新世代の柔道一直線、快進撃を続けてきたチームに高すぎる壁が立ちふさがる、もういっぽん! 第12話である。
ここまで敗者に向けてきた暖かな眼差しが、当然のように負けていく主役に返ってくる展開になってきてなかなかに味わい深い。
話の都合で生まれた苦さを飲ませる哀れみのオブラートではなく、環境や才能の違いで当然生まれた力量差、そこから生まれる一つの結果を未来に繋げるべく、より良く柔道する選択肢として納得できる。
”常勝”の二文字を維持するべく立川が流した汗と涙、それだけが支える実力と勝者のメンタリティは、フツーの女子高生が一生懸命必死に打ち込んだ柔道を、当たり前に踏み砕いていく。
それは一つの結果であり、結果でしかなく、まだまだ続いていく道の中でそれを過程としてどう受け止めていくか、受け止めるべく結果を生み出す過程に……眼の前の試合にどれだけ己を注ぎ込めるかが、大事になってくる。
今までは青高の勝利の影で描かれてきたものが、主役が3タテされる中でより強く際立ってきた感じがあって、このお話独特の勝負論、人間観が最終話を前に感じ取れた。
”部活”というものを、苦い敗北込みで丸呑みして、全部全部素晴らしいのだと、胸張って叫ぶ。
そういうアニメとして進んできたこのお話が、どういう今と未来を見据えてひとまず幕を下ろすのか、期待と信頼の強まる最終話一個前でした。
というわけで立川学園のスーパールーキー、小田桐が前試合の勢いを殺さぬまま、破竹の勢いで主役チームを負かせていく。
スポーツ強豪校でい続けられる精神性と環境、そこから生まれるハードなトレーニングと厳しい選抜は桁違いで、(小田桐自身がそう受け止めているように)勝ちは当然の結果である。
ここら辺、ブランクを埋めるのに時間を使ってしまった姫野先輩が最後踏ん張りきれずに負ける描き方と、残酷で誠実な対比である。
力量差も各々の事情も眼前としてあって、負けの事実はそれに言い訳をさせてくれない。
そのうえで、その苦さをどう受け止めるか。
試合内容を通して、これまで少女たちが歩いてきた物語を思い返すような描画と合わせて、なかなかにコクがある。
中学最後の試合では負けん気が前に出すぎて失神した未知は、関節技を堪えずに”参った”を言う。
それは早苗が思い出させた、まだまだ終わりではなくこの先も柔道が続いていくという、自分の後ろに確かに仲間がいるという、信頼が選ばせる敗北だ。
一瞬一瞬に全力を注げる所が未知の強みで、注ぎすぎて足元が危ういのが彼女の弱みだけども、そこでちゃんと負けを選べるところまで自分自身と、自分を取り巻く人との縁を積み重ねてきた結果、違う負け方を選べる。
1クール通した主役の成長を、こういう形で描くのは凄く面白かった。
早苗のあっけなさすぎる負けがどう広がるかは、未知のような過去との対比ではなく、未来に向かっているものだと思う。
何しろ勝ち星がない上にあの子真面目なので、『負けてる自分、情けない自分、道に並び立てないかもしれない自分』をメチャクチャ気に病むと思うんだけども、その重さに潰されず、フラつきながらも進んで欲しい。
いい仲間がいるし、何より指導者が”失敗”(に思えるけども、その実確かに成長の途中でしかないもの)を教え後に飲ませる手腕と心意気に優れているので、そこまで心配じゃないんだけども。
夏目先生の声掛けがタイミング・内容ともに凄く良くて、当事者が痛みと辛さに取り囲まれて動けなくなりそうな経験に、新しい視座と目指すべき目標を指し示すことで、前向きな突破口を開けているのがすごく好き。
”先生”と呼ばれるなら、ああいうことをしなきゃいけないんだなと思わされる。
そして姫野先輩の激戦であるが、錦山戦のクレバーさが鳴りを潜め、全霊を燃やしてなんとしてでも強豪に食らいついていく、気持ちが前に出た柔道で挑んでいた。
唯一の三年生でありながら最後の新入部員という、なかなか複雑な立ち位置を真摯に受け止め、縁の深い古馴染み、新たに仲間になった二個下のエースと、積み上げた人間関係を糧に折れそうな自分を奮い立たせ……届かず負けていく。
どれだけの気持ちを抱えていても越えられない壁はあって、その冷厳さが公平に己を試すに足りる、”柔道”の面白さにもなっている。
姫野先輩をちゃんと負けさせたこと……その負けあって永遠ちゃんの勝利があることは、凄く良かった。
勝ち続けることを当たり前に求められ、その重圧化で気楽な女子高生でもあり続けている立川柔道部員は、この試合に”賭けて”はいない。
針で突けば弾けてしまうような張り詰め方を、全霊を絞り出すようなギリギリの勝負は”常勝”を許してはくれないからだ。
眼の前の試合に闘志をたぎらせつつ、冷静に勝負を見据えられる精神力を、教え子を愛する戌威先生はしっかり鍛えてきたし、それが姫野先輩の猛攻に飲まれず冷静に捌き切る、小田桐の勝ち方にもつながっている。
一見傲慢にも見える絶対強者にも、強者なりのロジックがあり、背負っているものが有って勝ち続けるのだと描けるタイミングは、おそらく主役が負けるこのタイミングしかない。
廃部寸前から根性と友情で立ち上がってきた、青西では描けない……けど、たしかに存在しているものを、ライバルを通して描く筆はすごく好きだ。
その高みと強さを描いてこそ、未知たちが必死にしがみついて、今日も明日も本気で挑む”柔道”の姿は鮮明になっていく。
その上で、飛び抜けた才を強い思いで研ぎ澄ませた刃は、確かに高峰に手を届かせるのだも描いていく。
正直青西に収まる器じゃない永遠は、日々の鍛錬で鍛え上げた技と仲間が教えてくれた相手の手筋をがっちり掴んで、畳に叩きつける。
可愛い可愛い女の子が獣みたいな表情で組合してる描写を、一切怠けない所がこのアニメの好きな所だが、永遠戦はそのむき出し感が良く出ていた。
小田桐の強みと描かれていた闘争心の強さに、特に意識することなく勝負になったら上回れるメンタリティが、環境で磨き上げられた立川の強さとはまた違う、永遠の才能を感じさせて良い。
その殺気は、かつて天音先輩との関係を拗らせた”良くない顔”を、再び永遠に浮かばせもするのだが。
ここらへん、戌威先生がしっかり真意を見抜いて、悪気はないのだと把握してくれてるのが助かる。
未知が意識してないポジティブさでどんどん友だちを増やしていくのに対し、永遠ちゃんは意識できない残酷さで敵を作ってしまうので、今後ここら辺の手綱を上手く握れると良いね……という気持ち。
そういう永遠ちゃんだからこそ、未知の朗らかな生き方に惹かれてる……つう話なんだろうな。
試合の方は三タテ決められた仲間との絆が、勝利への扉を開く……という書き方である以上に、天才・氷浦永遠だからこその勝ち方だった。
相手を吊って投げ飛ばす櫓投げでしっかり決めきる体の強さと、色んなものを背負いつつ勝負だけに集中できる心の鋭さ、そして競合相手に互角に組み切る技の冴え。
未知の奇襲を捌き切り、早苗をあっさり投げ飛ばし、姫野先輩がスタミナを捧げなければ勝負の形にもならなかったと、小田切の強さをしっかり描けばこそ、それと語角以上に組み切る永遠の規格外がよくわかる。
ふつーのスポ根がぶん回す勝ち負けには拘ってないけど、勝負がどう成立するかはかなりシビアに的確に書いていることが、そこにキャラクターの個性や魂が炸裂する足場を、しっかり整えている。
常勝立川、何するものぞ。
そう吠えるだけの資格を、勝利をもぎ取り証明した永遠の前に立ちはだかるのは、青い瞳の秘密兵器。
闘争心むき出しの小田桐とはまた違った、朗らかな微笑みからどういう”柔道”が出てくるのか、次回も大変楽しみです。