鏡合わせの憎悪と偏見が、隠し通路になだれ込む。
ついに始まった人狼村大虐殺に、名探偵の推理も唸る……アンデッドガール・マーダーファルス第12話である。
入れ替えトリックに隠し通路、結構古典的な道具立てで進んでいく人狼村事件であるが、推理だけで終わらずロイスに扇動され生々しい衝突も飛び込んでくるのが、なかなか派手でいい。
怪異を啓蒙の光で駆逐し、鉄で引き裂き炎で炙って成立している近代市民社会のハラワタが、どんな味わいなのかを最後の最後見られた感じがある。
かつて公権に与していた津軽も全くおんなじ調子で化け物を駆り立て、近代国家の尖兵として駆けずり回って、明日も定かでない半化けに貶され欧州に流れ着いた。
別に二つの村だけが時代遅れの血生臭さってわけではなく、近代的理性で化粧した世界を一皮むけば、こういう中世の蛮気がムワッと漏れ出てくるのだろう。
ロンドンでは感じ取れなかった生活感ある悪臭で、大変良い。
化け物狩りで成立している異世界を設定するのであれば、こういう最悪が炸裂する瞬間をこそ、僕は物語の息吹とともに吸い込みたいのだ。
どう足掻いても最悪な虐殺と無理解の奥で、一体何がうごめいているのか。
前回静句がたどり着けなかった場所へ、津軽を手足とする首だけ探偵は明察を投げかけ状況を解体していく。
隠し通路を使った移動トリック、既に死んでいた犯人候補、憎悪を加熱するように積み上がる少女たちの死体。
それがどんな絵を描くのか、人狼と人間、<夜宴>と保険屋と<人形遣い>の衝突に合わせて、一気に駆け抜けて欲しいものだ。
前回の出オチっぷりが強烈なので、ちったぁロイスにも善戦して欲しいもんだが、虐殺の先導に成り果てたところで『なんかヤバイかもな~~』感がもっさり出てきた。
ワトスンくんが超普通につええ軍隊格闘技おじさんだったように、フランケンシュタインの怪物も原典を尊重したインテリマッチョとして描かれていて、そこら変大変好きなので、まー<夜宴>の勝ちでいいかな……って感じはあるけど。
いやでもカーミラはざっくり静句さんにぶっ倒して欲しい感じあるな……アイツの淫蕩さ、あんまありがたくない感じに描かれているのはとてもいいと思う。
『所詮お前らは、俗悪なゴシックノベルの登場人物なのだ』と、冷静に作中人物に向き合っているときの味わい。
いかつい外見に似合わず理性的なヴィクターくんと取引をして、人狼村へと進んでいく鴉夜と津軽。
行動を共にしていたロイスが後に引き起こす蛮行を思うと、あくまで取引相手程度にしか体重を預けず、利用し利用されて目的に近づいていく関係を維持しているのは、適正な対応だと思う。
<夜宴>は身につけた魔技をボンボコブン回して、無辜の人民ぶっ殺して回ってる印象があんまりにも強いので、ヴィクターくんの冷静な距離感は新鮮な味わい……というか、取引するならこの間合いが必須なんだけどさ。
前回静句がどんだけ走り回っても拓けなかった道は、鴉夜と津軽が現場検証を進めるうちに一気に整っていく。
ここら辺、名探偵とその助手が有する暴力的な事件解決力を感じられて、大変に良かった。
同時に静句さんが三人娘との関係を作っていてくれたおかげで、鴉夜の調査もスムーズに進んでいくわけで、適材適所というか、成るようにしてそう成った……というか。
牢に囚われた静句が、主が身を置く鳥かごと同じ構図で不自由に向き合い、そこに冷静ながら暖かな言葉をかける鴉夜の書き方が、なかなか印象的だ。
ルイーゼの秘密を聞き届けたときの表情を見ても、鴉夜は知性の奥に微かな情をしっかり持っている存在として描かれ、ヘラヘラした嘲笑を崩さずに殺しも騙しも思いのままな津軽とは、ちと味が違っている。
このキャラクター性の差異が、三人一組の一座を組んで進んでいる良きチーム感を際立たせてもくれて、キャラ描写として面白い回でもあった。
ここら辺、素朴で純粋なヴェラちゃんがサイドキックとしていい仕事して、より良い感じに匂い立ってる感じもある。
名探偵の慧眼が探り当てた地下通路は、人狼村と人間の村が隔絶されているという前提を切り崩す。
地下深く、幾重にも重なった死体が何を語るかは次回、輪堂鴉夜の長広舌を待ちたいところだが、これまで示唆されていたように分断されたように思えるものは背中合わせに繋がっていて、歪な鏡越しに写っているのは自分自身の姿だ。
少女たちの骸を薪にして、加熱した憎悪はついに炎になったわけだが、そんな風に人も狼も大した変わりがないと暴き立てることが、犯人の目的なのだろうか?
死者と生者の境界線、真実と虚偽の分水嶺も、また危うく揺らいでいくだろうが、ここまでチラチラ見せてきたヒントをどう映像としてまとめ上げて、説得力の在る推理を編むかも、また楽しみである。
名探偵が暴いた通路を通って、隔絶されていた人と狼は暴力的衝突を果たす。
この世界のあらゆる場所で繰り返されてきた、人と化け物の殺し合いをせき止めるでもなく加担するでもなく、津軽は軽薄にブルートクラレを潰し、鴉夜はノラを探偵助手に指定して推理の詰めを行う。
ここでも静句が離別に見せる湿った情愛、それを受け止め送り出す鴉夜の微笑みが印象的で、ヴェラはそんな柔らかな感情に敏感だ。
人間が自分の内側にある獣性をむき出しに、あるいは獣が人間の薄汚い憎悪に染まって村が地に染まる中で、そういう柔らかなものが微かな救いなのだと、思いたくもなる。
津軽は徹底して身軽に軽薄に、あらゆるモノを嘲笑いながらこのお話を飛び跳ねてきた。
ジャック相手には遅れを取った(が、手妻の冴えでギャフンと言わせた)、やっぱ尋常の化け物相手には鼻歌まじり、殺戮すらも気楽にやってのける実力が、彼をいつでも本気にさせない。
殺しに対しニヤニヤ笑いを消さないのは冒涜……とは、殺しに対し青筋浮かべて本気すぎる村人たちを見ると、なかなか言い切れない。
人間と化物が居場所を巡って潰し合うこの世界で、ありきたりで面白くないシリアスな殺戮を笑い飛ばせるものが、主役の一人にいることは結構大事かなと、血みどろのアクロバットを見ながら感じた。
狂って薄汚れた世界を舞台にするのだから、主役たちにも過剰な正しさではなく、グロテスクな歪み、軽薄な嘲弄を背負わせて、世界観に相応しい手応えを生む。
そこら辺のハマり具合を、改めて確認する最終話一個前である。
同時に主人公全員がなんもかんも笑い飛ばす人でなしだったら、いかさま飲みにくい話になっていただろう。
だから鴉夜が『優しい人』なのだとヴェラが気づくこと、それを鴉夜が重く受け止めず軽く微笑むことは、結構大事なのだ。
世界の真実を暴いてしまう特別な瞳を、冷静に使いこなしながらも、鴉夜は真理の装置には堕さない。
世にも珍しい不死の魔物として、長い時を過ごしながらも静句への情を保ち、優しい怪物であり続ける。
最後の証拠集めに暴いた墓に一体何があって、その腐臭が鴉夜の理性と優しさに、どんな反応を生み出すのか。
事件が決着するだろう最終話は、夏目鴉夜と<人形遣い>がどんな存在であったのか、最後にしっかり削り出してくれそうだ。
その始まりからして探偵小説はキャラクター小説だったので、そういう所が鮮明になっていくのは大事なことだね。
というわけで、名探偵が人狼村にたどり着いたことで、終わりが始まっていくエピソードでした。
そもそも猥雑で兇猛な世界観なので、謎の解明と並走してジェノサイドが始まるのは許容範囲というか、待ってましたというか(最悪の感想)。
こういうことが色んな場所で起こってるだろう、超ロクでもない世界で鴉夜が”名探偵”であり続ける意味とは何かを、次回暴かれる真実が照らしてくれると、スッキリと見終わることが出来る気がします。
次回も楽しみです。