イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

Dimension W:第9話『アドラステアの鍵』感想

過去の因縁を未来に繋げるSFアクションアニメ、今回は二度目の回想。
『他人の回想シーンに登場・共有できる』という次元Wのインチキ能力を活かして、記憶の国のキョーマさんがドンドコ過去設定をオープンにしていくお話でした。
思いの外空気が良い理想の職場グレンデル、ルーザーの当事者性が高い過去、思いの外弟好き好き病だったサルバ、そしてキョーマとミラを結ぶ糸。
足らなかったパーツが一気に埋まりつつ、あくまで未来を掴むために今戦うミラの決意でしっかり〆る回でした。

前回いい塩梅にヒキを担当してたルーザーさんでしたが、PC1キョーマさんに『お前忘れてるかもしれないけど主役だし、お話の中心だから。必要な要素全部お前にあるから。頑張って』と、罵倒の形をしたトス上げをきっちり決めていた。
やっぱライバルから主人公力を認められる動きは気持ちが良く、『記憶喪失』という当事者性を揮発させがちな設定をうまく弄ることで、キョーマさんがこれからやらんといけんことを思い出させる動きも含まれてて、ほんと良いPC2。
他人の物語を手助けするだけではなく、遂にフルスペックを発揮したナンバーズコイルでかっこ良く決めたり、仮面を付ける前の姿でキョーマさんの回想に登場したりして、自分のお話をしっかり盛り上げていたのが良い。
地下通路を一瞬で焼き切るところはハッタリが効いてて、グッと存在感が増す良いシーンだったな。

ルーザーとキョーマさんは巧い鏡像関係にあって、お互い女性の協力者を持ち、イースター島事件の当事者でもあるという、似通った存在だ。
事件によって傷を負い、過去の幸せな時間を奪われているという意味でも、主人公のシャドウとして良い共通点を持っている。
しかし記憶の有無で上手く当事者性のすみ分けをしていて、忘れてしまったキョーマさんは自分の過去との戦いに挑み、ルーザーはそれをそれとなく後押ししつつ、先回りして話を先にすすめる。
ここら辺の手際の良い物語的役割分担をこなしつつも、各々のお話に過去への郷愁と後悔、未来への強い決意がちゃんと宿っていて、舞台裏の段取りを客に見せないよう工夫されているのは、さすがのストーリーテリングだと思う。

過去への郷愁という意味ではサルバも相当なもんで、自分の野心が弟を轢き潰してしまった罪を、ずっと悔いていたようだ。
キョーマさんが雅とグレンデルに囚われ続けているように、サルバも弟を犠牲にした罪の意識に囚われておるのだな。
イースター島に集った男たちが皆、取り戻せない過去を取り戻そうとする強い意志を共通して持っているのは、ハードボイルドの系譜に繋がるこの作品においては大事だと思う。
作品が置かれたジャンルの空気が、男たちに後悔と決意を要求し、製作者はそれにしっかり答えているというわけだ。
キャラクターの間に共通点を作ることで、彼らの間に共感の橋を架ける土台を作っている事も含めて、今回明らかになった男たちの過去は、良い具合に公開されていたと思う。
……サルバも弟とラシティという、女性的な協力者を持ってんだな……サルバはなんでラシティぶったのかな……そういうプレイがあの時代からずっと続いてるのかな……。(枝葉が気になりだすと止まらないマン)


キョーマさんの回想は第7話の回想で足らなかった部分を埋めつつ、虚無のインチキ能力を活かして他人のモチベーションを共有していく、ちょっとトリッキーな動きでした。
もっと殺伐としたぶっ殺し集団かと思ってたけど、グレンデルの仲間は嫁さんのこと気遣ってくれるし、優秀で頼りになるしで、思いの外暖かい場所だった。
過去の暖かさをしっかり描けばこそ、それを奪われたキョーマさんの痛みや後悔、そこから立ち上がって未来を目指す尊さが生まれてくるわけで、今回のグレンデルの描写は凄く好きだな。
いかにも脳筋マッチョっぽい外見をしたダグが、料理はするわ電脳戦は出来るわの器用系なところとかな。

雅の描写もグレンデルと同じように、失ってしまった過去への後悔と、そこから託された思いを象徴するものだ。
事件屋として再起し、ミラとともにイースター島に挑むことを決意したキョーマさんだけど、心の奥でヒリつく後悔やニヒリズムは根深く、サルバと同じように虚無に囚われもする。
しかし凹んでばかりじゃ主人公の資格はないわけで、虚無から踏み出す一歩を死人が手助けする今回の旅は、オーソドックスかつ強靭なモチベーション再確認となった。
過去につきまとう後悔と希望を、写真というフェティッシュにまとめている所が技あり。
ああいう気持ちのいい人が首なし死体になり、アンドロイドのベースとして世界中に量産されてる状況ともなれば、そらコイル嫌いも極まるわな。

現実世界では未だ昏倒しているキョーマさんを守るべく、二人目の女が立ち上がるヒキも非常に良かった。
これまで見てきたように、ミラは人間より人間らしいポンコツで、戦いなんて向いていないサポートキャラなわけだけど、そんな彼女がキョーマさんを信じて立ち上がる展開はやはりアツい。
『非戦闘員が脅威に立ち向かう』展開は、役割交換のドラマがあるというか、向いていないことでもあえて向かい合う勇気が見える展開であり大好物だ。
バディとしての信頼関係も、強く感じられるしね。
徹底的にミラを可愛く描いてきたことで、彼女の奮起を応援したくなる気持ちと、『でも大丈夫? ポンコツだよ?』という不安が視聴者に湧き上がるところは、物語的資産を活かした展開だと思う。
やっぱサスペンスは、先の読めないドキドキ感が大事だからな……ポンコツがピンチになった所で超カッコよくキョーマさんが復活する流れだとは思うが、マジポンコツだからなミラ……。


というわけで、様々なキャラクターのオリジンを掘り下げ、秘められていた横の繋がりを開示する回でした。
梶くん声のサイコ科学者も出てきて、『この蛇みたいな目をした男をぶっ飛ばせば、大体話しは終わるぞおおお!!』という落とし所も見えてきた。
クライマックスに向けてさらに加速していくお話が、一体どう展開していくのか。
非常に楽しみです。