ヴィンランド・サガ SEASON2を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
奴隷として引き裂かれた夫婦が、血まみれの再開を果たす時、吹き荒れる嵐。
灰に消えたはずの熾火は、風を受けて燃え上がる。
流れる血潮は命に戻らず、罪ばかりが積み上がるこの世界に、希望はあるのか。
青年たちは迫る戦雲を知らず、地の果てを見つめていた。
そんな感じの一本ずっしり人間曼荼羅! ヴィンランド・サガ2nd第15話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
過去に縛られ情愛に焼かれ、他人の血を流すアルネイズとガルザル。
亡者を背負ってなお進むべく、眩い夜明けの先にある自由を見据えるトルフィンとエイナル。
嵐と、嵐を越えた先にあるものが交錯するエピソードだ。
天候や情景を活用し、人間のスケールを大きく越えた業や運命を画面に刻むこのアニメのスタイルが、他でもない人間の情念を燃料に、強く燃える回でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
嵐の予兆は夫婦の熾火を燃え上がらせ、伴侶への愛慕は敵への憎悪へと移り変わる。
風と雨、炎をメタファーに描かれる、愛憎の転輪。
関わったキャラ全員の運命を捻じ曲げた”ヴァイキング”が、戦を前に誓いを立てるオーディンが嵐と戦争の神であるのが、なんとも因果なサブタイトルであるが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
殺され奪われ奴隷に墜ちたガルザルは、奪った剣で新たに殺す事で屈辱をすすぎ、幸福な過去へと戻ろうとする。
殺し奪った過去に呪われているトルフィンは、剣を捨て遥か彼方へと進み出すことで、新たな価値を掴もうともがく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
それは晴れ渡った穏やかな朝、優しい光に包まれた人生の真理として描かれ…しかし遠い。
トルフィンの生涯を賭しても、1000年の時が流れても、ヴィンランドなお遥かなり。
武器を取って立ち上がらなければ、大事なものが踏みにじられる嵐へと、誰もが変わりうる世界。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
己も顔のない嵐へと変じなければ、嵐に抗うことが出来ない世界。
そのカルマを乗り越えて、虹の向こう側へと伸ばした手が掴むのは、誰のものでもない自由の地ではなく、既に誰かの故郷になってる場所。
最終的にヴィンランド入植を妨げ、あるいは新天地アメリカの歴史を血で塗っていく、ハードコアな問題にも一瞬、意識が行く展開だった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
どこまで逃げても人がいて、解りあえずに諍いが起きて、大事なものを奪われたから奪い返す。
そして何も戻らず灰と残骸だけが残る、神の愛なき世界。
今朝焼けの中で、あるいはここから襲い来る嵐の渦中で、トルフィンが見据え道。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
それはあの雪原でクヌートが直面し、冷酷な覇道を選んだ現実認識と根源を同じくし、行く先を真逆とするだろう。
殺し続ける辛さと、殺さない弱さと。
どちらもが間違いで、どちらかを選ぶしかない旅路は続く。
闘いもしない、航海にも出ない、泥臭い寄り道に思えるこの農場の物語が終りを迎えた、その先に。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
あるいはこの泥濘で決定的に、世界のあり方と己の願いを確認すればこそ、荒れ狂う海へと青年は漕ぎ出していくのか。
どちらにしても、嵐は既に吹き荒れ、これから勢いを増していく。
その個別の実相を、じっくりと見ていこう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
最初アルネイズは暗い月光に身を置いていて、風は穏やかだ。
それは先週トルフィンたちに、必死に押し殺して過去を告げ、腹の子と共に未来へ賢く進んでいくのだと、理性が定めた風景だ。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第15話より引用) pic.twitter.com/1Wg5k1cA4n
しかし風は吹いて熾火は強く燃え、理屈の通らぬ決断へと二人は押し流されていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
燃え盛る松明が、出会ってはいけなかった二人の境目に置かれ、次第に強くなる風に、紡がれる思い出に煽られていく。
時が戻り、殺された我が子が蘇る奇跡など、ありはしないのに。
全てを奪われ、己の生き死にすら自分で決められない地獄の底で、歯を食いしばって夢見た奇跡。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
虜囚のガルザルが囁く言葉は、そよ風のように優しく、野分のごとく激しく、女の心をかき乱していく。
風と炎の連動が、アルネイズの心理とも重なっているのが劇的だ。
風向きはただ穏やかな過去にだけ吹くわけではなく…というか、幸せな思い出を軒並み灰にされたからこそ、憎悪が強く燃え盛る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
思い出を囁いたのと同じ口で、獣のごとく激しく喉笛を噛みちぎり、自由を得るべく誰かを殺す。
紅い、人間の肖像だ
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第15話より引用) pic.twitter.com/pG3J2wNMWh
風は水をはらんで雨が振り始め、豪雨の中でも松明は消えない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
かつてガルザルがそうされたように、身内を殺された”蛇”が灯火の間近にいればこそ、深く暗い影に飲み込まれている表現が、大変に良い。
燃えるもの、風を受けて激しくなるもの、人間が人間だからこそ握れるもの。
人と獣を隔てる誰かへの愛こそが、それを奪う誰かを苛烈に殺す獣へと、人を引きずり落としていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
炎も風も人間の制御を大きく超えて、正しくないと知りつつアルネイズは夫の傷へ手を差し伸べ、胸を燃やす熱を風に晒した。
その触れ合いが、逃亡奴隷の思い出に温もりを手渡し、牙をもう一度研ぐ。
新EDの題名を”Ember”としたのは全く優れた詩学で、灰になったはずなのに消えない残り火が、この農場に集う人たちを覆っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
それは感情の嵐に、残酷な風に煽られて再び燃え上がり、他人や自分を焼いていく。
危ういと解っていながら、獣になれない人間が消して、手放せない温もりの源。
群れの仲間とそれ以外を区別し、身内以外にはどこまでも残虐になれる、ヒトの特性。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
逃げるガルザルも追う”蛇”も、同じ風に煽られて燃えているのだ。
灰になった思い出は、敵の血で贖うしかない。
エイナルが憎悪の夜に、必死に投げ捨てた理不尽にも、また突き動かされていく。
殺し、殺され、また殺す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
あまりに人間的で、ノルド的でもある”男らしい”風景を未だ知らぬまま、奴隷たちの眠れぬ夜が開けていく。
未だ朝焼けは遠く、答えの出ない問を真摯に転がしながら、修羅界たる現世を思う。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第15話より引用) pic.twitter.com/QFk0vUQSgk
アルネイズにおいては男女の情愛だった”残り火”は、トルフィンにおいては戦火として灯る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
共感を殺し、同害報復を成し遂げるべく仇を追って、その道すがら邪魔をする連中を、切り裂き燃やしてきた。
復讐を奪われて流れ着いた土地で、虚無を汗で埋めちぇ魂を蘇らせれば…見えてくる罪。
土を耕しひび割れた、もはや剣を握らぬトルフィンの手が、固く握りしめられる時陽が昇る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
それは闇の中熱く燃えていた炎とは違い、誰かを焼かない温もりだ。
だからこそ煮炊きには使えず、敵を殺し味方を守るためには弱すぎる。
そんな薄明にこそ、己が進む道がある。
物語の答えがある。
炎と嵐に宿った、出口のない暴力性が遠ざけられた、穏やかなこの夜明け。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
語られるものはそのどうしようもなさから抜け出す、唯一の道標…なのだろうが、あんまりにも個別の手触りで人間のの抱えた地獄を、一個一個手渡してくる作風に、博愛は正しすぎるがゆえに弱い。
同時に亡者の想念を、もう一人たりとも背負えないと思い詰めてるトルフィンの思いは、けして嘘ではないだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
薄っぺらい教条主義ではなく、後悔に殺されず暴力に同化もしない、なんとかして自分が自分として生きていく唯一の決断として、殺さず殺されない道を進む。
そこには、青年の赤い血が滲む。
アルネイズが胸の残り火に後押しされて、夫の傷へ触れるしかなかったように。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
家族を守る戦士たり得なかった後悔が、ガルザルを獣の領域へ押し出すように。
燃え盛る憎悪を理不尽に叩きつけようとして、エイナルが真夜中飲み込んだように。
それぞれの人生にそれぞれの物語があり、それが決断を生む。
決断から新たな物語が伸びて、それが様々な人を巻込み、また新たな決断をさせていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
大河のごとくたゆたう運命が、ちっぽけで偉大な人間、一人ひとりを飲み込んで流れていく物語を語る上で、大事な足場がゴリゴリ、どっしりと築かれていく。
ここら辺の重たさは、このアニメの特長よな。
アルネイズとガルザルが闇の嵐の中、舞台下手で過去に呪われて炎を燃やしたのに対し、トルフィンとエイナルは舞台の上手、未来の方向を見据えながら払暁を受け止めていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
何処とも知れない、強さだけが人間の証明ではない、自由な場所。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第15話より引用) pic.twitter.com/7q84gQdoAM
それはかつて吹雪の中、夢のような救いとして誰かが呟いた理想であり、ここまでの奴隷生活を経て、これからの戦乱を乗り越えて、トルフィンと物語が突き進んでいく場所でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
それが見据える航海は、厳しい公開を求める、物理的距離の遠さであると同時に…
1000年の時を超えて、野蛮で未開な”ヴァイキング”の常識からちったぁマシな、臆病で弱くいられる世界へたどり着いた、時間的な旅路でもあるのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
トルフィンが見据える非暴力の人道主義は、1000年早い。
それが理想であって常識でない現状を思えば、もしかしたら更に。
時代を先駆け彼方へと進む、Pioneerとしての”ヴァイキング”こそが、己が体現するべき真の戦士なのだと気づくことで、トルフィンは光はより強くなっていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
しかしそれはあくまで、天文学的単位に隔たった遠い理想でしかない。
弔慰と憎悪の混じった深い陰りが、戦士たちに長く伸びる。
ここで奴隷二人、ようやく見つけた答えを遮るように、ガルザルとアルネイズの愛憎は既に燃えてしまった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
それは今、目の前にある嵐だ。
激しい風の前に、朝焼けの弱い光は簡単にかき消え、松明の炎だけが熱く焼け残る。
守るためには殺すしかない、乗り越えがたい矛盾とともに。
エイナルが良いカウンターウェイトになることで、トルフィンが豁然と悟る遥けき理想は、お花畑へぶっ飛ばない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
確かに叶え難く脆い夢なのだが、それを手放した結果何が横行し、踏みにじられ、それでも生き延びてしまった人たちがどんな塗炭に悶えているか。
既に書いているし、これから更に描く。
ただ生き延びることがあまりに険しい時代、選び取ることは狂気でしかなかった、別け隔てのない優しさ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
殺し殺される輪廻にとらわれない、真の強さ。
父達が求め掴めなかった夢を、トルフィンは己の信念として朝焼けに掴みかけていて、ひどく現実的な嵐が目の前、それを試しに来る。
正しい夢を見つけたからといって、現実という荒野が理想郷に変わるわけではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
では遥かな大地を引き寄せ、たどり着くために人が出来ることは、一体何か。
風に踊らされ、炎を巻き上げることが答えではないことは、既に示された。
そうなるしかない、人間の小ささと激しさも、また。
業と理想。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
とても大きなモノを嵐と炎、美しい朝焼けに見据えつつ、あくまで一人の人間が悶え苦しみ、何かを選ぶ手応えを大事に描く、とてもこのアニメらしいエピソードでした。
光に照らされ、見えなかったなにかに気づいてしまうことは救いであり、新たな苦しみの始まりでもある。
業炎と陽光、その手触りは違えど”明かり”となりうるものを画面に置くことで、知恵やら愛やら綺麗に思えるものが、どんだけ危ないのか、もう一度描く回でもあったかな。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月18日
それでも、知ってしまえば進むしかない。
人が人であるがゆえに生まれる物語は、まだまだ続く。
次回も楽しみです。