アイドリッシュセブン Re:memberを読む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
アイナナキャラデザの種村有菜が、都志見文太の原作小説をコミカライズした全3巻。
バン、ユキ、モモ…三人のRe:valeが何を思って、その十年史を走っていったかをそれぞれの視点から追いかける物語である。
大変面白かった。
僕はアニメでアイナナに触れていて、ゲームも小説もコミックもノータッチだったわけだが、マシュマロでご推薦いただいたこともあり、ふとした拍子にこのコミカライズを読んだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
まず驚いたのは、圧倒的な少女漫画粒子の濃さだ。
華麗なトーンワークで描かれる、抽象的背景に踊る詩的モノローグの大波。
内面は微細に開陳され、触れたい熱量と怯える心が同居する複雑な心境が、危うくも美麗な筆致で踊り続ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
そのナイーブで神経質な物語が、しかしどこか骨の太い運命でしっかり支えられて、クルクルと周り続ける。
原作付き、という特異性もあろうが、しかし読んでて不安にはならない。
恋に似て、愛よりも強い感情で繋がった三人の男たちがそれぞれ、不器用に強く誰かの影を求め、自分の在り処を探し求める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
非常に内省的な物語なのだが、同時に芸能界や彼らを構築する社会のフレームが堅牢に描写されていて、柔らかなものだけに溺れない硬さがある。
例えばバン亡き後の金勘定、芸能界の泳ぎ方。千葉さんとのやり取り。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
モモが世界を捉える時、折れたサッカーの夢をまだまだ支えにしている様子。
ここら辺、しっかり資料を彫り込んだんだろうなという手応えがあった。この手堅さが、凄まじくナイーブな表現を下支えしていた。
心だけで世界が構築されていない、この硬質な手応えがあればこそ、心が答えを求めて彷徨う物語が自在に暴れられる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
華やかな点描が目立つ作風であるが、その実非常にバランス良く、作品世界を独特の筆致で彫り込み、作り上げる努力が見えた。
流石に、一時代を築いたベテランは地力が違う。
そして圧倒的な文量で綴られる内面と、それが複雑に傷付き、共鳴していく描写の太さ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
セリフを何処で刺すか、思いを綴る言葉をどう研ぎ澄ますのか。
磨き上げられた技術で、的確にキャラクターの微細な心境を届けてくる勝負所の強さが、やはり圧倒的だ。
三人の思いは凄くロマンティックに、恋愛の文法で描かれている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
それくらいの強度を込めて、お互いを求めているのに…求めているからこそ、ありのまま素直に強くはいられない。
この身悶えをみっしりと綴るモノローグで、延々殴られる時の心地よい酩酊。
心が揺れ、マグマを吹き出す瞬間のドラマティックをけして見逃さず、最高のタイミングと絵で殴りつけてくる心地よさ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
この勝負所の強さ、内面描写の熱量と微細さは、正しく『僕が見たい少女漫画』で大変良かった。
ドキドキキュンキュンしたいの、オッサンもさ。
お話としては三人のRe:vale、それぞれの一人称が3回折り重なって、一つの編み物を作る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
それぞれのエゴとキャラクターを通じて、見えるもの見えないものが複雑に重なり、ユニット内部の役割(あるいはその不在)、お互い支え合いすれ違う人生の不思議さが、立体感を伴って描かれていく。
1×3のやや特異な形態を選んだのは、キャラが時に流されつつ何を考えていたのか、クローズアップで描きつつRe:valeの全体をスケッチする、なかなかの妙手だったと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
三人称に離れ、客観の冷たさを宿していたら、ここまで微細な感情は描ききれなかったかと思う。
アニメはやや引いた距離から、凄まじく精妙な描画力で群像を書いている感じだが、この漫画は一人ひとりに強くクローズアップすることで、顕微鏡レベルの細やかさでRe:valeを解体し、つなぎ合わせ、立体感を生み出している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
この”視差”がまさに、メディアをまたぐ面白さそのものという感じで良かった。
三部作の口火を切るバンの物語が、アニメで一切語られなかったデビュー当時のRe:valeを詳細に語っていたのも、新鮮な驚きでありがたかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
アイドルというよりバンドの味わいで、音楽性に悩み、クリエイターとしての顔を強く打ち出す若き二人。
アイナナに見せていた”頼れる先輩”の顔からは想像できない、ガラスのナイフのように脆くて美しい、ユキの在り方。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
それが今の形に整っていった様子も、語り手を変える中でしっかり語られていって、彼らの虚像に太く肉がついていく感じがあった。
外伝、かくあるべし。
ユキとRe:valeの重石にならないために身を引いたバンの、人生自爆戦術っぷりをどう評価するかは、アイナナ・マニアの中でも相当別れてんだろうなー、と思わされたが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
あのガキャ、消えるにしたって焼け野原にし過ぎだし、後のこと何も調整してないし、おかげでモモちゃんは…。
しかし、”それ”を選ばなければならなかった切実さはしっかりクローズアップで切り取られ、悔しいが納得させられてしまう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
内面を語る言葉も、それを彩る姿も、ともに美しいから理解ってしまうのだ。美形は得だよなー!(心無い捨て台詞)
世界がずーっと、全く優しくないのも良かった。
騙す反発する上手く行かない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
とびきりのイケメンを取り巻く世界は棘が多くて、なかなかに上手く行かない。
バンがいる間ユキはその棘から守られてきたわけだが、胞衣がなくなれば自力で進むしかない。
その杖となり、新たな鎧となったモモへの、言葉にならない思い。
元ファンとアイドルのぎこちない距離感から、一歩一歩手を差し伸べ、差し伸べられて育まれていくもの。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
ユキ編全体に漂う、売れない時代のしみったれた生活感が、ラストの純愛を一気に炸裂させる爆薬となっていた。
不甲斐ない自分に、ずっと手向けられる笑顔の花に、ようやく報いられる。
そんな優しい自分を掴まえたからこそ、ユキは”頼れる先輩”になりえたのだが、それは”変わった”わけではないと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
バンに包まれた若い時代に、多分萌芽があったユキらしさが、突然の別れによって磨かれ、モモとの新たな日々に育まれて開花したのだ。
その再生が、生きてるって感じで大変良かった。
んで最後、モモちゃんの荒波芸能界物語なわけだが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
明るく楽しく天真爛漫という、アニメでよく見た彼のキャラクターが、ユキに足りないものを必死に補うために、クレバーな彼が選びとったある種の仮面であることが、これでもかと描写されていた。
大好きなユキとRe:vale、喪われたバン。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
それを喪わないために必死に、誰かの代わりを務め足りないものを補う。
そこにはモモちゃん独りの”自分”というものが薄くて、そうして滅私の純愛を捧げられるのが彼の良さでもあるのだが、しかし自爆テロ屋や繊細ナイフ人間とはまた違う意味で、大変危うい。
誰かの代わりとしてしか求められず、愛されないことを自分に任じているくせに、一個の人間として当然、特別でかけがえのない自分を求めて欲しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
このジレンマを抱え込んで、トップ掴むべく仮面で自分を、汚れた鎧でユキを守り続ける、愚者を装った賢い子供。
姉との生々しい衝突、ユキには知られたくない処世の汚濁。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
僕の知らんかった…知ろうとしなかったモモちゃんがそこにはいて、微かに裏切られた衝撃と、それ以上に肌理の細かな人間質感がみっしり詰まっていた。大変面白かった。
直接描写はされないものの、微かなスキャンダルと背徳のパルファムが、清廉なモモの仮面にいい味を付けていて、知れて良かったと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
三期先行第1話でねっとり圧迫かけてた月雲とも、なんかあったっぽい一コマあったし、生者の穢れた過去…赤く黒く、燃えるかね。楽しみだ。
さておき、皆が心の置所を見つけ、隠していたものを吐き出し抱擁しあってた先にある青空で、物語は終わる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
10年という時間を三巻に圧縮し、大事なものを守るために必死に生き、間違い、答えを探し続けた日々。
溢れる思いと、微かな嘘と、時の流れのアマルガム。
沢山の時間を共有し、あるいは遠くにおいて心にかさぶたが張るまで待ったことで、生まれ得たもの。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
時間だけが持つ柔らかな癒やしが、凄く張り詰めた気持ちを遠く、優しく包んでいて、そのクロニックな感覚が良かったです。
至近距離にカメラは寄せてんだけど、全体を見る目も忘れない、つう。
総じて、知らないことをたくさん知れて、知っていることをより深くしてくれる、大変良い外伝でした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
漫画だからこその表現力、溺れるほどの強度と質量で満ちる内言を、たっぷり摂取できた読書体験となりました。とても面白かったです。
アニメの感想を続けてると、”知らない”ことの強さをよく考えます
白紙で新鮮であることは、僕にとっても僕の感想を読む人にとっても、実際の話かなり強いアドバンテージになりえます。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
その作品が置かれた社会と文脈のなかに。僕の言葉を刺す時、初心であるってことはある種の免罪と、興味のアンカーとして、自分にも他者にも作用しうる。
僕は結構自覚的に、その強みを維持しぶん回している部分があるんですが、しかし今回この外伝を読んで、”知る”面白さと出会い直した感じがありました。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
これが言葉を綴る上での強さになってくれるなら、更に良いんだけども、それは僕が勝手に作るものでも、誰かに作ってもらうものでもないんだろうな。
この三巻を読んだ経験、殴りつけられた衝撃と、それで変形した意識は元には戻りません。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
この心地よい傷を抱えて、アニメ3期のRe:valeを見ることは、多分とても良い結実を生んでくれる。
そういう期待を育んでくれる、良い作品でした。楽しかったです。
追記 やっぱ圧倒的にマスターピースだよなぁ、劇場版アイカツ。
追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月24日
何しろアイカツキッズなので、恋に似て愛よりも強い感情で音楽を奏でる話が翔んでくると、どうしても無印劇場版を見つめざるを得ない。
男と女、少女漫画と女児アニメ。
そのサーフェスは様々だが、根底に流れる魂の熱量、睨めつける場所は灼けるほどに同じなのだ。https://t.co/DRBxYnVg0P