだったのかしらあの辺り……まぁセリオのデザイン、モロに"ブラックマジック M-66"だけんどもさ。

ラストシーンで窃盗団とクルツの繋がりを分かりやすく見せて、シリアスな悪役ポイントをクルツに集めていたのは、なかなか良い動きだったと思います。
あいつ通信障害で死人出かけるのわかってて、何の躊躇いもなくブエルにアタックかけるからなぁ……島にこれだけダメージを与えている暴力を独占したくなるというのは、支配者層として無理からぬ事だとも思うが。
外見に似合わず、シリアスでハードな実力者だった窃盗団もコメディチックに懲らしめてしまったネネクラコンビが、クルツ相手にどれだけ自分のペースを保てるかってのは気になるところですね。

今週の拓美ちゃんは……みすみすネネちゃん拉致られたのは失点、クラりんの防壁を難なく突破し、窃盗団のアドレスを一発で抜いた辺りは加点ってところかな。
どーもネネちゃんが圧倒的スーパーハッカー過ぎて霞んでるけど、拓美ちゃんも人間の範疇では最高峰なんだけどなぁ……主役に見せ場を集めるという意味では、拓美ちゃんが活躍しすぎるのも良くないか。
電脳魔術師としてよりも、『人間の規格外』である福音くんと『道具の規格外』であるクラリオンを余計な干渉から守る保護者としての活躍こそが、拓美ちゃんの見せ場なんだろうね……まぁ拉致られたがな!


そんなわけで、色々考えて楽しく、特に考えずとも楽しめる、このアニメらしい回でした。
ライトな装いをしたサイバーアクションとしても、SFテイストをスパイスにした少女成長物語としても、やっぱりよくまとまっていると思います。
色々良くないことも起こるけど、清く正しく美しく、自分の信じた正義を迷わず行える福音くんとクラリオンの物語は、やっぱり見ていて清々しい。
このサッパリとした楽しさこそが、このアニメ一番の強みなのかなぁなどと思う、いいお話でした。