有頂天家族を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月21日
地獄を抜けて現世へ。欲得と日和見主義、むき出しの暴力と死が混ざり合う洒落にならない世の中は、地獄よりも地獄の臭いがする。
人にも狸にも鬼にも成りきれなかった悪党の化け損じ、くたばれと言われ続けてくたばったその末路。スッキリしない故にコクの有るお話。
天狗に岡惚れし、天狗に弟子入りし、人と交わり地獄に落ちる。分をわきまえない阿呆だからこそ、矢三郎は様々な世界を旅し、その背中に乗っかって僕らも人生喜劇の様々な幕を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月21日
地獄かと思ったらいつもの阿呆だった鬼の世界から一辺、今回は現世のお話。しかしそこは、地獄よりも生臭い。
普段の有頂天家族は、日常の半歩先にある不可思議な世界で僕らを楽しませてくれる。狸のおバカな生き方、ファンタジックな化け術。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月21日
そういうものが実在する京都が主で進んできたわけだが、ここは有馬。人間の領域であり、狸の笑える阿呆さとはまた違う、どうにもならない業が山盛りでお出しされる。
空席となった布袋の座を巡って、食卓を舞台に喜劇と惨劇が展開される今回。狸の世界には薄かったものが多数形をなすわけだが、一つは権力の構図だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月21日
龍石を捧げ、寿老人の機嫌を取る金曜会の面々。そこには序列があり、優劣がある。狸や天狗の世界だって小競り合いしているが、それはシャレになる。
しかし今回、むき出しの暴力や欲、愚かさを前にして眉一つ動かさない寿老人(と弁天)の強さと、慌てふためき風見鶏を決め込む金曜会が対比されると、その夢のなさには鼻白んでしまう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月21日
狸たちの間抜けな、無邪気な夢を、人間は見ない。電車が空に浮く奇跡をカーテンを開けてみても、感動もしない。
有馬温泉で裸を晒してみても、それは赤心というにはあまりに埃にまみれた、面白くもなんともない裸身だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月21日
天狗として女として、狸の世界と人間の世界を自在に泳ぐ弁天の裸と、気合の入ったおじさんのだらしない体の差は、それぞれが身を置く世界に満ちた夢幻の量の差、そのものなのだろう。
詭弁論部の空論を盾に、一種の遊戯として狸の生き死にを弄ぶ金曜会と教授。しかし早雲が鬼となり、矢三郎に本気の殺意をむき出しにすれば、ただただ目をそらし慌てふためくしか無い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月21日
狸にとって殺す殺されるは圧倒的に本物なのに、人間にとっては宴の余興でしか無いギャップは、一期でも描かれていた
そしてその裂け目を目の前につきつけられると、凡俗は慌てふためく。魔法になってもおかしくない坊主の読経はなんの効果も生み出さず、事態を解決するのは天満屋の空気銃であり、地獄を腹の中に飼いならしている寿老人の冷徹だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月21日
いつものように狸を屠殺してもらい、日常を回復する人間の浅ましさ。
矢三郎は様々な種族、様々なルールを越境する自由な旅人であるが、その生き様は気楽なだけではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月21日
欲と嘘が大手を振るい、しかもその事実を飲み込める修羅などほとんどいない人間に、矢三郎と早雲は化けきることが出来ないのだ。元人間の弁天が、軽やかに残酷に踊るのとは真逆だ。
カーテンを開ければ、空に浮かんだ夜の京都が、あるいは黄金にきらめく有馬の現世が顕になる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月21日
しかしそこに目を開き、楽しい異境に体ごと浸す勇気を持っているものは、ほとんどいない。狸は食料ではなく、捕食は愛ではないと気付いて寄り添った淀川教授は、数少ない例外なのだ。
教授譲りの弁舌で嘘八百を並べ立て、教授を守ろうとした矢三郎もまた、同じように際を乗り越え、非日常を日常に変えていく勇気を持っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月21日
その優しさは弁天と寿老人の悪意と興に転がされ、早雲の化けの皮を剥いで死に至らしめるわけだが。
結局、狸は天狗にも人間にも勝てないのかもしれない。
偉大な狸を目指して、あまりに偉大な兄につまずき道を間違え、人間になろうとした早雲。同族食いの怪物を嘯こうとして、鬼の本性を抑えきれず、地獄を腹に収めた寿老人に殺されてしまった早雲。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月21日
くたばれとは言ったが、こんなくたばり方はあんまりだ。矢三郎と全く同じ気持ちで、その寂しい臨終を看た
兄を殺し、同族を殺し、甥を殺そうとして、自分を殺しきれず殺されてしまった早雲は、境界を超えていく矢三郎のもう一つの末路なのかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月21日
金曜会のようなご機嫌取りの日和見主義者にも成りきれず、人間の冷たいルールを乗りこなすことも出来ず、狸と人間と鬼、何にもなれない鵺として死ぬ。
それでも、矢三郎にとっては『おじさん』であり、彼の婚約者たる海星にとっては親だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月21日
京都では窮地を救うカンダタの糸になった赤い絆が、今回はあまりにやるせなく、置き場所を探して迷う。殺したいほど憎いんでも、それでも切れない血の絆。天狗に憧れ人に混じった阿呆の、冷たい躯の末路。
前回は砂糖壺やポストに化けていた海星は、今回一度も化けない。むき出しの情を持った一人の娘として、画面に映る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月21日
その姿はいつものように矢三郎には見えないままなのだが、業の濃い展開を受け止め切るには、コメディ混じりの化け芝居では噛み合わないと踏んだか。正しい見切りだと思う。
表情を変えているのは弁天も同じで、地獄に舞い降りた地蔵菩薩から、命と感情を弄ぶ般若に変じていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月21日
寿老人と同じく、業の地獄を腹に収め、顔色一つ変えずに暴力や欲望と向き合い、操作できる強者。人間の悪しき部分を乗りこなす女天狗もまた、矢三郎の可能性の一つなのかもしれない。
自業自得とあざ笑うには、あまりに冷たい早雲の末路。赤と白の涙を流しながら、矢三郎はそれをただ見ているしかなかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月21日
夢を失った人間の世界では、化け術は殺される理由にしかならない。鬼に化けたら仲間にしてくれた鬼たちのほうが、よっぽど夢がある阿呆だった。そういう世知辛さも、今回はある
阿呆という言葉にも、いい意味と悪い意味があるのだな、と思い知らされる回だった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月21日
己のカルマを制御しきれなかった早雲も、奇跡にも地獄にも目を背ける人間たちも、死と強欲を弄ぶ怪物たちも、みんな最悪に阿呆だ。そしてそれは、これまで描かれた愉快な阿呆と地続きのカルマなのだ。別物ではない。
俺達の矢三郎は、こんなに世知辛く面白くもない灰色の世界の中で、良い阿呆でい続けられるのだろうか。い続けてくれるのだろうか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月21日
弁天の裸体をマジマジと見たのは矢三郎一人だ。他の奴らは、自分のスケベとも適度に折り合いをつけて、目をそらす。早雲の無様な死に方を思えば、そらしたくもなる。
狸の無力さ、天狗の傲慢、人間の愚かさ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月21日
『有馬の下には地獄がある』と寿老人は言った。『地獄を見ると、自分の腸を見ている気がする』とも言った。
生臭く薄暗いものは、きらめく魔法の直ぐ側にあって、いつでも牙を向いてくるのだ。それを己の情と一緒に飼いならせるものだけが生存する。
地獄と隣合わせの天国として、毛玉の優しい世界はある。そこをフワフワ歩いて生きていくのは、命がけの難儀なのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月21日
主人公が歩む道の険しさを、宿敵であり血縁でもある男の死を以て赤く素描する、陰鬱で見事なエピソードだった。叔父の死を矢三郎がどう扱うか、彼の人間が試されている。来週も楽しみ
追記
有頂天家族追記。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月21日
弁天の裸を一人見据えた矢三郎は、早雲の死体もただ一人見る。ただの毛玉、赤い血を流す無様な生き物としての終わりを、情と憎しみと尊厳を込めて見守る。
一人しかいないと見るか、一人だけでも見守ったと受け取るか。なかなかに難しいが、僕は阿呆は凄く立派なことをしたと思う。
ここも海星と同じくクッションをかけない描写が生きているところで、いくらでもファンタジックに逃げれる死に様を淡々と、赤い血をちゃんと画面に収めながら見せていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月21日
こういうシビアな部分を適切に描くことで、物語の輪郭が崩れずにすんでいるのだろう。メリハリが効いたお話だ。
ある意味、化ける所と化けないところをしっかり見切っている、といえるか。早雲が化けきれずに角を出してぶっ殺された回の感想としては、あまりに皮肉ではあるが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月21日
自分を殺し、眉一つ動かさず殺す冷徹さと、感情のままに化けてしまう愚かさ。どっちが良いのか、なかなか結論が出ない。いいアニメだ。