イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

君は放課後インソムニア:第10話『姉はん星 乙女座スピカ』感想

 熱い夏が今幕を開ける……九曜高校天文部、天体観測合宿遂にスタートの第10話である。
 といってもその前景を丁寧に追いかけるエピソードで、焦りなくゆったり丸ちゃんと伊咲ちゃんの夏に寄り添っていく足取りが、いかにもこのアニメらしくてよかった。
 丸ちゃんが眠れなくなった理由が掘り下げられたり、白丸先輩がありがた可愛かったり(これはいつものこと)、早矢お姉ちゃんの”人間”が凄い迫力で迫ってきたり、助走の段階でどっしりした手応えがあった。
 丸ちゃんが『自分は伊咲さんのこと、半分も知らないですけど』と言っていたけども、外野から勝手に誰かを解ったつもりになって、哀れみを抜き身のまま手渡して泣かしてしまうような不誠実よりも、じっくり時間を使って分からないことをわからないまま、分かろうとしていく歩みこそが、このお話の強さだ。
 思えば物語が始まったときから丸ちゃんはそういう人であり、お祖母ちゃんの家で生活を共にする中で、間近にそういう人格を感じ取ったからお姉ちゃんはずっと大事に握りしめてきたバトンを、生真面目少年に手渡すつもりになったのだろう。

 家族だからこそ、あの涙を見届けたからこそ、特別扱いなんてしてやらない。
 早矢お姉ちゃんの誇り高い優しさと同じものが、血の繋がりも日常の共有もない他人から出てきたことは、伊咲ちゃんを大事に思い続けてきたお姉ちゃんにとって、とても嬉しくて、ちょっとだけ寂しい真夏のサプライズだったのだろう。
 それぞれの辛さに身を置きながら、可哀想でも不幸でもない、眠れぬ夜の重荷を共に分かち合ってもらえる、特別な誰か。
 そんな存在と出会って始まった物語が、熱気の中を駆けていく。
 なんとも、眩しくて切ない。

 

 

 

画像は”君は放課後インソムニア”第10話より引用

 つーわけで物語は合宿前の家庭訪問から始まる。
 冗談交じりに砕けた態度の早矢お姉ちゃんが、何を思って妹と接しているかは後半解ってくるが、その打ち解けた柔らかさは中見家のどこかぎこちない硬さとの対比で、結構重たい。
 ベランダで家族の話をする時、丸ちゃんは伊咲ちゃんに表情を見せないように振る舞っていて、窓ガラスの向こう側にこそ彼が眠れぬ理由が確かにあることを、静かに物語っている。
 お父さんはけして悪い人ではなく、というか何処か丸ちゃんに良く似た不器用な生真面目が、意識しないまま柔らかな棘のように飛び出している人で。
 これが触れ合って生まれるノイズが、丸ちゃんを自分の思いをなかなか口にしない頑なで、だからこそ眠れず弱みを見せれない青年に育てていったのかな、と思わされる。

 何もかもが上手くいくのだと、無邪気に信じられた時代から母が去って、丸ちゃんは受川くんが憧れたようなスーパーマンではなくなっていった。
 否応なく成長していく身の丈を、呪うかのように母がいた時代の靴を履き続けて、その理由を父には告げられない。
 そんな彼の根源を倉敷先生がしっかり聞き届けていてくれていることが、僕にはやっぱり嬉しいのだけども、頑なに愛という名の捨てられない荷物を抱え込んで、周囲に理解されず立ちすくんでいる丸ちゃんは、未だ幼い部分を強く残している。
 同時に他人の痛みが分かりすぎるほどに分かり、そこに手を届かせるために青春街道を爆走出来てしまう男でもあって、成熟と未熟の摩擦熱が生む成長痛が、彼を眠らせないのだと分かってきた。
 これはある種の答え合わせであって、彼の気骨に惚れ込んで見守らせてもらったこのアニメの中で幾度か、夜闇に漏れる星明りのようにその痛みと優しさが、強く滲んでもいた。

 眠れぬ理由は知らずとも、自分を真っ直ぐ慕う後輩がどれだけの人間なのか、白丸先輩はよーく知っていて、だから照れながらも同じく真っ直ぐな言葉を、手渡してくれる。
 倉敷先生が白丸先輩の、心のコンクリートがまだ乾ききっていない時代に確かに寄り添ってくれた事実が、今彼女が立っている場所に納得を与えてもくれる。
 そういう風にかつて、優しい人が手渡してくれたものを今、かつての自分に似た姿勢で震えている少年に差し出す手付きは、誠実で可愛い。
 本当にいい写真は、ときめきとともにシャッターを切る。
 小っ恥ずかしい写真術の秘策と、この夏が中見丸太にとって善いものであるようにという祈りを受け取って、遂に合宿が始まる。
 色々苦しいことがあって、今なお辛い日々を送っているけども、丸ちゃんの側に彼を愛してくれる人たちがそっと立っていてくれている風景が、やはり僕には嬉しい。

 

 

 

 

画像は”君は放課後インソムニア”第10話より引用

 んで……どんなときめきが中見丸太に最高の写真を取らせるのかって、”正解”がもう速攻飛び出してきちまってるからよ!
 丸ちゃんが桜の下で微笑む姿を取りたい相手は、当然のことながら曲伊咲であり、この燃え上がる胸の高鳴りを一袋どこへ持っていったもんか、早矢姉という異物を放り込むことで化学反応を加速させるぜぇ!!
 相変わらず情景を描く筆先が繊細かつ鮮烈で、丸ちゃんが何もない港町に感じた『あ、なんか良いな……』という喜び、思わず探検にハシャイでしまうドキドキが、しっかりと見ている側にも伝わってきた。
 写真を扱う以上、こういう勝負どころの風景がしっかりフォトジェニックに描けているかは大事なことで、こういう所を怠けないアニメなのはつくづく偉いなー、と思う。

 そんな素敵な場所は曲姉妹にとっては慣れ親しんだ故郷であり、飽き飽きとうそぶきつつも秘められた思い出が、触れるものの全てから溢れる場所でもある。
 『お姉ちゃんだから』というお呪いで、何もかも後回しに過ごした日々は適切に早矢姉を屈折させているが、しかしそんなドチビ妹にムカつきながら共に生きた日々は、彼女にしか見えていない星を、確かに闇の中見つけさせていた。
 お姉ちゃんをレフ板にして、家族にとって伊咲ちゃんがどう見えているのか、眠れぬ夜の添い寝の相手である”死”とどう付き合ってきたかが、段々と鮮明になっても来る。
 それを預けてもいい相手なのか、見極めるために合宿お目付け役を引き受けた部分は、かなり大きかったのだと思う。

 

 慣れ親しんで何も新しいものなどないはずの風景に、意外な美しさを見出す。
 白丸先輩も太鼓判を押した、覚醒しつつある写真家の目を通して、お姉ちゃんは思い出にもう一度向き合い直す。
 胸に宿った爆弾を、憐れむのではなくただ、当たり前に隣りにいる。
 それは無関心な冷淡ではなく、時にいがみ合いながら対等を心がける誠実そのもので、つまりは中見丸太が折れ曲がりがちな背骨を、真っすぐ伸ばしているのと同じ心意気だ。
 そういうものを間近に感じ取ったから、夕日の中で二人きり大事な話ができるようにお茶目な小細工をして、カマかけて淡い慕情を、揺るがぬ生真面目を確かめた。
 普通じゃない、可哀想と思われ弱者と扱われてきた妹が、自分の心音を預けるに足りると思えた、特別な少年の素顔を見た。

 ここで早矢姉が、丸太の人品をしっかり己が眼で確かめようとする所が、本物の妹LOVE過ぎて大変良かった。
 世間の哀れみに傷つけられ、『これが良いんでしょ?』と押し付けられた偽物の平等に泣きじゃくった、その素顔を見届けているから、不埒者には預けられない。
 いざとなれば盾になる覚悟で横入りした合宿で、確かめた少年の素顔はどこか、自分に似ていた。
 だから、大丈夫だと思えたのだろう。

 丸ちゃんは託されたバトンが一体何なのか、名前をつけられないまましかしその中心を、しっかりと受け取って握りしめる。
 お姉ちゃんが大事にしてほしかったものを、丸ちゃんはずっと大事にしてきたからこそここまで、伊咲ちゃんと一緒に天文部をしてきたのだ。
 明るく笑いながらも眠れない辛さを、少しでも和らげたいと二人だけのラジオをやり、同じ星を見上げ、雨の中寄り添い、その笑顔を写真に収めてきた。
 目の前にいる曲伊咲という少女を、ときめきに色づいたレンズでしっかり見つめて、心のフィルムに焼き付けてきたのだ。
 そういう男が、このアニメの主役である。
 やっぱさぁ……俺、丸ちゃんが好きだよ。

 

 という感じの、合宿準備から初日でした。
 お姉ちゃんが愛妹に近づく星の素顔を確かめる歩みが、丸ちゃんがどんな少年だったかをもう一度僕らに確認させ、今までよりクリアな形で伊咲ちゃんの魂を教えて、大変良かったです。
 生きることを怠けられない人たちが、だからこそ包まれる苦しさと優しさを、一個一個削り出していく。
 そういう作品の筆致を、今一度味わうような、とても良いエピソードでした。

 んで……お邪魔虫も彼ピと自分の人生に巣立っていった今、二人の熱い夏を妨げるものは誰もいねぇ!
 旅、同居、天体観測と真夜中の写真撮影!!
 灼熱の青春爆弾が多数待ち構える、放課後インソムニアアニメファイナルラップ
 一体どこまでのときめきが、俺たちの魂を吹き飛ばしていくのか。
 ときめきの導火線に、もう火は点いちまってんのよー!!!
 次回も大変楽しみです。