イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイカツスターズ!:第26話『奪えない夢』感想

気付けば開始から半年、OP・ED共に切り替わっての3クール目のアイカツスターズ、白銀リリィ強化月間でお送りします。
第23話にて印象的なデビューを飾ったツンドラの歌姫と一年生がようやく接触し、歩みを同じくして並び合うことでその内面に降りていくお話でした。
エキセントリックな印象が先走っていたリリィが、実はどんな女の子なのか。
これを掘り下げるためにゆめに『捻挫』というイベントを体験させ、虚弱体質という『弱さ』に同調する視点を作って進めていく運び方が、なかなかスマートでした。
その分リリィとゆめに的を絞った描き方だったんですが、深く掘ることで結果的にそれぞれの視界に映るゆずとローラを写すことも出来て、なかなかいい仕上がりの個別エピソードになったと思います。


というわけで、第23話ではゆずとだけコンタクトしていたリリエンヌが、ようやく一年と面通ししました。
『氷雪系斬魄刀でも使ってらっしゃる?』と思わず訪ねてしまう、ブリザード演出の多様はなかなかおもしろかったですが、これまで接触のない白銀リリィは視聴者にとってそうであるように、ゆめにとっても遠い存在です。
この距離感や疑問点、エキセントリックな言動への違和感なんかを隠さずに、むしろ話を転がすてことして使い倒してくるのは、人間のネガティブな感情に分け入っているスターズらしい回し方だなと思いました。

学年も違う、接触もない、ポエジー溢れる言動も、か弱い体故に集団行動が取れないことも、人を遠ざける。
リリィとの間に空いた距離が丁寧に描写された後は、ゆめがそこに踏み込み近づき、何かを学び取る過程が描かれます。
そのための足場になるのが『捻挫』と『空想』でして、差異点と違和感をあぶり出してからじっくり埋めていくのは、なかなか丁寧な運び方でした。

ゆめは『捻挫』することで一時的な身体ハンディを手に入れ、仲間について行きたくても体が許してくれない不自由を、初めて体験します。
そこで感じる苛立ちや焦りというものは、ゆずが述懐しているようにリリィにとっては(望むと望まざると)慣れ親しんだもので、焦燥や虚弱との付き合い方には一日の長がある。
そんなリリィが『弱点に思えるものは個性だ。それを乗り越えるためには、己の特質にあった鍛錬を積むべきだ』とアドバイスすることで、ゆめは焦る心の出口を見つけて、少し気が楽になる。
この交流はゆめ(と彼女を主人公とするスターズという物語それ自体、それを見る視聴者)がリリィに近づいていく運動であると同時に、一年先輩であるリリィが、後輩に己の経験を分け与え導く善導でもある。
ここで白銀リリィのエキセントリックさだけではなく、アイドルの険しい道をゆく先達としての頼もしさを出せたのは、彼女が持つ多面性を描く今回のエピソードにおいて、凄く大事な部分だったと思います。

リリィにアドバイスを貰ったことで、ゆめは少し自分を預けていい相手だと彼女を認識し、その距離を縮める。
そしてさらに、『個性』と胸を張った虚弱さ、それを揶揄する心無い言葉に負けないために、文学的な『空想』を支えに使っているというリリィの言葉を聞いて、ゆめはグッとリリィの胸元に踏み込んでいきます。
これまでもゆめの空想癖は強調されて描かれてきて、それは大概ミーハーなファン気質の『欠点』だったわけですが、今回は『みんなを笑顔にして、世界を平和にする!』という楽観的でポジティブな夢として使われています。
己を苛む世間の寒さを試練と受け取るためのリリィの『空想』と、まだまだ甘ったれた状況にいるゆめの『空想』は意味合いが違うわけですが、しかしそこに込められた光にリリィは微笑み、ゆめを更に認める。
すれ違っていた二人が運命のいたずらで隣り合い、共通点を見つけて親しくなっていく過程が今回はじっくり描かれていて、関係構築の楽しさをたっぷり味わうことが出来ました。

こうしてリリィの内面をよく見知ったゆめは、あくまで『天才的で遠くにいる実力者』としてリリィを見る学友とは違う、自分と同じ夢と体温を持った『アイドル』としてのリリィを見るようになります。
リリィのクールでエキセントリックな振る舞いの奥には、自分を支えてくれた存在への感謝、『個性』への不安、日々の努力とステージへの恐れが(分かりにくいけど)ちゃんとあることを、ゆめはしっかり学び取ったわけです。
この人間としての白銀リリィに踏み込めていたのはこれまではゆずだけだったわけですが、主人公であるゆめが丁寧に段階を踏んで接近することで、『ツンドラの歌姫』という表面的な印象を崩すことなく、的確に接近できていました。
『クールでエキセントリックな白銀リリィ』というイメージを壊さないのは、そのイメージがあればこそ急な復帰ステージにも客を呼び込めるアイドルの特質を考えると、結構大事だった気がします。


こうしてリリィとゆめの距離は離れ近づいたわけですが、ただ仲良くなっただけで終わらない欲張りな展開があったのが、今回はすごく良かったです。
『クールでエキセントリックな白銀リリィ』というイメージを裏切って、彼女は相当な人情家であり激情家で、かつ野心家でもある。
ゆずが一足先に待っているS4という玉座に、自分なりのやり方で進んでいくことを一切ためらわない、パワフルで泥臭い『アイドル』なわけです。

氷の化粧の奥に熱い劇場を秘めたリリエンヌをしっかり描くことで、『アイドルに憧れる女の子』から『アイドルを目指す候補生』へと変質しつつあるゆめも、より明瞭に見せることが出来ます。
強敵(と書いて『とも』と読むらしい。リリエンヌはサナトリウムで"北斗の拳"読んでたのかな……)の圧倒的なパフォーマンスに押されつつも、『負けません、同じ夢に走る仲間だからこそ!』と宣戦布告できたゆめには、2クール分の物語をちゃんと背負って、自分なりのアイカツを見つけてきた頼もしさを感じました。
ここら辺のバチバチしたライバル感は、スターズ独自のテイストに繋がる部分なので、今回うまく描けたのはとても良かったと思います。

今回掘り下げた独自の情熱と、名曲"Dreaming Bird"の説得力を合わせることで、S4を目指す厳しい道程を先駆ける有力者として、リリーの存在感はグッと増してきました。
乗り越えるべき壁であり、尊敬できる先輩でもあるリリィが先に立っていることで、ゆめの歩みは一気に明瞭になったなぁとも思います。
同時に『S4』という看板だけを追いかけても物語は空疎になるだけなので、『』S4という頂点に辿り着くことで、どんなアイドル活動を実現するのか』って部分も掘って欲しいわけですが……来週はモロにそこ突っ込む感じだなぁ。
トップを走るS4とゆめ達ドンジリの間に、野心と実力を兼ね備えたリリィが立つことで、『S4を目指す』というスターズの軸がグッと堀を深くしてきた感じがあるね……優秀なキャラだ。

リリィがゆめ達の良き鏡になっているように、リリィとゆめに重点してエピソードを作ることで、彼女たちの側にいるキャラの陰影が深くなる副次作用もありました。
ゆめが焦燥感にかられている時にまっさきに見つめる相手がローラだったり、保健室に行くときの介添が当然のようにローラだったり、地味にゆめロラ描写濃かったなぁ。
そしてゆずがリリィを支え、信じ、強く影響されている様子もしっかり描かれていて、一足先にS4という玉座で親友を待ち構えているゆずの強かな側面も、印象的に掘り下げられていました。
リリィに追いかけられる立場なのに、自分と同じ領域までリリィが上がってくることを一切疑っていない……というか、むしろゆずのほうがリリィの才能を追いかけている気配まで感じる描写は、二人の絆がどれだけ複雑で強靭なのか解らせてくれて、とても良かった。
こういう感じでキャラが深まっていくのが、専用キャラがいることの強みだよなぁ……真昼に対する夜空しかり。


というわけで白銀リリィ強化月間第一弾、キャラの奥底までうまくダイブする、良いエピソードでした。
一気に視聴者を掴む第一印象の強さを崩すことなく、秘めた情熱や弱さにしっかり踏み込めたのは、白銀リリィをより好きになれて素晴らしかった。
そんな彼女とうまく共通点を作って、隔意があるところからだんだん近づいていくことで、ゆめのキャラクターにも陰影がついてくる所が、巧みな話運びでグッドナイスね。

『強敵(とも)』との絆を深めたところで、来週もリリィエピソードが続きます。
『S4になりたい』という題目に内容が伴っていない空疎さに、ようやくぶっ込む感じなので、待ってたものが来た嬉しさがありますね。
来週も楽しみ……ではあるんですが、OPとED両方でスゲー意味深に小春ちゃんとの離別が示唆されててて、コッチが気になってしょうがない。
やるんであれば、そこまで丁寧にはやらなくてもいい(早々時間コスト払えないだろうし)ので敬意と劇的さを込めてやってほしいと、強く願っています。