イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

大雪海のカイナ:第3話『軌道樹の旅』感想

 最果ての村を旅立った皇女と少年は、戦雲渦巻く地上を目指す。
 生活感満載の異世界アドベンチャー、主役とヒロインの絆が深まる険しい旅をどっしり追いかける第3話である。

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第3話から引用

 とまぁほぼ一話全部、こういう絶景を二人で下り、死にかけたり虫のサナギ食ったり放尿したりするエピソードである。
 『あ、虹……』じゃあないんだよカイナくん!
 壮大な軌道樹のスケール、落ちたら即死の厳しい旅路が同時に、とても美しいものを一緒に見つめる体験にも繋がっていて、カイナくんとリリハ姫の距離がグッと縮まる納得感が濃くなるエピソードと言える。
 まーこんだけ厳しい旅を二人きり、生きるも死ぬも喰うも出すも共にしていれば、そらー縁も深まりましょうよ……って所で終わらず、滅びゆく天国で暮らしてきたカイナくんが初めて遭遇する人間同士の殺し合いの中で、戸惑いつつも躊躇いはしない行動力でピンチをチャンスに繋げていく、主人公たる所以も描かれた。
 ノンキで素朴な長所はそのままに、死が当然の厳しい環境で生き延び、ジジババと暮らすうち育まれた野生の知恵が今後、物語を切り開いてくれる期待感も高まる展開である。
 ハードコアな絶壁降下を延々繰り返す中で、姫様のタフな精神性と可愛さも良く伝わって、どっしり腰おろして世界見せつつ、キャラとお話の背骨をちゃんと食わせてくれる語り口が嬉しい。

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第3話から引用

 人間二人が極地で支え合ってりゃ、一緒に飯も食うし寝顔も見るし出すもん出す。
 人が生きることの実相をちゃんと書くことで、世界が死にそれに巻き込まれる形で人間たちも滅びつつあるこの物語の死生観が滲んでくるのは、お話のコクをじっくり煮出している感じで大変うれしい。
 こうして近づいた距離がお互いの過去を伝えさせ、天と地に別れつつも確かに繋がっている親子の情、奇妙な奇跡を顕にもしていく。
 ジジババが祈ったように、お年頃な二人がジリジリ運命のパートナーになっていく”熱”も頬に宿りだしていて、ロマンスの期待もしっかり積んでくれるのはいい感じだ。
 二人ともとてもチャーミングなので、関係性がどう変化していくか見守るのが楽しいのはありがたい。

 二人の旅を通じて軌道樹の現状をしっかり見れることは、生活インフラを樹に頼ってるこの世界の実情を知る上で、結構大事でもある。
 ロステクツールが天にも地にも残りつつ、それを活用する術が伝説の奥に隠れてしまっている現在、水は枯れ狭い土地には争いが満ちている。
 看板読みの技術を伝えていた最果ての村、そこから来た少年が世界を再生する古の知恵を読み解く未来がありそうだが、そこにたどり着くまでには国家間の戦塵を掻き分け、険しい運命に向き合う必要もあるのだろう。
 その時この旅で出会い育まれた二人の絆が、強い武器になっていくという予感がこの旅にはしっかりあって、広大な世界観を豊かに満たす冒険と成長の物語の、土台をしっかり支えてくれる。
 やっぱベタ足の異世界アドベンチャーを、抜かりなく丁寧に編み上げてくれている質感が好きだわな。
 美術力含めた世界観構築力が高いので、二人が乗り越えていく危機の切実さも良く伝わるし、『そらー分かり合っていくよね……』という納得感も強い。

 共に家族を亡くし、はるか遠い天と地を見つめながらそこに人の営みと救いがあるのだと信じていた、少年と少女。
 ヒカリを媒に共有されていく思い出は、急速に辺境の少年と救国の王女を近づけていく。
 一見ハイファンタジーなこの世界が、重力子放射線射出装置がいつ出てきてもおかしくないSF要素に支えられてるっぽいサインは、既に随所に顔を出してる。
 お馬さん(健気で可愛い) を弔う時の祈りも『トーア』に捧げられてるし、看板は東亜重工フォントだしなぁ……。
 このままだと水枯れて全滅なお先真っ暗、神話の領域に埋め込まれた超技術で一発逆転救世主爆誕といこうじゃねぇか! つう期待感も高まるが、そこら辺はどっしり構えてまだまだ先の話のようである。
 正直天幕と雪海の世界観めっちゃイイので、しばらく手斧と格闘銃でやり合うローテク加減を楽しんでいたい気持ちも強い。
 どういう速度でお話を取り回し、クライマックスへと導いていくか……語り口にも興味は深まる。

 

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第3話から引用

 危険な虫、崩れ行く足場、険しい気候と絶壁。
 前人未到の軌道樹を巡る旅で、超えるべき危機は自然が連れてくる。
 それを越えた先で待っているのは人間同士の争いで、いよいよカイナくんはまだ人同士で殺し合ってる余裕がある罪まみれの大地へと、足を踏み入れていく。
 剣が長い包丁でしかない、人の命運が絶えているからこそ平和な楽園から来た青年は『話し合おうよ』と当たり前な正解を持ち出すが、相手を殺して自分が生きる選択肢がまだ残っている世界においては、それはとんでもない贅沢ごとだ。
 ここら辺お馬さんを楽にさせたり、軌道樹自体が死にかけていたり、幾重にも重なった死生観の描線にもう一つ、奥行きを足す感じの描写だった。

 敵も味方も抜かりなく、天に消えた姫様の行方を追いかけていたわけだが、黒い包囲網を抜け出すきっかけは、殺し合いに慣れていないはずのカイナくんが作る。
 話し合い助け合うことだけが選択肢だった青年にとって、顔合わせたら即座に命の取り合いな地上のやり口は戸惑いを生むが、しかしそこで足を止めたりはしない。
 厳しい環境は彼に優れた適応力と判断力を与え、見知らぬ技術が何を生み出してくれるのか、自分の頭で考えて飛び込む鋭さもある。
 ぼーっと純朴に見えて、我らが主人公は思いの外戦える男なのだと解る描写が、姫様の運命を切り開いていくのは大変良い。
 しかもその”闘い”は殺すより逃げて、活かして護る方向に向いてるってのが、これまた王道で良い。

 メシ食って寝て出す描写が分厚いのもそうだけど、カイナくんは文明人が囚われがちな理念に縛られず、危機を前に即決即断果たせる、生きた身体感覚を持っている。
 その上で自分だけの狭い体験に閉じこもるわけではなく、天膜で独自に育まれた文化風土を背景に、想像力と知恵を働かせて前に進んでいく強さもある。
 動物であり人間でもある存在の、良い所をしっかり持ってる主役だと感じられる。
 それがこの世界ではごくごくありふれた、しかし大変厳しい冒険の中で……あるいは自然を離れ人の世界に近づいたからこその戦乱の中で、武器として輝きだしているのはとても良い。
 国を憂い家族を思う姫様の旅路を、力強く牽引し隣に並んで共に走り、あるいは手を惹かれて新しいものを見つけていく物語を、自発的に切り開いてくれる頼もしさがあるのだ。

 この確かな手応えは、国2つが絡み合う状況に主役が飛び込むまで三話かけた、どっしりした語り口こそが生み出すものだと思う。
 軌道樹、虫、ウマ、人間。
 色んなものが生きて死んでいく、当たり前の輪廻に満ちた特別な世界の中の、ありふれた戦乱。
 ここに優しく強い若人が飛び込んでいって、どんな物語が生まれていくのか。
 次回も大変楽しみです。