イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

REVENGER:第7話『Rosy Pitfall』感想

 異端邪宗は耶蘇の専売、誰が決めたか艶色奈落。
 抱かれ落とされ坊主の涙、噛んだ小判に刻んだ恨み。
 『俺たちは、セクシーな男たちが酷い目に合うさまを描きたいッ!』と、折り返しを超えて、エンジン全開になってきたREVENGER第7話である。

 雷蔵が過去とともに断ち切ったはずの縁は、長崎丸ごと飲み込むアヘンの堰も解き放って、世に悪徳と悦楽がはびこる。
 ドぐされ尼寺を叩き潰した所でトカゲのしっぽ、奉行所と会所が肩並べて利便事屋を追いかける厄介な状況も動き出して、さてはてどうするどうなる……という情勢である。
 そういう大きな話の横で生真面目な坊主と可哀想な陰間が、手に手を取って奈落に落ちていく悲愴が端正に描かれて、『やっぱ作ってるやつ重篤なサディストなんじゃねーの!?』という疑念が深まる。
 そらそーだ。(スタッフリストの”ストーリー原案・シリーズ構成”を穴が空くほど見つめる)

 

 

 

画像は”REVENGER”第7話から引用

 雷蔵が抜け出せぬ因縁と後悔の悪夢に身を沈める裏で、一人の僧侶が愛と悲しみの奥底へとずぶずぶ、沈んでいく。
 どうもこの世界の長崎には良くない湿気が出ているようで、カトリッ……アンゲリア教は傲慢な暗殺教団に成り下がるし、坊主は『女の格好した男なら、戒律犯したことにはならねーだろッ!』って生臭ぇ息を吐く。
 顔だけをおしろいに塗りたくり、乱れ髪も哀れな市之丞の細い体に絡め取られ、流され、仏門の無力を思い知らされる僧都の涙は、愚かしくも悲しい。

 『ガッツリやってんじゃなーかッ! 涙も別のも同時に出るってか!!』って安全圏からの嘲りがバカらしくなるように、二人は尼寺に偽装した売春窟でいっとき抱き合い、微かな希望を夢見て、鴉片が何もかもを押し流していく。
 聖職は悪徳に囚われ、救いは与えられず、一度は押し留めた恨噛み小判は結局、哀しき絶頂を刻まれて褥に落ちる。
 薬にぶっ壊されちまった市之丞が、愛する男の腕の中微かに吐き出した最後の人間性が、殺しの依頼料にまとまってしまう終わりは、滑稽と悲哀が入り混じったいい色をしてた。

 

 金とセックス、愛と悲しみ、生と死。
 人間が生きる厄介さを一箇所にまとめたように、現し世の地獄に囚われた二人の男たちに救いなどなく、殺し屋達は別にかわいそうな犠牲者を助けたりはしない。
 殺ししかできないんだから、そんなことは夢のまた夢だ。
 ただ起こった悲劇のツケを、銭金貰って殺しで払わせるだけである。

 長崎阿片汚染に黙っていられず、弾丸のように飛び出していく雷蔵と関わりのない所で、ひっそり色と毒の犠牲者のお話は綴られていく。
 その関係の無さが、画業に天稟を見出してなお安住できない男の行く先を、暗く照らしている感じがある。
 嘘に踊らされ誰も守れず、生き恥晒してなお切り捨てた悪党の、死体の先にまだまだ続いている欲と悲惨。
 今回描かれた二人の恋路は、泥に咲いた蓮が虚しく散らされて、また泥の中に沈んでいくやるせなさに満ちているけども、そこにある人間の体温に雷蔵達は触れ合わない。
 全ては終わり果てた後、金をもらって悪党殺しに動き出すだけである。
 復讐代行業と飾ってみたところで、鳰に内部から切り崩されるわ、権力者の流し目からは逃げられてねぇわ、なにもかも断ち切る断罪の刃を気取るには利便事屋、主体性がなさすぎる。
 でもまぁ、職業的人殺しなんざ、そういうものなのだろう。

 

画像は”REVENGER”第7話から引用

 かくして殺し間となるわけだが、誰にも預けないはずの刃を雷蔵は惣ニの隣で研ぎ、その刃先に同居人の面影を照らしている。
 やっぱこの二人の人間生き直しっぷりは狙って置かれた温もりであり、『ここに体重を預けさせた所で、さかしま足払い決め込む算段だろ!』という警戒が拭えない。
 あんまりにも辛いことが多すぎる長崎スプロール、腐れアマの始末まで含めて惣ニの人情が微かな明かりになっているわけだが、だからこそそのうち残酷に吹き消されるんだろうな……みたいな怖さがある。
 権力サイドからの外堀も埋まってきたし、無敵の大江戸サイボーグを凌駕する唐人街のカンフーマスターも出てきたしな……。

 鳰くんの新作殺し芸とか、大江戸ジップラインとかありつつも、状況は劉大人VS雷蔵のバトルになっていくわけだが……つえーなオイ!
 間合いと速さという剣の利を、スルッと内側に入り込み離さない至近距離戦で上手く殺して、追い込まれても見事な軽功で鮮やかに切り抜ける。
 圧倒的な暴力マシーンであることが空疎なる雷蔵の存在意義だったのに、そっちで完全に上回ってくる強キャラが出てくると、状況が揺らいでいるのを実感できる。
 『闇に蠢く超越者が、法で裁けぬ悪をスカッと長崎!』という話では、やっぱないよなー……という手触りだ。

 

 

 

画像は”REVENGER”第7話から引用

 艶色奈落を尼の死体で埋めた所で、阿片に壊された魂が戻ってくるわけでもない。
 もはや僧ではないと、仏法にではなく市之丞の存在それ自体にただただ寄り添うことを決めた男の禿頭には、もしゃりと清らかな俗気が芽生えていた。
 一見綺麗なようでいて、なーんも報われないスラム街の二人エンドを見ていると、利便事屋がこねくり回してる歯車が、大きな運命と噛み合ってない空回り感は強くなる。
 人殺してそういうモンが回っちまうのもまた良くないので、それは大事な虚無感だと思っている。

 殺し屋共を磔台に送り込むかもしれない腹芸も、絵筆だ金箔だ握ってる庶民には関係ない、長崎政治の中枢で転がる。
 ノンキなお奉行様が、かいまき与力の郭での”療養”を真顔で信じているの、漁澤が好き勝手やれてる背景が感じ取れて結構好きだ。
 くだらぬ呪いと一般には信じられている恨噛み小判が、奉行所の役人を食いちぎった証を抜け目なく差し出して、闇稼業の連中をのっぴきならぬ場所へ暴いていく商人の腹は、何を呑んでいるのか。
 ぬっっと突き詰められた血染めの証拠品に、竹光小太刀と脅し文句で切り返す漁澤もまた、なかなか厄介な場所へと引っ立てられていく。

 利便事屋が殺しでしか関われなかった麻薬禍に、本腰入れれば対応できる立場にいる商人と役人は、儲けと保身のために正義を棚上げし、腹芸を重ねながらどうにか我が世の春を謳歌できぬものかと、現世の泥をのたくっている。
 この生臭い無様の下流に、萬殺し請負たる雷蔵たちが位置しているわけで、現状逆ではない。
 さて、このままお上から流れ込んでくる厄介で溺れて死ぬのか、はたまた運命の風下から執念の逆撃をねじ込んでくるのか。

 

 

 

画像は”REVENGER”第7話から引用


 かくして長崎暗黒街に立ち込めてきた怪しい気配に、呼ばれて顔出す遍路装束の男たち。
 さてはてどんな血みどろが待っているか、次回も大変楽しみです。