イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

REVENGER:第4話『Ask, and You Shall Receive』感想

 石部金吉の血みどろ生き直し紀行、ツンデレ同居人おじさんに助けられて雷蔵ちゃんがお仕事を手にする、リベンジャー第4話である。
 舞台設定と大体の雰囲気、主役の人柄と取り巻く人達がだいたい紹介し終わり、この世のどん詰まりに確かにある生活の息吹が動き出す話数となった。
 前回行き掛かりでルームメイトになった惣ニくんが大変良い面倒見で、罪人のごとく何もせず何も欲さないことを己に貸してる雷蔵を、当たり前の生活に引き戻す苦労が可愛らしかった。

 他のあらゆる事と同じく、雷蔵が生活を立て直し自分なりの人生の手応えを掴んでいく裏には殺しの血生臭さ、犯してしまった罪の取り返しのつかなさがじっとり滲んでいて、なんとはなし過去を忘れて笑ったりなにかに夢中になったり出来る時間が、儚い幻でしかない手応えを静かに伝える。
 全てはいつか終わるための……あるいは既に終わり果てた物語が迷った、一瞬の夢でしかないのかもしれないが、しかしドぐされ人間が肩寄せあってナガサキ・スプロールの片隅、なんとか生きている様子は眩しい。
 第4話で今更なんだが、大江戸サイバーパンクだなこのお話……。

 ”正義の復讐”という利便事屋の理念は既に軋みだし、殺しの上流に立っている連中はあるいは私欲、あるいは狂信に目がくらんでいかさまマトモではない。
 小器用に適当に、昼は当たり前の浮き沈みに身を任せ夜は血みどろの復讐代行と、他の連中のように生きていけない雷蔵は、こんな稼業に流れ着いてしまった者たちが見て見ぬふりをしている現実を、しっかり見据えることしか出来ない。
 俺たちは人殺しの罪人で、救われるべき出口などない。
 この視線が”写実”という芸術に結びついて、乾ききった雷蔵の人生にほのかに墨を入れる様子と、幽烟の背中に刻まれたマリアが本来睨みつけるべき、原罪の行く末が面白く絡まって、今後が気になるエピソードとなった。

 自分なり出来ることを見つけて、夢中になれる何かと出会って、血みどろの過ちとその先にあるさらなる血みどろを一瞬忘れたとしても、人殺しは人殺し、罪人は罪人だ。
 そんな現実を”写実”することしか出来ない雷蔵の不器用が、一体どこに流れ着いていくのか。
 その行く末を睨みつけている幽烟の白皙には、どんな思いと過去が隠されているのか。
 じりじりと、触れ合っているようで縁遠い男たちの因縁が運命にあぶられてる匂いが漂ってきて、なかなかいい感じである。

 

 

画像は”REVENGER”第4話から引用

 無頼な生き方から面倒見の善さをにじませてる惣ニの、雷蔵お世話旅の後を追いかける形で、利便事屋が殺しのない昼間をどう生きているか、見えてくる今回。
 惣ニはルームメイトが仕切りと立てたボロ屏風から、遠い自分の領分に最初は身を置いていて、色々走り回る中で気づけば身を乗り出している。
 この仕草だけで、明らかに殺しを稼業にするには瑞々しすぎる心根が良く見えるが、そういう人ほどどん詰まりに追い込まれていくのがこの街、非情の長崎である。
 この雰囲気で善良ポイントを積むほどに、超ろくでもない未来が待っているとしか思えなくなるので、惣ちゃんにはあんまプリティーな事して欲しくないんだけどなぁ……。

 徹破先生は人情医者、鳰くんはフラフラ色街夜の蝶、幽烟は数寄者垂涎の蒔絵師。
 それぞれ殺しをしていない時間にもたつきの術があり、器用にオモテとウラを使い分けて人間の暮らしをしているわけだが、生真面目が過ぎる雷蔵はそういう生き方ができない。
 日がな一日身じろぎもせず、綺麗に整えた自分の領域で座りっぱなし。
 それは罪人が牢獄で強要される姿勢であり、騙されて親を殺し恋人を救えなかった事実が、当然彼に求める生き方だ。
 腹切って一切合切決着させる侍らしい終わりも奪われてしまって、惨劇の後も悪徳を背負って生きざるを得ない人の身を、雷蔵はつくづく持て余している。
 酒かっくらって博打に勤しみ昼まで寝てる惣ニの、いかにも人間臭い切り分け方とは真逆の同居人を、どうにも見ていられず世話を焼いてしまうのも、また浮世の情か。

 貧乏下宿には不似合いな桜蒔絵の椀物を売り飛ばせば、確かに口に糊することは出来ても、そこに宿ったなにかが売らせない。
 そういうモノを感じ取ってしまうセンサーは、死んでしまいたいほどの過ちを経てなお死ねない雷蔵の中で、確かに生きている。
 引き寄せられ巻き込まれた利便事屋稼業で、殺しの手先として更に罪を重ねながら、行末など見えないままじっとり、立ちすくんでいる。

 

 

 

画像は”REVENGER”第4話から引用

 惣ニがぶつくさ文句言いながら超えた境界線を、信仰で繋がっているはずの殺し屋と上役は超えない。
 異端の信仰がグツグツ発酵している礼拝堂を、縦に切り裂く捻くれた木の根っこは、幽烟と殺し屋稼業……あるいは信仰の関係が同じく、複雑に歪んでいることを良く教えてくれる。
 キリシタン弾圧の歴史を踏まえ、現状の統治機構に強い憎悪を抱くジェラルド嘉納に、幽烟は疑念と反発を覚えるが、異端者の顔面に金箔が張り付くわけでもない。
 かくあれかし。
 現状を寿ぐ聖句が紡がれるには、あまりに罰当たりに冷えた礼拝堂の中で、こねくり回されるのはあくまで現実的な経済と政治……憎悪と反感だ。

 雷さまと惣ちゃんのオモシロ就活紀行に匂う、銭がなけりゃ毎日を生きられない人間のペーソスが、ここではドス黒く生々しい冷たさで剥き出しになっている。
 異端の神父はかいまき与力の我欲を呪うが、では依頼料を渡すの渡さないの、追加で殺すの殺さないのを綱引きしてる自分たちは、神意の代行者として相応しい存在なのか。

 同じ穴のムジナのくせぇ匂いを、幽烟は嗅ぎ取って考えないよう自分を抑え込み、信仰に(あるいは魚澤と同じ我欲)に寄った嘉納は気にもとめていない。
 キリスト教モチーフと暗殺稼業の噛み合いがいまいち見えなかったが、過去の過ちから逃れられず、正しくないと知りつつ殺しに身を任せて罪を重ね、その只中で己の在り方に迷っている男たちを見ていると、”原罪”つうのが一つのつなぎ目かな、とも感じた。
 生きてる限り……あるいは死んでもついて回る罪の匂いを都合よく忘れて、手前勝手に引き寄せ歪められる連中と、生真面目に悩み続け立ち止まってしまう者たち。
 何が正しく間違っているか、そんな審判を誰も果たしてくれない薄汚れた街で、真に生き何かを信じるとは、どういうことなのか。
 それを見つけた所で、拭えぬ罪が拭われる奇跡は訪れるのか。
 そこら辺、今後問いただしていく話になんのかな……って感じ。

 

 

画像は”REVENGER”第4話から引用

 それは先の話として、幽烟が都合をつけてくれた見張り仕事の暇つぶし、雷蔵はようやく前のめり夢中になれるものと出逢う。
 手慰みの筆先が紙に踊る度、写し取られる世界の実相。
 何事もただあるがまま受け止めることしか出来ない男の筆は、禁制のはずの西洋絵画の技法を自然と写し取り、”リアル”な画調を華やかに写し取っていく。
 このお話は架空の歴史を扱ってはいる。
 けども1731年の沈南蘋来日以来、宋代画や西洋絵画の視線を新たな風と受け入れて、生き生きと変容していった日本絵画と重なるものでもあって、雷蔵のリアリズムは確かに受けいられる素地があると思う。
 都合のいいフィクションで人生を塗り固めて、器用に生きることは出来ない雷蔵のメンタリティが、自然と新たな画風にたどり着いてしまった描写は、それが今の長崎では禁忌にもなる”紅毛”の匂いを宿すこと含めて、なかなか面白い。
 ここではない何処かに、確かに息づいている世界本来の在り方を切り取る視線を、雷蔵は知らず見据え形にする才能があったわけだ。

 凄腕の蒔絵師である幽烟と、生真面目一本槍の雷蔵の未来が、こういう形で繋がっていくのはなかなかに面白い。
 金目当てでなく殺しをやってるのと同じく、表家業に蒔絵を選んだ理由が幽烟にもあるはずで、それは今回雷蔵が出会った自分なりの適当と、響くもの……かもしれないし、真逆に擦れて火花を散らすものかもしれない。
 とにかく夢にも嘘にも溺れられず、罪人でしかない自分の現状をまっすぐ見つめることしか出来なかった雷蔵の人生は、絵筆と出会って確かな手応えを得る。
 手渡されたお礼金は、利便事稼業で差し出されたり宙に浮いたりする罪深い銭と、少し違った重さがあるはずだ。

 同時に殺しは殺しで、艶やかな夜に星色一閃、ぎやまんの音色に誘われてみれば殺意の巷である。
 凧糸斬首が印象的だった鳰くんが誘い役を担当し、徹破がインチキ狙撃を担当する殺しの組み立てには豊かなアイデアが感じられ、不謹慎ながら楽しかった。
 血みどろの段取りを楽しんじゃいけないもんだが、そういうモンこそ面白いってのも世の習いで、さてこの殺戮娯楽劇の帳尻を最後にどう合わすか、なかなか楽しみであったりもする。
 トンチキとケレンでしっかりエンタメしつつも、自分たちが扱うモノへの内省が随所に透ける話作り、まーツケは取り立てに来るよなぁ……と思うけども、さてはて。

 

 

 

画像は”REVENGER”第4話から引用

 猫は猫、侍は侍、そして人殺しは人殺し。
 世間がどれだけ小器用に嘘を囁いても、そうとしか思えない男が見つめるものは、否定し難い新たな”美”に満ちている。
 それが他人に認められ、自分の居場所となっていく感触に雷蔵はほほえみ、幽烟は表情を固くする。
 歪なる信仰者の視線が見据えているのは、蒔絵師としての自分に並びかねない”美”の感触か、空虚に枯れ果てるはずだった男の魂が、墨の雫で確かに潤った感触か。
 飄々と掴みどころのない幽烟が、雷蔵にぬらりとした情感を寄せている描写が今後、どう炸裂していくかも楽しみである。

 

 という感じの、雷蔵生き直しの足場を整える回でした。
 愉快な復讐代行業者が日常をどう過ごしているか、どんな人情を抱えているかが良く分かったし、浮世に混じって罪を忘れる都合のよさに、どうしても主人公が安住できない様子も理解った。
 その上で、自分の指がなにか実りのある美しいものを作り出し、人と人の間に縁となっていく喜びも、死んで当然の罪にまみれてなお、雷蔵の魂に宿っている。
 それに素直に、真っ当に生きていく道は多分、すっかり汚れきった血みどろの渦中に許されているものではないが、それでも人は生きていく。
 生きてしまうものだし、その禽獣の如き本能に従った結果、許されざる罪が世に溢れもする。
 そんな悪業溝浚い、天に向けれぬ汚れた顔で、泳ぐ浮世の川流れ。
 さて、どこに行き着くか……次回も楽しみですね。