ヴィンランド・サガ SEASON2を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
イングランドにたなびく戦雲をよそに、トルフィンとエイナルは厳しい開墾に汗をながす…という、ややコミカルな息抜き回。
…なんだけども、朗らかだからこそ重たい手応えもズッシリあって、なかなか複雑な食べごたえだった。
サブタイトルにもある”馬”は現代でいえば農耕重機のような頼もしさで、人の繋がりや知恵、契約を果たす誠実さや仕事のやり甲斐を体現していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
人間の良いところがギッシリ詰まったナイス相棒と共に、トルフィンとエイナルは寄る辺ない奴隷ぐらしの中、確かな希望を掴んでいく。
それは苦難に満ちた力仕事で、しかし畑に手を突っ込んで石を書き出し、渾身の力で切り株をひっくり返す度に、確かな手応えで未来を形にしてもくれる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
地道に、当たり前に、丁寧に生きる実感を積み重ねていく、人の生きざま。
トルフィンが、かつて切り刻み燃やしたモノだ。
生産者である農民(に戻るための、自分を買い戻すためのリソース作り)の堅実な仕事がしっかり描かれるほどに、第1期で復讐心に駆られたトルフィンがそれを簒奪する”ヴァイキング”だった事実が思い起こされる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
あの時は考えもしなかった、地を耕すものの暮らしと思いを、大きな赤ん坊は今学ぶ。
戦争と復讐の空虚さにすべてを失ったトルフィンは、奴隷にまで落ちどん底で朋友と出会うことで、新たに生まれ直している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
その歩みは戦争に傷ついたエイナルが、家族と故郷の喪失を軽く口に出せるくらいに、魂を癒やしていく旅路と重なる。
血みどろの罪人が、そんな満ち足りた再生を遂げて良いのか。
苦労と幸福に満ちたコミカルな開墾の合間に、ふとそんな考えが脳裏をよぎる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
”蛇”とスヴェルケルが適切に指摘するように、肥大化しすぎたケティルの農園は戦乱を呼び込み、カネで平和を買うやり方には危うさが残る。
容赦なき簒奪はもはや一つの生き方と、血に慣れ親しんだヴァイキングの暴力。
かつてトルフィンが溺れ、エイナルの幸福を壊したものはこの穏やかな日々から消え果てたわけではなく、常に間近で牙を研いでいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
それが再び襲い来る気配が、晴天にかかる黒雲のように不気味に、この明るいエピソードから匂っていた。
杞憂…ではないと思う。
農場の平和はハラルド王に多額の贈り物をすることで安堵されているが、その玉座は弟クヌートの野心に焼かれている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
イングランドを三年で奪い取った怜悧がデンマーク本国に伸びたとき、過剰な富と不似合いな暴力しか所持しない農園の立場が、そのまま維持される保証はない。
ここら辺は年表に約束されたクヌート政権と、ケティルが再び適切な安全保障を確立できるかにかかっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
神なき地上に、永遠の楽土を。
輝く理想のためならば、謀略も殺戮もあらゆる悪徳をいとわない覇王が、対等に保護して然るべき相手なのだと、自分たちを認めさせるだけの器量が彼にあるか。
豊かで無防備な果実をもぎ取る必要があれば、クヌートは間違いなく血の収穫を果たすだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
別にクヌートが狙わずとも、金で買った安全保障を横から蹴り飛ばし、短絡的・刹那的に殺して奪う選択肢が”ヴァイキング”に気安いことは、既に描かれてきた。
あれ炊け苦労して、土を耕し日々を生きて…
ようやく作り上げた成果だけを、死をひさぐ事で奪える立場。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
戦士階級のロクでもなさと容赦の無さは、”客人”と奴隷のやり取りで既に描かれている。
積み上げるには厳しく、奪い去られるにはあまりにあっけなく。
フェロー諸島で、あるいはイングランドの悲劇が、ここでも再演されるのか。
そうして繰り返すクソみたいな現実が迫ったとき、赤子のように無防備に生き直しているトルフィンは何に苛まれ、何を選ぶのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
イイ顔面山盛りの開墾コメディに大笑いしつつも、ふとそんな事を考えてしまう回だった。
願わくば、少しでも長くこの穏やかな日が続きますように…。
というわけで物語は、平和に過ごすつがいの鳥を狙う蛇と、その危機を顔面凶器の絶叫が知らず追い払うところから始まる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
意識せぬまま、小さな命を守るこの出だしが、エピソード全体に漂う生気と優しさを象徴してるように思う。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第6話より引用) pic.twitter.com/ebR0Faw16v
人間の力で切り開くにはあまりに厳しい、新農地の開墾。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
深く根を貼った切り株は、そこにあった樹が必死に生きようとした証でもあり、それを顔面ビキビキ言わせながら克服していくことで、人間は生きる糧を増やしていく。
鳥を狙った蛇だって、ただ生きようとしてるだけだ。
そんなシンプルさに差別と侮蔑が交じるのが人間様の生活というもので、小作人は奴隷に馬を科さず、自分より下のカスがいると確認することで、苦しい日々をなんとか生き延びている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
そんな中、偏屈ジジイが持ち出してきた”契約”。
労働力を差し出すことで、見返りを約束し確かに与える、誠実な関係性。
自分の生き死にすら自由にできない奴隷の立場、対価なき労役はむしろ当然であるはずなのに、スヴェルケルは相手を契約可能な人間として見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
支払いを踏み倒すこともなく、頑張った分だけ適切な見返りを与えて、トルフィンとエイナルを人間と認めた対応だ。
土に埋まった石を掘り返し、しつこく根を張った切り株をひっくり返し。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
土を耕して生きる日々はあまりに地道で大変で、だからこそハンパじゃねぇ馬力が出るお馬さんを貸してくれるありがたみも身にしみる。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第6話より引用) pic.twitter.com/nwDOQlhEzn
指を土に汚し、畑を作る一つ一つの手応えがこちらにも伝わるよう、どっしりとこの時代の開墾と農業を書いてくれる筆が頼もしい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
そう、土に根ざして生活を続けることは今と同じく大変で、もしかすると今より大変だったのだ。
そういう手応えのある大事なモノを奪われたから、あるいは奪ったから…
二人の青年の人生は今、ここで泥に汚れている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
しかしあの運命の夜、バラバラに砕かれた人間のパーツではなく、自分の行く末を決定できる一つの総体として、自分の中の恨みや後悔を飲み込む決断をしたことで、確かに道行は変わった。
思い出す度血が沸き立った、死せる母と妹。
エイナルが二人の思い出を、笑いながら語れていて泣いてしまった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
怒りに任せて報復する道に、震えながら背を向けたあの夜救われたのは、許されたトルフィンだけではなく、許したエイナルも同じなのだろう。
それは簡単な道では、けしてない。
人間の身魂を生々しく震わせる激情を、それでも飲む決意
あるいは目の前の現実は過去の再演ではなく、隣に眠っているのは殺すべき仇ではなくともに生きるべき仲間なのだと、正しい判断を下す理性。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
そういう人間の力全てを動員して道を選んだから、エイナルは笑えている。
その隣で、トルフィンの瞳にも少しずつ光が戻ってくる。
折れ曲がった腰に力を込め、大地に鍬を打ち込むスヴェルケル老人の姿にも、同じ震えと光がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
大概の人がそういう風に、地道に当たり前に生き続けていて…それが暴力の嵐にあっけなく、吹き散らされるのも当たり前な時代。
それは終わった過去であり、僕らが生きる今に確かに繋がってもいる。
スヴェルケルとの”契約”を果たしながら、トルフィンは重鋤が大地を踏破していくスピードに驚く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
それは農夫の苦労を知るものが作り上げた、人の英知の結晶だ。
身体以外何も持たない、牛馬同然の奴隷にはできない、人間だからこその強さ。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第6話より引用) pic.twitter.com/Hx8gSL22uQ
モノ作る動物としてのヒトを素描するように、今回は静物のクローズアップが多い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
労働と契約に対する正当な評価として与えられる、命の糧。
迫り来る暴力を打ち払うべく、壁にかけられた鋼の備え。
あるいはそれに頼らず平和を買うべく、捧げられる数多の富。
様々なものをヒトは生み出して、そこにはいちいち大変な苦労がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
根っこをひっくり返し石を取り除き、人と人が力を合わせ思いを重ねてようやく、何かが形になっていく。
そうやって実りを生み出せる存在が、同じ手ですべてを壊し奪い去る。
そっちの方が、手っ取り早いからだ。
正しくて時間がかかる方法を許してくれるほど、時に世界は優しくなく、間違いきって手っ取り早い方策を選ばなければ、命自体が消えてしまうことがある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
というか多い。特にこの時代は。
そんな厳しい選択の只中に投げ込まれて、なお”人間”であり続けることはとても難しい。
あるいは富、あるいは殺戮、あるいは権力。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
様々な虚栄…これも”モノ作る動物”だからこそ生み出されるわけだが…に突き動かされて、末端の兵士も彼らを駆る覇王も、作らず奪う道を選ぶ。
かつてトルフィンが、その泥沼に引きずり込まれたように、略奪の引力はあまりに強い。
そして蓄積された過大な富と、それを護るには弱すぎる暴力は、その引力をより強める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
”蛇”もスヴェルケルも正しくそれを認識する中で、ケティルの拡張路線はあまりに危うい。
…が、順風満帆な成功は節度を奪い、さらなる蓄財へと長者を突き動かしていく。
どんな時代でも権力とは強制力であり、奪う相手に生き死にすら自由にさせない力こそが、勇壮な野心を形にしていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
財力、武力、知力、無形の文化的影響力。
他人を奴隷に出来る力、奴隷を人間に変えられる力に押し流されないためには、やはり力がいる。
そこで力に貴賤なしと、目的のために一切手段を問わない道を進んだのがクヌートであるのならば、トルフィンは正しい手段以外を選ばぬまま夢へとたどり着く、厳しすぎる道へと己を運んでいくのだろうか?
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
重鋤に宿った叡智と祈り、剣にひらめく暴力の気配、ともに囲む食卓の温もり、輝く富の魔力。
モノでしかないはずの物に価値を見出し、時に共有し時に専有する特性もまた、人間特有のものだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
人間をモノ化する奴隷の境遇を、丁寧に追いかけている第2期、モノに宿る人間だけの尊さと業が開墾の日々を追う中、濃く際立ってきたのは面白い。
人は死にたくないと願えばこそ、命に価値を見出す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
その原則があって、”客人”は死と恐怖を売り物に農場の平和を守っている。
その頭領である”蛇”は自分たちが特権的な暴力専売者ではなく、より強力な暴力が世に存在している事を良く知っている。
それが、農場を見逃さないだろうことも。
スヴェルケルは農夫として、息子の拡大路線があまりに危ういことを感じ取っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
足りるを知り、モノの誘惑を己からも他人からも遠ざける生き方を選んだ老人は、奴隷がモノではなく人間なのだと感じたから”契約”を果たした。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第6話より引用) pic.twitter.com/0kDHofZc51
暖かな炎に照らされた、この満ち足りた夜がどれだけ危ういものか、四人の男たちはそれぞれに知りつつも、今目の前に在る時間を豊かに噛み締め生きている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
このひと時が良き思い出となっていくのか、一瞬の夢と消えるのか。
油断はできないと、物語は告げてくる。
金で平和を買うケティルのスタイルは、命金を差し出したマーシアを踏みにじり、謀略と暴力で全てを奪い去っていったクヌートの物語と、重ねられているように思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
圧倒的な強制力を行使しうる存在が、本気で奪おうと決意したとき、富はあまりに脆い。
モノそれ自体に目を曇らせず、それを用いて何を成し遂げるのか、大望を抱えて悪行を為すクヌートが見ているものを、果たしてケティルも見据えられているのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
そろそろ”良い御主人様”の地金が見えてくる頃合い…かな。
あー、絶対ロクでもねぇんだろうなぁ…。
ともあれ満ち足りた月夜に、絶望から這い出した二人の青年は足跡を刻んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
奴隷であり人間でしかない自分が、誰かと力を合わすことで確かに作り得た、広く豊かなもの。
そこに向き合うとき隣りにいてくれる、かけがえのない友。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第6話より引用) pic.twitter.com/6xY70qxCj5
あるいは武器の代わりに土を握って、節榑ひび割れた己の手。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
様々なものを、新たに開いた瞳に映しながらトルフィンは生きていく。
ヒゲも伸びるし、森も拓ける。
そうやって少しずつ、確かに積み重なったものの上を、残酷な嵐が吹き荒れてもいくだろう。
それでも、確かに幸せは此処にある。
そういう手応えがどっしりと宿った、良いエピソードでした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
この後運命がどう荒れ狂うにしても、トルフィンとエイナルが唸りながら土に向き合って、お馬さんを貸してもらって畑を作った事実は消えない。
そこから生まれたもの、見つけられたものも、灰燼に帰してなお消えない。
消してはいけない。
それでも消えていってしまう無情を描く話と知りつつ、だからこそ人が生きる営みの一つ一つを、良い手触りで削り出してくれる筆先が、大変にありがたいです。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月16日
このまま着実に、幸せを積み重ねていってくれれば何よりだけども、”ヴィンランド・サガ”だしなこのアニメ…。
次回も楽しみッ!