”ブルーピリオド”を現行10巻まで読む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
空っぽだった青年が、高校二年生で美術に出会い、美大受験、一年生と進んでいく物語。
大変面白かった。
多角的な魅力を研ぎ澄ませて組み合わせ、様々な領域でしっかり勝負しに来て、きっちり勝ち続ける。強いマンガだった。
色々と良いところがあるのだが、アートという大概の読者に馴染みの薄いネタを、ド素人主人公の経験者ゴボウ抜き覚醒サクセスストーリー(地獄みてぇな苦しみ多数アリ)と重ねて、読んでる側のリテラシーを強制的に跳ね上げる話運びが、作品の土台となっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
絵を書く行為は何を目指し、どんな門を開けて窓を閉ざし、そこに宿る楽しさと苦しみは何か。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
アートは何故評価され、何処が面白く、どのような表現と価値体系が連なっているのか。
技法や画材、テクニック…絵を書くための武器は何を掴み取り、切り崩し表現できるように為るのか。
実感のないまま青春を泳ぎ、しかし自分に押し寄せるものに猛反発できるほどでもない、整ってハンパな青年、八虎。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
彼が美と出会い、美を感じる自分を掘り下げ、それを外側に吐き出す手腕に思い悩む歩みは、莫大な”言葉”で支えられている。無茶苦茶調べ、整理している。
優等生であり理性型の人間でもある八虎は、自分が出逢ったもの、戦うものがどんな存在で、どういう戦い方をしていくかをよく考えて言語化する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
積み重なるロゴスを経糸に、彼が飛び込んでいくアートの文脈、意味、豊かさはなーんもしらねぇ僕らに、よく届く形に整理される。
しかしそれだけでは、マンガでやる意味はない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
横糸には彼が身を置く思春期の荒波、ヒトとの出会い、揺れ動く感情のドラマが心地よくうねっていて、これまた優れた言語センスで適切に補助されながら、形のない情緒が絵となり、場面となって炸裂していく。
理性と感情のバランス、メリハリをしっかりと付けながら、陽気で軽薄な外装に非常に思弁的で理性的な魂を焼き付けた一青年が、見つけたり迷ったり、浮いたり沈んだりする物語の熱量が、見事なコマ割り、勝負どころの強い絵、血の通った表情で迫ってくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
美術の入門書、理論書としての強い骨格を適切に組み上げながら、マンガであり物語だからこそ可能な熱い血肉をしっかり選び取って、八虎の周囲に広がる人生の海に、僕らが一緒に入れる…入りたくなる誘導を、しっかり果たしている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
誘われて浸かれば、後は青い情感に溺れるだけだ。
八虎が思い悩む思春期の形のなさ、自分を探り世界を見つけていく七転八倒が、完全に目鼻付されず、しかしわけのわからないのっぺらぼうにはならない絶妙な塩梅で、ペン先に切り取られているのも良い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
それはなかなか言葉にはならず、しかし確かに目の前にあって、しかし簡単には届かない。
生硬も挫折も、理解もすれ違いも深く胸に突き刺さって、幾度も反芻しながら何処かへ飛び出そうともがき続けている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
絵を描くことが、そうして出会う人々が、八虎が少しずつ掴み取ったものの形を、彼と読者に教えていく。その手応えが、熱っぽく靭やかだ。
群像劇として、個々の個性と技量、魂と尊厳を持った存在がクッキリ描けているのも、大変に良い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
美術の道に進む戦友だけでなく、進路を同じくせずとも悪友…親友であり続ける四人組を、凄くチャーミングに描き続けているのは良い。
アートをやってることだけが、人間の価値でも意味でもないのだ。
しかし八虎とこの物語は、アートを主題に進んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
青年が一人、人として人の間で生きていく中で絵筆は、どんな意味を持つのか。
それは八虎だけを描いていては切り取りきれないからこそ、この話は群像劇という形態を取るのだと思う。
優れた広さが、狭い突破力を生むのだ。
10代の青年たちが包囲されている家族との関係、家という場の引力が非常に繊細に、個別の形で描かれているのも良い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
それぞれを侵す呪いに切り崩されながら、子供たちは親から生まれた…生まれてしまった自分を見据え、あるものは適切な距離を見つけ、あるものは背を向ける。
絶対の答えを美にも家にも用意せず、個別の決断それぞれに痛みと勇気があるのだと描けているのは、群像劇の強みであろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
龍二と共に見据えた小田原の海、そこに流れ着いた人生の必然は、あまりに蒼く、孤独でありながら温かい。
それを掴まなければ魂の一部が削げ落ちてしまうような、とても大事なものに手を伸ばし掴み取って、それを手がかりにグイと自分を…繋がった自分たちをより風通しのいい場所へ、未来に続く生へ押し上げていくような決定的な瞬間が、あの話数ではしっかり切り取られていたと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
出会うこと。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
傷つけられ、その切開痕から凝り固まった己を引っ張り出して、どす黒い泥にこそ魂の燃料があったのだと、後に思い返せるような体験。
そういうものを、八虎はたくさんしていく。
彼は頭が良く、率直で、へし折れつつ靭やかに立ち上がり続ける。
自分の周りに何があって、自分が何者で、何が出来るのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
あの青い渋谷と出逢って以来、そんな問いかけを持ち続けて、美術に挑む歩みの中で掴んでは手放し、間違えては前に進む。
足踏みしているようで、確かに前進している。しかし、何処にかは判らない。
この眩しい不鮮明が、まさしく青い時代の素描として的確に過ぎて、彼と彼の周りにいる人々、生成される物語を見逃したくない気分になる、大きな理由なのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
それはあまりに大きすぎて、彫り込んだと思えば逃げていって、でも確かに答えは手元にある、不思議な怪物だ。
八虎は悟ったと思えばすぐ迷う、かなりフラフラした足取りを、形式上続けている主役だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
しかし見ていて徒労感はない。
彼が美術と、自分と向き合う一歩一歩が、けして無駄にはなっていないという確信のようなものが、作品全体に漂う清涼な熱気といっしょに在るからだ。
美術と出会わなかった過去をワルモノにして、悪友と遠く離れたり。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
無理解な親との対立を軸にして、作品の目鼻をわかりやすくつけることもできただろう。
しかしこのお話は、そういうことはしない。
誰もが一生懸命に、自分の目に映る世界の中でもがき、生きている。
立場や能力や志は違えど、その尊厳の核みたいなものが描かれるキャラクター皆にあることが、物語としての目鼻立ちをはっきりさせ、ベタついた水気を切るポイントなのだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
絵を描くことで、母の背中がよく見えた。あの話は、とても良い。
他者の尊厳を捕えるレンズとしての絵筆。その力。
”師”と呼べる存在がたくさんいて、みな魅力的で誠実な人たちなのも、とても良い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
受験時代の先生たちは八虎のソリに素直に寄り添い、前に進む後押しをしてくれる感じだが、作家の顔も持つ美大教授陣は、激しくぶつかってともすればへし折るような、衝突の強さと怖さ、ありがたさもある。
心を壊すほどに強い、嘘のないぶつかり方が自分を作ったと、素直には当然思えない反発と傷、長く尾を引く心の震え。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
そういうものにも丁寧に筆を入れて、青年が何かを組み上げていく様子を慎重に、静かにエールを贈るように描き続けている様子が、また心地よい。
美大受験から大学生活を、細やかに追体験していく異文化シュミレーターとしての面白さもあり、多角的でリッチな面白さを味わえる作品だと言える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
生活一個一個の肌理、流れていく日々に埋め込まれた苦悩を的確にすくい上げるからこそ、八虎達を取り巻く世界が、そこで生まれる輝きと泥が…
立体感を持って目の前に浮かび上がっても来るのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
全然知らなない世界なのに、迫真の魅力を持って目の前に投げつけられ、気付けば夢中になっている。
そういう風に作品に引きずり込む腕力は、精密な計算と燃え盛る熱量の、幸福なアマルガムなのだろう。
その臨場感が、ドラマへのシンクロ率を上げてもいるだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
受験から美大へとステージが移り、生徒にどんどん新しい体験をさせて、自分を大きく作り直すカリキュラムを追体験させ、迷わせ悩ませ見つけさせる方向に話が舵を切ってるのも面白いなー、と思う。
もし、自分がその場にいるのならば。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
そんな空想を浮遊させず、読者の近くに引き寄せさせるチカラがあればこそ、八虎が思い悩む課題、それを少しずつ突破していく心の動きは、説得力を持って読者に届く。
そういう創作物の根源を、怠けずしっかり練り上げた上に、センスと博識をしっかりと乗せてある。
作品を駆動させる各パーツ、面白さの根源がしっかりと連動しあって、”ブルーピリオド”という物語にしっかりまとまっている強さ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年8月13日
そういうものを、しっかりと感じる読書だった。
続刊…そして10月からのアニメが、とても楽しみである。